国際部 服部 祐樹

 2024年2月17日(土)に中央支部国際部としてオープンセミナー「越境EC(オンライン)とM&A(リアル)による東南アジアマーケット進出のすすめ」を開催しました。私も実行委員の一員として準備に携わってきました。

今回は、リアルとオンラインのハイブリッドでの開催となり、登録者人数は57名、当日参加された方はリアル8名、オンライン42名でした。

セミナー概要

セミナーは3部構成とし、第1部、第2部は越境ECをテーマとした「オンライン」のすすめとして、独立行政法人中小企業基盤整備機構(以降中小機構)販路支援部 販路支援企画課課長代理 筒井康貴氏による「令和5年度・中小機構のEC活用支援策のご紹介」ショッピージャパン株式会社 日本越境EC 事業開発コンサルタントの小畑裕樹氏による「東南アジア向け越境ECビジネスShopeeのサービスに関して」という題目でご講演いただきました。第3部では、「リアル」のすすめとして、株式会社日本M&Aセンター 海外事業部 In-Out推進部マネージャーの福島裕樹氏による「M&Aコンサルタントが見たASEANの経済・市場とM&A動向について」のご講演でした。

 

第1部:筒井氏の講演『令和5年度・中小機構の活用支援策のご紹介』

第一部では、中小機構販路支援部 販路支援企画課課長代理の筒井氏からEC市場の動向、そしてEC活用支援策として同機構で備えられている各種施策についてご紹介をいただきました。

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 中小機構 筒井康貴氏

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世界のEC市場規模は右肩上がりを続ける中、越境ECも規模の拡大が進み、国内外でEC利用経験のある中小企業は36%と大企業より高い傾向があるとのことでした。また、ECを利用または検討している企業の2/3が海外向け販売でのECを活用/検討しており、今後の販売先としてASEAN、東アジアを選ぶ企業が目立っているという、他に選択肢があるかと思わざるを得ない統計情報の説明をいただきました。

*統計情報について、経産省、ジェトロ発の情報をご参照ください。

経済産業省:https://www.meti.go.jp/policy/it_policy/statistics/outlook/ie_outlook.html

ジェトロ :https://www.jetro.go.jp/world/reports/

写真2 第1部説明資料より抜粋

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活況を呈するEC市場ですが、課題となるのが、情報不足、物流や通関、返品リスクなどであり、中小企業の方がその度合いが強いとのことですが、特に海外向けのEC利用においては、「自社ブランド認知度向上の難しさ」という声が目立っています。

このような課題に対する中小機構の支援メニューとして、紹介をいただきました。それは次のようなものです。

「知る」①ECオンライン講座 ②記事(コラム、事例集)

「学ぶ」③EC活用セミナー、④EC活用ワークショップ

「実践」⑤EC活用サポートWEEK、⑥EC活用チャレンジ企画

「解決」⑦EC活用支援アドバイス
具体的には、
オンライン講座:1月末時点で140本以上の動画が掲載
記事(コラム、事例集)全て無料で閲覧可能
EC活用セミナーが開催
EC活用ワークショップ:支援機関などと共催の形式で開催しており、実践的な内容の組み込みも図られています。
⑤EC活用サポートWEEK
EC活用チャレンジ企画中小機構が認定した民間ECサービス事業者と連携し、マッチング機会を提供し、令和5年度は通年イベントとして新設
⑦EC活用支援アドバイスは、EC最前線で活躍する専門家によるアドバイスを受けられます。

これらは全て、中小機構のECポータルサイトebiz( https://ec.smrj.go.jp/ )に掲載されています。百聞は一見にしかず、まずはご覧いただき、その充実のコンテンツを実感いただければと思います。
図表1 ebiz QRコード

図表1

また、ECを始めたばかりの方向けに、どうしていったら良いかをコンパクトにまとめたECポケットガイドも準備されており、まさに至れり尽くせりといった感じです。我々診断士も、これらのコンテンツを活用し、経営者の方々に紹介しない手はありません!

ECポケットガイド                         :https://ec.smrj.go.jp/ecpocket/

EC活用支援事業の説明動画           :https://ec.smrj.go.jp/movie/

 

第2部:小畑氏の講演 東南アジア向け越境ビジネスShopeeのサービスに関して

第2部では、越境ECの具体的な担い手として数多くの企業、個人を支援しているショッピージャパン(Shopee Japan)日本越境EC 事業開発コンサルタント の小畑氏から、越境ECの現状と同社のサービス概要についてご説明をいただきました。

写真3 ショッピージャパン 小畑裕樹氏

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越境ECはEC市場以上の伸び率で拡大するとの見通しを示された上で、なぜ東南アジア越境ECが注目されるのか、という点については、「経済成長率の高さ(実質GDP成長率が平均4%以上)」、「インフレ率が平均4%以上で推移」、「インバウンド需要もあり、日本の越境セラーがまだ少ないブルーオーシャン」、そして「円安」という4点を挙げられ、日本企業にとっても大きな機会であることを再認識しました。

Shopee社は、Sea Groupという東南アジア市場を牽引するIT企業を親会社に持つ、シンガポール発の東南アジアおよび台湾最大のネットモールです。2022年の世界ショッピングアプリランキングでは、ダウンロード数が世界で第3位、グローバルブランドランキングにおいては、2022年で第5位の知名度を誇っており、クリスティアーノ・ロナウドやジャッキー・チェンなどの国際的スターをアンバサダーに起用し、知名度も急速に伸びています。

 

写真4 当日のZoom画面より抜粋

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 日本におけるサービスは、2018年に開始され、2020年に日本法人が設立されました。出店者(セラー)が自ら運営する「自社運営モデル」と、代理出店事業者が運営し発送も行う「パートナー代理運営モデル」の2つのモデルでサポートしています。現在はシンガポール、台湾、タイ、マレーシア、フィリピンの5カ国に対応しており、ベトナムも準備中とのことです。(新規出店時はタイ以外の4カ国から選択可能)

出店者には、ブランド・メーカーだけでなく、中古品販売業者や個人も多く活躍されています。日本越境販売においては、日本から発送すること、5商品以上を出品するなどいくつか条件はありますが、国内在庫で対応でき、出品手数料が無料、物流や言語のサポートも備えていることなどが強みで、最初の一歩のハードルが低く設定されている印象です。

現在人気のカテゴリは、コスメ・美容・健康商品や食品、家庭用品で、最近ではベビーケア、ホビー、アウトドアブランド商品も伸びています。集客にはデザインや商品の見せ方など様々な工夫が必要になりますが、Shopeeでは、販促プログラムやサイト内の広告展開、メガセールなどの各種施策が用意されており、実際にこれらを活用することで右肩上がりに成長させているショップも存在しています。

アカウント申請にあたっては、3ヶ月間のセラー教育プログラムや、カスタマイズされたサポートを受けるプラン等も用意されており、不安を最小限に抑えながらスタートが切れるのではないでしょうか。

中小機構が提供するコンテンツでノウハウを学びながら、実際にShopeeで販売を始める、という流れは十分に考えられます。各種サポートプログラムを含め、Shopeeについて詳しくお知りになりたい場合は、まずは下記URLからお問い合わせください。

ショッピージャパンお問合せ: https://help.shopeejapan.jp/hc/ja

 

第3部 福島氏講演 M&Aコンサルタントが見たASEANの経済・市場とM&A動向について

第3部は日本M&Aセンター海外事業部 In-Out推進部マネージャーの福島氏によるASEANにおけるM&A動向のお話でした。

写真5 日本MAセンター 福島裕樹氏

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 日本M&Aセンターは、「M&A市場のプラットフォームとして、会計事務所や金融機関とのネットワークなどを生かしながら、譲渡企業と譲受け企業の仲介を行っています。売上高20億円以下の中堅・中小企業の取り扱いが9割以上を占めていますが、日本の中堅・中小企業においては、2025年までに約60万社が黒字廃業の可能性があり、潜在顧客も非常に大きな市場といえます。この問題を放置すると、大量の雇用やGDPが失われることにもなり、日本全体の大きな課題解決に向き合っているといえます。

福島氏によると、実は海外においても高齢化は進んでおり、潜在ニーズが増えているそうで、日本M&Aセンターでは、日本のビジネスモデルを海外展開できるとの考えから、シンガポールを皮切りに、現在は海外5カ国に拠点を構えています。現地の会計事務所や金融機関などと提携し、各国で優良な案件を発掘し、日本企業の海外進出促進を支援されています。

M&Aというと大企業が行うイメージもあり、まして海外M&Aというと中小企業にとっては格段に敷居が高い印象がありましたが、福島氏は中小企業における海外M&Aの必要性として、日本の人口減、海外の成長率と金利の高さを挙げられました。また、自前で海外展開を図ろうとすると初期の調査から事業の安定化まで数年かかるのは必至で、その間に市場の魅力が陳腐化してしまう恐れがありますが、M&Aは中小企業が直面する“人、モノ、カネ”の問題を解決する有効な手段になるという説明もありました。

写真6 当日のZoom画面より抜粋

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東南アジアといっても、国ごとに環境は異なり、例えばシンガポールのようにクリーンでM&Aも比較的進めやすい国もあれば、ベトナムのように人口も成長率も高く市場の魅力はあっても、財務の透明性が低く様々なリスクを抱える国もありますが、こうした課題を乗り越えるだけの魅力もあるのだと感じました。

また、買うことばかりがM&Aの選択肢ではないことも、改めて教えていただきました。取引先の要請に応じて海外に進出したのはいいが、ローカル企業との競争で苦戦し、かといって撤退にも費用がかかるためスタックしてしまっている企業も多いそうです。このような場合には、売り手としてM&Aを実施することが、雇用も守られ有効な手段となります。

最後に、オーナー企業によるM&Aは国を問わず同じで、社長にとって従業員は家族、会社は子供みたいなものであり、売却は娘を嫁にやるようなもの、という言葉が印象に残りました。我々診断士も、経営者の想いをしっかり受け止めた上で、M&Aを遠い世界のものと考えず、経営戦略上の選択肢として準備し、同社のような支援機関と連携できるようにしておくことが大切なスキルであると感じました。

 

おわりに

今回のセミナーでは、東南アジア市場の魅力を再確認できたとともに、ECへの取り組みに対しても、M&Aに対しても、我々の心理的な障壁を取り除くのに十分な気づきを得られたと思います。また、このような学びに加えて、登壇された御三方のプレゼン能力の高さにも感銘を受けました。信頼され、相談してもらえる立場になるために重要な要素に気付かされたセミナーとなりました。

(追伸)
出席者による事後アンケートでは、声が途切れる場面があったことへのご指摘もいただきましたが、全体的に非常に満足度の高いセミナーという評価をいただいたことも申し添えさせていただきます。これを励みに改善すべきことは対応し、よりよいセミナー運営を検討してまいりますので、次回のご参加もお待ちしております!

写真7 セミナー当日の様子

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■服部 祐樹(はっとり ゆうき)

2023年12月中小企業診断士登録。東京協会中央支部国際部所属。ワインソムリエ。酒類事業会社および持株会社において広報、経営計画策定等の業務を経て、現在はM&Aや新規事業運営に従事。