国際部 阪本晋

私は、昨年2023年10月から本年2月まで、JICAの課題別研修(投資促進・ビジネス環境整備(A)(B))に事務管理者として参加しました。地域別を考慮し、AとBの年二回コースとなっており、コロナ後初のオンラインと訪日のハイブリッド形式で行われました。

■研修概要

JICA課題別研修とは、日本が有する知識や経験を通じて新興国が抱える課題解決に資するためのものです。本コースは、海外直接投資(FDI)の誘致に必要な政策・制度の策定やビジネス環境の整備、実践的な投資促進ノウハウの理解を深めることが目的となっております。
・主催者: 独立行政法人国際協力機構 (JICA)
・受託者: (株)ワールド・ビジネス・アソシエイツ(WBA)
・研修期間: 2023年10月30日~2024年2月2日(土日、自習日を含む)
・参加国: アフリカ・中欧・アジア13か国(Aコース:ガーナ、ナイジェリア、マラウィ、エチオピア、ザンビア、ボツワナ、セルビア、Bコース:ウズベキスタン、カザフスタン、スリランカ、バングラデッシュ、ネパール、フィリピン)
・参加者数: 合計13名
・研修対象者: 各国の投資促進・ビジネス環境整備を担当する行政官(準高級クラス)

■ホットな話題:経済安全保障など

研修における講義は、「グローバル・バリューチェーン・リンケージ」、「産業クラスターの育成」、「日本企業による海外展開戦略の例とリスク」などをテーマに、大学・支援機関などから実施頂きました。加えて、今日極めてホットな話題となっている「経済安全保障」という意欲的なテーマを取り上げて、研修参加者の高い関心と活発な議論を呼びました。

■久々にインパクトのある訪日研修

コロナ禍が明けて、今回は訪日研修が可能となり、日本の投資誘致機関を数多く視察することが出来ました。ジェトロ本部を皮切りに、東京都の「東京開業ワンストップセンター(TOSBEC)」を訪問し、法人設立や事業開始時に必要な行政手続(定款認証・登記・税務・年金/社会保険・入国管理)を1か所で相談員が申請書類の受付までサポートする現場を目にすることが出来ました。
また、民間企業3社を訪問し、海外市場開拓への取組などのケースを講義頂くとともに、実際の製造ラインや製品の展示室を視察して日本企業の足取りを実地体験しました。また個別企業のみならず、アフリカ開発協会/日本バングラデッシュ協会との対話会を開き、日本企業が海外進出に当たり抱えている生々しい課題などについて意見交換をしました。

■日本の投資家向け海外投資促進ハイブリッドセミナー

研修の集大成として最後に、日本企業や投資家を対象とした公開セミナーを(A)23年12月5日と(B)24年1月18日に開催し、各国研修員が、研修プログラムで学んだ知見を活かし、自国への投資・進出に興味のある日本の潜在的投資家に対して自国の魅力を直接発信しました。(写真1、2参照)

image001写真1 アフリカ・中欧の投資セミナー(A) 登壇者と在日大使館ほか関係者

image002写真2 東南・南・中央アジアの投資セミナー(B)登壇者

ウェビナーには、AとB併せて、オンライン約100社、会場約40社と数多くの日本企業、投資家など、関係者の参加を得ることができました。業種としては、商社、IT、製造業、建設業、化学、食品、法律税務コンサルタント、大学・研究機関などでした。
各国の行政官の方々が、高い専門知識の下、創意工夫を積み重ねてきた施策を広く発表し、その取り組みを知っていただく大変良い機会となりました。加えて、リアルの会場運営ならではの試みとして、各国紹介ブースと投資家企業との面談スペースを設け、積極的な意見交換と具体的な商談が行われる貴重な場となりました。(写真3参照)

image003写真3 併設した面談ブースの様子(セルビア)

■今回垣間見た各国の表情

ここから、今回参加した国において、日本では意外と知られていない、興味深く、先進的な側面をお伝えしたいと思います。

◇ナイジェリア/ガーナ ~ 共に西アフリカ産業立国の雄

ナイジェリアへの日本の直接投資額は、2007年から2019年までの累計で3,800万米ドルとなっており、主要な進出企業は、日産、ホンダ、パナソニック、キヤノン、味の素などがあります。ナイジェリアには、14か所の経済特区と16か所の自由貿易地域があり、交通の利便性向上など、政府は更なる企業誘致に力を入れています。
ガーナでは、豊田通商グループが、西アフリカでは初となる車両組立会社を設立しています。トヨタのピックアップトラック「ハイラックス」をSKDで生産しています。生産能力は年間1,300台、投資額は約700万米ドル、従業員数は約50人です。このように両国では、日本の製造メーカーの誘致が積極的に図られ、実績を得るに至っています。

◇カザフスタン ~ 中央アジアのIT先進国

同国では、納税申告、許認可の取得、政府納付金の支払いなどに電子政府サービスが導入されています。2023年には、有限責任会社(LLP)の登録を迅速かつ簡単に行うことができるようになりました。銀行モバイルアプリケーションを通じて、ユーザーは生体認証(指紋認証や顔認証など)を使ってログインし、「LLP登録」サービスを選択、必要項目を全て入力し、申請書に署名すれば即座に事業活動開始の通知が届き、同時にLLPの銀行口座の開設もしてくれます。これは一例ですが、行政の電子化には目を見張るものがあります。

◇セルビア ~ EUへの秘めたるゲートウェイ

2022年10月、ニデック(旧日本電産)は車載用モータの欧州での効率的な供給体制を構築すべく、グループ生産活動の集約拠点としてセルビアに新工場を設立しました。欧州の環境規制強化と主要国での自動車の CO²排出量規制厳格化を受け、需要拡大が見込まれ、更なる量産も予定しています。同国では他に、日本たばこ、NTTデータ、矢崎総業などの大手企業も進出を果たし、地の利を活かしたEU市場へのゲートウェイとなっています。

■最後に所感

今回の研修およびセミナーでは、各国が知恵を絞り切磋琢磨して自国への産業誘致に努めている姿を目の当たりにしました。リアルならではのセミナーとして、各国の在日本大使館から、大使、公使、一等書記官など多くの関係者に参加頂きました。セミナーの登壇者はもとより、これら皆様から自国の魅力を発信頂き、大使館の支援を得ることが、いかに強力な応援団となるか実感しました。
一方で日本の現状に目を転じてみると、どうでしょうか。日本でも様々な外国企業の誘致施策が図られていますが、言語対応、オンライン対応やDX化など政府手続きの整備において、まだまだ改善していく余地があると思います。

2023年6月に改訂された開発協力大綱において、基本方針の1つとして、途上国との社会価値の「共創」と日本社会への「環流」がうたわれました。これは、海外の知見や先進的な事例から、対等な立場で日本が学ぶべき段階に来ているということを意味します。

日本も諸外国の施策に学び、外国企業の創業支援や地方の経済特区戦略など、今以上に創意工夫を重ねて、人口減の潮流においても持続可能な経済社会を築いていくことが求められます。いかに海外のスタートアップなど、インバウンド投資を獲得して、人的・知的資本を高め、経済社会の活性化を図るか、これからの反転攻勢を狙う日本の国策として問われていると言えます。

■ 阪本 晋 (さかもとしん)

中小企業診断士(2010年登録)、東京都中小企業診断士協会・中央支部・国際部部員。電機メーカーをへて現在関連会社勤務。(株)ワールド・ビジネス・アソシエイツ所属。

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