Global Wind (グローバル・ウインド)
南ア便り第4号

JICA短期シニア海外ボランティア 五十嵐 至

 皆様からエボラ熱感染の心配はないか、犯罪被害の心配はないかとのご心配をいただいていますが、幸いにも今のところ、心配はなさそうです。エボラは西アフリカ(アフリカの最北端西側にあたります)に発生していて、南アフリカにも便があるようですが、今のところ水際作戦をとっているようです。
 また犯罪被害も著しく高く、在日大使館から警戒注意報が発令されましたが、対象地域は首都および特定地域にほぼ限定されており、また私の周囲は極端に犯罪が少ないのではと思えるぐらい穏やかです。それに私を知る人間が数多く居てくれるようになったので、どこにいっても声をかけられ、いざという時には助けてくれる安心感があります。
 読者からの質問で、南アはすでに経済的にも発展し、アフリカの中でも最先進国にあるのに、日本がこれ以上支援し続ける必要性があるのかという疑問をいただきました。
 確かに南アフリカは、マンデラさんが人種差別問題を1994年(まだ20年です)に解決しましたが、その後も決して白人の支配がなくなったわけではありません。 一部の資産階級はその富を国外へ持ち出し、残った白人社会も相変わらず経済的に優位な立場を守っているわけです。日本のように農地解放が行われたわけではありません。
 また産業といっても、ダイヤモンドや金は、以前から権益を得ていた白人社会のスキームがそのまま残っていますから、最もおいしい部分は吸い上げられているのが実態だと思います。
 私のいる北方の小さな町にも広大な面積を擁す白人農場経営者が先日78歳で亡くなられ、葬儀に出席してきました。この農家は100年以上続いているそうで、面積にして3万ヘクタール以上という途方もない農地を所有しています。この方は徳が高く黒人たちからも慕われていたようですが、私のいるNPO社会福祉法人への多額の寄付と食料の提供をしていただいています。
 日本の農業者の平均耕作面積が1ヘクタールにならないのですから、いかに広大な面積を要しているかをご想像いただけると思います。かつて、新潟県岩船郡越後下関という地に渡辺氏という庄屋(豪商)がありましたが、この方ですらもここまでは大きくなかったと思います。実質山林を含まないので日本よりも1桁上回る面積になると思います。
一方経済的には現在失業率が24.74%(国連のミレニアム開発計画、MDGsの報告書当時40.8%とお伝えしましたが、昨年の報告書から大幅に改善された事は窺えますが依然として高い失業率の為、政治も経済も不安定です)という状態にあり、数年前にワールドカップサッカーを開催したとはいえ、貧困状態から抜け出したとは言えないと思います。MDGsの最終年度が2015年なのですが、南アの予測ではゴールを達成困難と判断しているようです。
 もっともアフリカ50数か国の他の国と比較すれば優等生には違いありません。(添付にご紹介しましたが南アは2011年にBRICS;ブラジル、ロシア、インド、中国、南アの一員として新興5か国の仲間入りを果たしています。)
 ただ、白人の支配下にあったころの負の遺産として教育問題が尾を引いています。初等教育で数学、科学の知識をおろそかにされてきたため、教育者ですら数学(算数といったほうがよいでしょう)の知識レベルは低いです。従って、大学生でもこの辺の基礎知識は低いといえます。
 一方、人種的には相互互助の精神(ウブントと言い、貴方がいるから私がいる)が働いており、金はなくとも何とか食べてはいけるというのです。都市社会ではありえないようですが、地方では親戚縁者が支援しているようなのです。具体的には10代の女性の出産が多く結婚もせず、父親が居なくとも平気で親が面倒を見ているというのです。国の育児手当も成年に達するまでは月額300ランド(日本円に換算して3千円、成人一人当たり最低生活費が地方で2万円から3万円だそうです)ですから僅かとは思うのですが。
 というわけで、職場の雰囲気でも感じるのですが、あまり勤勉さは感じません。東南アジア諸国の人種の勤勉で向上心が強いというのとは別世界のようです。なぜかは、歴史的な背景なのか、過去の社会制度の名残で所詮努力しても無駄という概念が定着してしまったのかはわかりません。
 もう一つ象徴的なのは、犯罪の発生率が非常に高いことです。幸いにも私はめぐり合わずに済んでいますが、日本の10倍以上と言ってよいでしょう。ただ自殺者の数字は極端に少なく日本がむしろ異常なのでしょうね。日本人も結構被害にあい、大使館、JICAからの注意報がしょっちゅう出ています。実際、わずか携帯電話ごときものでも奪うために平気で人を殺すというのですから恐ろしいことです。
 この国の産業についてこちらの知識人(高校教師)と話してみたことがあるのですが、工業は当分アジア社会に比して競争優位にはなり得ないと思います。もう一つ鉱業ですが、これも先ほどのとおり白人社会に独占されている加工技術とマーケットをどのように解決するかが課題だと思います。残るは広大な面積を誇る(日本の4倍)農業ですが、これも労働集約産業で現状では低賃金にしかなりません。
 私の試案では、漁業(ケープタウン)から水揚げされるマグロその他の産業を育成することと、現状広大な面積からほぼ自然農法で収穫できるマンゴー、パパイア、アボカド、マカデミアンナッツなどを輸出することに可能性がありそうですが、日本のように品質基準があまりにも高いことが障害になるのではと思います。日本人の消費者の発想の変革が求められそうです。
 余談ですが、広大な面積に3分の1の人口なので、かつての香港のように日本と借款条約を締結し、日本人社会を構築させてはとも思います。一方で、現在日本の若者が抱えている問題を国際社会での生き方を学ばせ、閉塞感のある日本から大きな可能性を探る意味で、若者に研修を促すのも効果的かとも思います。いずれにしても日本人が国際社会で生き残っていくためには英語と異文化の発想を理解し受け入れられるようになることが必要ではないでしょうか。
 参考までに、南アに関する記事作成時の最新情報を3つほど添付でお届けします。
 添付1.南アの世界における位置づけ
 編集者注:末尾「添付1 南アフリカ共和国の世界における位置づけ」参照
 添付2.JETROの海外ネットワークを通じて収集した南アに関するビジネス情報
 編集者注:「https://www.jetro.go.jp/world/africa/za/mission2014/」参照
 添付3.三菱UFJリサーチ&コンサルティング 5/30/2014 調査レポート
 編集者注:「http://www.murc.jp/thinktank/economy/analysis/research/report_140530/」参照
 以上から決して悲壮感があるわけではないのですが、産業の分野からは期待をもって窺っていることは明白です。一方で私たちのような民間ベースでの地道な交流活動が、南アの国民に信頼感として深く浸透してくれることを願わずにはおれません。
 さて、ここからは私の身近で起きた、南アとは別世界の異文化についてご紹介します。私が現在住んでいる家は、オーナー女性の持家で、本人は現在アメリカ人のご主人とサウジアラビアに数年間住んでいて、その留守宅を預かる親戚のおばさん母子が私の面倒を見てくれています。
 オーナーの女性は、主人と共にサウジで石油開発会社に勤務しているらしく、彼女はこちらでも看護婦をしていて、今も現地で心臓手術などを担当している主任看護師のようです。
 このオーナー女性が先週日曜に1週間ほどサウジアラビアから帰ってきていました。この女性、以前から1か月に1度ぐらいは留守宅を気遣って電話をしてきていて、都度電話で快適か?とか聞かれていましたのでスムーズに打ち解けることができました。結構経済的には恵まれているようで、いろいろ気を使ってくれて、果物やアルコールを置いて行ってくれました。木曜に教会で100人位の招待客を集め何やら制服を作ってもらい、お披露目を兼ねてパーティを振る舞ったようです。私も招待されて、夕方職場の副理事長と一緒に行ってきました。食事はここを預かる小母さんがメインで作ったらしく、現地食。ちょっぴりサウジの料理が出ないかと期待して行ったのですが、残念ながらありつけませんでした。
 この後、私の住む家に親戚中が集まり、みんなで日本に遊びに行こうということになりました。どうやら本気のようです。旅費は多分オーナー負担なのではないかと想像しています。というのは話によればサウジでは、現地人はほとんど働かず、税金で豊かに暮らしていて、石油開発などビジネスのオペレーションはすべて外国人労働者が営んでいるとの事。相当に高収入らしい。現地人はオーナーとして外国人に任せ、利益だけを手にするというのが一般的だそうです。
 世界中から外国人労働者、それも技術者や有能なビジネスマンで、肉体労働者もいるようですが、どうやら日本人も数多くいるようです。日本人看護婦も結構いると言っていました。利益を搾取して膨大な副収入を得ている外国人もいるのかも。
 ただ、石油資源は2050年には枯渇することは見えているので、この先この産油国がどのようにその後も君臨できるのか、そして贅を尽くし勤労意欲も失せた国民がどのように変革できるのかは大きな疑問です。
 翌金曜の早朝6時には娘たちが運転する新車BMW 320(どうやら今回購入してあげたと見えます、ナンバープレートが付いていない。)と、もう一台のフォード製新JEEP車に乗ってヨハネスブルグへ、そしてこの日のうちにサウジアラビアに帰って行きました。
 参考までに前述した添付資料の1の中で1人当たり名目GDPにサウジアラビアの数字も載せておきましたのでご覧ください。
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添付1 南アフリカ共和国の世界における位置づけ

出展;㈱ FREEALABO http://ecodb.net//


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注;
*1 人間開発指数(Human Development Index) 経済力と国民の豊かさ指数
(UNDP(国連開発プロジェクト) 保健、教育、生活水準の3項目から評価、2014発表、全187か国対象)

参考;
1.金、プラチナ、ダイヤモンドの世界トップレベルの産出国とされているが、一部の権力者と、既得権益集団にのみ利益が分配される構造が根強く残っている
2.BRICS 2011年に将来の成長が期待される新興5か国に仲間入り
3.(添付2)調査レポート(5/30/2014) 三菱UFJリサーチ&コンサルティング 「南アフリカ経済の現状と今後の展望」
4.(添付3)三菱UFJリサーチ&コンサルティング 5/30/2014 調査レポート 「ミニレポート:南アフリカ自動車産業投資ミッション派遣に向けて 成長を続ける南アフリカ自動車関連産業の可能性に迫る」
■五十嵐 至(いがらし いたる)
大学卒業後、日本IBMに勤務。中国駐在などを経て、2000年に50歳で早期退職して郷里山形県米沢市に帰郷。国際協力機構(JICA)の短期シニア海外ボランティアとして2014年4月から南アフリカ共和国に派遣されている。職種はPCインストラクター。