大野 勝恵

<事例>
 A社は、地方中核市で複数の施設を持つ福祉サービス業を営んでいる。従業員は約70名。創業者である現社長は現在60歳で、65歳になったら長男に事業を譲ろうと考えている。
 創業以来、社長が事業のすべてに目を配り取り仕切ってきた。長男は現在、当社で1施設の責任者をしながら社長とともに経営全般の管理にも携わっている。社長は、5年後の事業承継に向けて準備を始めるに際して、中小企業診断士にアドバイスを求めることにした。
<診断>
①本社や各施設を訪れてみて、長男への事業承継に対して現在の経営幹部や従業員が反対するような雰囲気は感じられなかった。現社長の人柄によるものと思われる。
②現社長は、これまで特に経営計画を作ったことはないそうだが、長男が経営幹部や従業員を引っ張っていくためには、企業の成長目標を明確に示して納得してもらう必要がある。
③加えて、長男が携わる事業において、現段階から革新事例や成功事例を積み上げて力量を示す必要もある。
<支援>
①中小企業診断士が5年の中期経営計画書を下書きし、社長、長男と話し合いながらブラッシュアップ。3回ほどで仕上げて、年末の従業員慰労会で現社長が概要、長男が詳細を発表した。長男の経営への関与を従業員に印象づけると同時に、目に見える形で目標が示されたことにより従業員の中に「会社に貢献する」意識が生まれたようである。
②各施設から選抜した従業員でサービス向上チームを立ち上げ、将来的に長男のブレーンとなりそうな人材を育てることを提案。同チームで社長の持つ事業アイデアを実現に向けて検討するなかで、「企業として意思決定できる組織作り」の体制が出来あがった。
③近隣で新たにサービス提供を開始する事業者が現れており、サービスの差別化と当社の認知度向上を急いで進める必要があると思われたため、「目指すべき施設像」「核施設の特徴作り」の2テーマを提案。各施設長から提出されたレポートやヒアリング内容、及び第3者的視点を加えた「まとめ」を社長にフィードバックした。
<実務>
 当初の予定通り、半年で中小企業診断士の支援は終了した。月1回3時間の訪問で、報酬は1回あたり5万円。初回は社長、長男、経営幹部からのヒアリング。2回目~4回目は施設見学と施設長からのヒアリング、及びサービス向上チームの検討、5・6回目で経営計画書を仕上げた。社長からは「これまでにやってきたことを見直す良い機会だった。当たり前のように長男を押し出すのではなく、後継者について従業員に少しずつ意識を植え付けていくための具体的な道筋が見えたことが最大の収穫だった。」という感想を頂いた。
■大野 勝恵
中小企業診断士、社会福祉士、産業カウンセラー
創業や経営革新等の個別企業支援、公的機関の登録専門家、群馬県スクールカウンセラー  
E-mail:katsueternal@nifty.com