藤﨑 學

● 時代は変わった
 1989年12月29日日経平均株価が38,915円87銭の史上最高値をつけてから20年以上が経過し、バブルの崩壊とともに世の中は全く変わってしまいました。長期のデフレでモノが売れないのが当たり前となったのです。
 つまり、供給が需要を大きく上回る成熟市場では、できあいのモノやサービスを売るのではなく、顧客と共に歩む発想なしには生き延びられない時代となったわけです。
 特に海外進出しにくい内需型の地域密着企業にとっては、とても重要な転換です。
● 客が客を呼ぶ
 しかし、地域密着型が多い中小企業にとっては、逆に好機でもあります。
 口コミによる評判は限られた地域の市場では伝わりやすく、地域に密着することは大企業にはできない中小企業の強力な武器になるからです。
 口コミで満足した顧客は、リピーターになり長い付き合いが続くと同時に、良い評判を広げる信奉者になってくれます。
● 顧客は誰か
 販路拡大というと、新規顧客の開拓に目を奪われがちです。
 身近にいて目に見える既存の顧客を忘れ、何処にいるか分からない新規の顧客を追いがちになります。
 確かに一定の新規顧客の獲得は必要ですが、それ以上に既存顧客の新たなニーズに応えるなど深耕開拓が大切なのです。
● 顧客を知る
 既存の顧客を深耕開拓するには、まずは顧客を知ることです。
 顧客の悩みや不満、希望などに応えるにはどうしたらよいかを考えることです。
 顧客のニーズに応えるには、一人ひとりのお客様の思いや願い、期待に踏み込んで理解することが大切になります。
 成熟市場(供給>需要)では顧客が主権者であり、顧客の「思い」を叶えてこそ、初めて生涯を通じた良きパートナーになってくれます。
● 顧客の立場で考える
 顧客を主語にして発想し、素朴な顧客の声にじっくりと耳を傾けることがスタートです。会社は効率良く沢山の顧客を回れと言いがちですが、効率が良くても効果があるとは限りません。
 常識を疑い、既存の枠組みから自由になり、未来にスポットを当てて考えてみましょう。
 それには、顧客の視点からの発想が有効です。リアルな顧客のイメージです。その人になり切って、その人自身のストーリーを想像してみてください。
● 顧客モデルの振舞い
 顧客モデル(リアルな顧客のイメージ)がどんな状況に置かれているか想定し、どんな趣味や特技を持っているか、どんなことを考えているか、プロフィールを描いて仮説を立ててみることです。
 つまり、「何をどのように使い喜んでいるか、どうやって探し購入し、どのようにアレンジして習熟して行くのか、何に困っているのか」個別の顧客のダイナミックな動き(ストーリー)をイメージすることです。
 この作業を学者や専門家は、「箱庭の『こびと』を動かす」とか「ペルソナ(仮面)になり切る」といった表現で顧客視点での相互作用とメカニズムの解明の重要性を説いています。つまり顧客像をビビッドに頭の中に描く(プロファイリング=犯罪捜査用語)ことです。
 NHK朝ドラ「梅ちゃん先生」のタイトルバックのジオラマの世界のイメージです。
● 仮説をつくる
 顧客モデルの振舞いをイメージするには、仮説思考が必要になります。
1) 沢山の人のアイデアを絵に描いてイメージを膨らませてみる。
2) 世界や日本はどう変わっているか、生活はどう変わっているか、顧客はどうなっているかなど、
    未来にスポットあてて考えてみる。
などの想像力です。
 こうした作業は、全体状況を網羅的に分析する(問題点の列挙・課題抽出)手法とは異なります。
 顧客のリアルな行動(悩みや思いなど)から出発して顧客モデルが求めるゴールイメージ(将来像)を探求する手法です。
 現在の顧客の新たな側面の発見のために、一度この手法にチャレンジしてみてください。
 きっと既存顧客が全く新しい新規顧客に変わるはずです。ブルーオーシャン(競争のない大海)を見つけましょう!
 
 
 
■藤﨑 學
(一社)東京都中小企業診断士協会 中央支部執行委員
藤﨑ビジネスサポートオフィス代表
中小企業診断士、ITコーディネータ