山崎 文

 昨今、「働き方」という言葉をよく耳にするようになりました。旬なところでは「働き方改革」や、それに関連して「生産性向上」「長時間労働の是正」などもそうですし、「副業」についても数年前にはほとんど聞こえてこなかったのですが、最近は「副業解禁」などと刺激的な言葉が話題になっています。
そうは言っても実際は多くの企業の就業規則では副業禁止と定められていて、周囲にも認められている人は見当たらないのが現状ではないでしょうか。
ではなぜ副業解禁が話題になっているかというと、厚生労働省が示す「モデル就業規則」が平成30年1月に改定されて、「副業・兼業」についての規定が新設されたのです。モデル就業規則はあくまでも参考という位置付けですが、労働者は「許可なく他の会社等の業務に従事しないこと」から「勤務時間外において、従事することができる」と変わりました。

とはいえ、実際に副業・兼業を進めるには留意すべき課題があります。厚生労働省の「副業・兼業の促進に関するガイドライン」に詳しく記載がありますが、まとめると、
①就業時間や健康の管理
勤務時間外の副業を合算して長時間労働にならないよう、健康面の管理が必要になる。
②職務専念義務、秘密保持義務、競業避止義務
情報漏洩のリスクや、競業・利益相反にも留意しなければならない。
③労災保険、雇用保険、社会保険の考え方
副業先で業務中に労働災害が発生した場合の給付等、制度的課題を認識する必要がある。
④確定申告
20万円を超える副収入がある場合は個人の確定申告が必要になる。
これらについて、企業も労働者も十分注意する必要があります。

一方で、副業によるメリットは何でしょうか。労働者はもちろん、企業にとってもメリットは考えられます。
まず、労働者にとっては
①所得が増える。
②転職せずとも、自分がやりたいことに挑戦できる。
③本業では得られない新たな視点や経験、スキルを身につけることができる。
④新たな人脈ができ、現在の職場やプライベートとは異なる、第3の居場所が得られる。
⑤時間管理をはじめ、自ら考えて動くことで自律性が高められる。
といったメリットが考えられます。
企業にとっては、労働者が副業を持つことで良い効能があれば、そのまま下記のメリットにつながるかもしれません。
①優秀な人材の流出の防止ができる。
②労働者が新たな知識やスキル等を身につけることで、働くモチベーションが向上すれば、本業にも良い影響がある。

ただ、夢のような副業ばかりではないでしょうし、急に副業OKと言われても、誰もが飛びつくことは考えにくいのが現状だと思います。
であれば実際に副業を始めなくても、働き方を考えるきっかけとして捉えていくことはできないでしょうか。

例えば、シニア世代の入り口の50歳前後の人たちであれば、60歳あるいは65歳での定年を前にして今後の働き方を見つめ直す時期かもしれません。おそらくこの世代であればもし他にやりたい仕事があったとしても、転職となればハードルは高いですし、また退職金を考えてもおそらく定年まで今の職場に留まる可能性が高いでしょう。今さら転職という選択は現実的ではないと思われますが、まだまだ定年後の人生は長くなっています。経済的にも生きがいとしても働くことが必要であるならば、定年までの準備期間として、これまでの社会人としてのキャリアを振り返り、副業であれば自分がやりたいこと、自分にできることを一度じっくり検討してみることで、働き方を見つめ直すのもよいかもしれません。

副業が浸透するには、社会としてまだまだ制度的な課題があり、時間がかかると考えられます。労働者自身も企業も慎重に検討しつつ、少しずつこれからの働き方を考えるきっかけになればと思います。

■山崎 文
中小企業診断士
一般社団法人東京都中小企業診断協会 中央支部執行委員