飯野 純夫

1.高齢者による企業経営とその弊害
 「人生100年時代」と言われ、それをテーマにした出版物の売れ行きも伸びており、既に「そだね~」と共に今年の流行語大賞を争うほどです。一方、政府は、創業や事業承継に関する支援策を用意して、創業を支援すると共に、廃業を減らすための事業承継に力を注いでいます。
 「少子高齢化」が叫ばれて久しく、リゲインを飲みながら24時間戦ってきた「企業戦士」=「団塊の世代」が後期高齢者の仲間入りをするのも、そう遠くはありません。また、今年65歳を迎えた我々は、かつては「花のニッパチ」と言われていました。しかし、我々にとって「団塊の世代」は、とてつもなく強力で別の意味での「グラスシーリング」であったことは確かであり、その力は、現在でもいささかも陰りを見せていません。そのような、優秀で強力な「団塊の世代」を含む高齢者達が、現在も企業のトップとして君臨していることが、事業承継を送らせている一因でもあります。
 しかし、能力があるから、さらに体力があるからといって、高齢者が経営のトップに座り続けることは、組織の硬直化や陳腐化を招き、ひいては有能な若手労働者のモチベーションの低下を招きます。結果として、企業の収益力の低下ひいては国力の低下を招くことにもなります。

2.日本における平均寿命および平均余命の状況
 「平成27年完全生命表」によると、日本人の平均寿命は男性=80.98歳、女性=87.14歳であり、90歳の平均余命は男性=4.28歳、女性=5.62歳となりました(平均寿命とは0歳児の平均余命である)。そして、平均寿命、平均余命のいずれも年を追って伸び続けており、平均寿命に関しては10年間で約2年の伸びが続いています。以上が「人生100年時代」と言われる所以です。平均余命が伸びていることにより、年金財政が逼迫し公的年金の支給開始年齢の引き上げも行われていますが、退職から年金受給までのブランクを埋めるために定年年齢の引き上げが必要になると共に、経営者も高齢化してきています。

3.老後の長期化によるリスク
 いくら定年年齢が引き上げられ、後期高齢者が経営を担うことになっても限度があります。ゴーイングコンサーンとしての企業は、絶えず若い人材を迎え入れる必要がありますが、そのためには、やはり一定年齢以上の労働者や経営者には退席していただくことが必要です。
 人生を100年とすれば、70歳でリタイアした場合、残りの人生は30年にもなります。
老後が30年という長期に亘ることにより、新たなリスクが生じることになります。なお、以降は、話を簡単にするため、将来的に破綻が叫ばれている年金制度をひとまず無視して話を進めます。
(1)老後の生活資金が枯渇するリスク
 定年または事業承継後30年生きる前提で、夫婦二人で年間400万円消費すると、120百万円必要になります。はたして、これだけの資産をリタイア時に準備している人はどれほどいるのでしょうか。このことは、折角100歳まで生きられる肉体を持っているにもかかわらず、お金がないために天寿を全うできないことを意味します。
(2)企業内で高齢者の比率が高まることにより活力が減退するリスク
 先にも述べましたが、いたずらに定年年齢を引き上げたり、後期高齢者が経営を担っていては、企業の活力が減退することになります。
(3)自己研鑽や社内教育が時代に間に合わなくなるリスク
 新しいテクニロジーが登場するペースの速さを考えれば、どのような専門能力もいずれは時代遅れになります。これは今までも変わりませんが、スキルアップの頻度は格段に高まり、時代についていけない高齢者が巷にあふれることになります。

4.従業員個人の対応
(1)スキルの棚卸を絶えず行い、時代の要請に合ったスキルを身に付ける
 定年後も再雇用や嘱託などで雇用されるためには、若い時から時代の要請に合ったスキルを身に付けるために、絶えず自己研鑽し続ける必要があります。そのためには社会人大学院で学んだり、セミナーなどに積極的に参加することも必要でしょう。
(2)定年を待たずに、起業して老後の生活資金を確保できるようにする
 定年後、再雇用や嘱託の期間を長く過ごした高齢者の中には、全く世の中の役に立たない人が多い傾向にあります。これは、「給料に見合った働き方」を続けた結果、のんびり働く癖が身についたためと思われます。従って、起業は定年前に行い怠惰な生活とあらかじめ縁を切っておくことが大切です。また、起業後、順調に業績を伸ばしていくためには、創業スクールに通うなどして経営ノウハウを習得するほか、自分のスキルの棚卸を行い、しっかりとした創業計画を立てる必要があります。

5.経営者の場合
(1)能力や体力が十分あっても、ある程度の年齢で経営を退く
 仮に、80歳の社長がいた場合に、従業員はどう思うでしょうか?いったい何歳になったら課長や部長になれるか考えると、モチベーションは下がりっぱなしです。また、後継候補者がご子息であるならば、事業承継時には新社長もかなりの高齢者である可能性があります。従って、企業の活性化や後継者のためには、ある程度の年齢で経営を退く覚悟が必要です。
(2)経営を退いた後の生活をどうするか
 老後の生活資金を潤沢に蓄えている恵まれた経営者は、ごく一部を思えます。ある程度の生活資金を蓄えていても、冒頭に述べたように、余命が伸びてしまったために、老後の資金が不足している場合があり、不足している分をなんとかする必要があります。
 また、老後のために趣味を持てと言われていますが、毎日毎日長い老後を趣味だけでは生きていけません。一所懸命働いているからこそ、趣味は活きてくるのです。現在、図書館では開館前から高齢者が列をなしており、かつては受験生で溢れていた閲覧室は、開館から閉館まで時間を持て余した高齢者に占領されています。また、平日のゴルフ場は、ジジ・ババで溢れています。
 不足している老後資金の手当てと充実した生活を送るためには、経営を退いた後に、再度起業することがベターな生き方ではないでしょうか?被雇用者が起業するのと違い、既に経営ノウハウを身に付けているためリスクは少ないでしょう。個人名は伏せますが、経営を退いた後、再起業したカリスマ的経営者も大勢います。
 事業承継を行った後で、再度起業することにより、老後の生活資金が確保でき、社会に貢献して充実した人生を送ることができます。このようなストーリーを描くと、政府が支援している事業承継と創業という企業に対する二大政策が繋がってきます。
 なお、リスクを最小限にするためには、
 ①可能な限り無借金経営でスタートする
 ②在庫や設備などを極力持たない
 ③極力「粗利100%」に近い事業が望ましい
 ④売掛と買掛のサイト差を短くする
 以上の事を条件として今までの経験を併せると、自ずと業種は決まってくるでしょう。
 最後に、高齢者が、いつまでも企業にしがみ付かないで起業することにより、既存の中小企業の活性化が図られ、高齢者も充実した人生を送ることができます。
 事業承継した後の高齢者が再度起業して社会に貢献しようとしても、既に十分に社会に貢献し続けてきたあなたたちの今後の貢献を、社会はもはや必要としていないかもしれません。しかし、「人生100年時代」の今、事業承継後も貢献し続け、余裕のある人生を送ることができるこれからの社会を、あなたたちは絶対に必要としているはずです。

【青年よ大志を抱け!老人よ大金を抱け!】

■飯野 純夫:中小企業診断士、証券アナリスト、産業カウンセラー