遠藤 孔仁

 IT人材白書2018が2018年4月に独立行政法人情報処理推進機構より公開されました。今、IoT・ビックデータ、AI、BlockChainなどの新技術の実用化・普及を基盤とした、社会・経営へのデジタル化の波となり、今後大きな環境変化をもたらすことが予想されます。その環境変化に適用していくために、どのような人材が必要になるのか、IT人材白書を参考に考察を進める。

1.デジタルトランスフォーメーションの認識
 企業がデジタル化の変化に対する認識についてのアンケートを行った。
 業種別の結果は次のとおりとなる。
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 デジタル化の波を「真っただ中にいる」、「すぐ近くまで迫っている」をあわせると、全体で35%もそのような認識にいる。また、Fintechなどによる技術革新が迫っている金融が約50%、IoTやドローンによる設備の監視などへの活用が期待される建設・土木も約45%とデジタルトランスフォーメーションへの変化を認識している。

 次に、従業員規模別にみたデジタル化の変化に対する認識である。
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 変化を間近に感じている割合が、1,000名従業員を抱える企業で約60%であるが、100名以下の企業においても40%以上に達しており、変化への対応をとることが、競争環境に生き残る条件という認識であることがわかる。

2.変化への対応する主体について
 次に、目の前に迫っているデジタル化の波に、「誰が対応すべきか」という認識調査が次となる。

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 ここで注目する点として、変化への認識にかかわらず、経営者または役員クラス(CIO、CMO、CDO等)とする割合が約75%にも達している。また、「すでに変化の中にある」と回答したクラスターでは、約46%の企業が経営者と答えており、今起こっている変化に対応するためには、経営者自ら先導すべき重要な経営課題であるという認識でいることが伺われる。
(※ CIO:Chief Information Offier CMO:Chief Marketing Offier CDO:Chief Digital Offier)

 次に、変化への対応の体制についてである。経営者が行動を先導するとしても、実際に施策を展開するキーマンが必要となる。そのための体制が次のようになる。

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 経営者の役割は、デジタル化の重要性を認識し、経営方針に反映させ、社内外に発信すること、そして、リーダーへのサポートである。そして、リーダーの役割は、デジタル化への対応の具体的な施策、新事業を展開すること、そして、経営への提言が求められる。

3.デジタル化の事業・業務について
 デジタル化の進展による、経営への影響、IT業務の変化にどのようなものがあるか。従来行われていたIT化は、業務の効率化・コスト削減が主な目的であり、課題解決型と定義できる。一方で、デジタル化におけるITの活用は、新しい価値を生み出し、その価値を組み合わせて新しいビジネスを創出することが求められ、価値創造型と定義することができる。

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 前者はあらかじめ課題を設定し、その課題を解決するための要件を定義し、計画を立案し、開発を進めることが求められる。また、会計や生産など基幹業務を対象とすることから信頼性を重視される。一方で、後者は、新しいビジネスや価値を生み出すことが目的となるため、あらかじめ最終的なゴールを定義することは難しく、スピード感を重視し、トライ&エラーを繰り返していくことが求められる。

 次に、特性別のIT業務の状況が次のとおりとなる。

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 価値創造型のみ、もしくは課題解決型と価値創造型の両方が拡大しているとした企業が約半数を占め、ビジネス機会を拡大するために、ITを活用したいと考えている企業が多いことがわかる。

4.ビジネスを推進する人材について
 答えのない、新しいビジネスを創造することが求められ、その人材をいかに育成、確保するのかが課題となる。
 次の図は課題別にみたIT人材の質の不足感である。これをみると、価値創造型のIT人材が質の面で不足感が高いことが伺える。

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 次に、質の面で不足感が高いとされているIT人材の特性を別の割合となる。

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 価値創造型に求められる特性として、独創性・創造性、新しい技術への好奇心や適用力がトップにあげられている。これらは、IT業務の全般的な知識・実務ノウハウやIT業務の着実さ・正確さが求められる人材の質としている課題解決型の質と求められる内容が変化していることがわかる。
 それでは、これらの人材をどのように育てていけばよいか。
 そこにはトップのリーダーシップにより、デジタル化の波への対応を推進していくとともに、現場の人材を育成していくことが重要である。そして、それを加速・定着させるためには組織の風土についても、新しい価値を生み出す、新しいことにチャレンジする、それらを推奨する風土を醸成することが求められる。そうした人材の質を高めるために求められる企業文化・風土として、次のような内容が挙げられる。

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5.まとめ
 現在おこっている技術変化の波は、インターネットが一般に開放され、利用され始めた変化に匹敵するほどのインパクトがあるといわれている。そして、その変化の波に適用することは、今後の企業の成否に大きなインパクトがあることが予想されるとともに、そのような変化に対応する人材を育成していくことが重要である。

参考文献:IT人材白書2017(IPA)、IT人材白書2018(IPA)

略歴
遠藤孔仁(えんどうこうじ)
中小企業診断士/ITコーディネータ
東京都中小企業診断士協会 中央支部 広報部 部長