1.BCPとは
① そもそもBCPとは
 専門的な定義は複数ありますが、つまるところBCPは、震災などの非常時において「事業の早期な復旧・継続」を図り、「顧客の流失を防ぐ」とともに「企業の社会的責任をはたす」ための計画です。
 「中核事業・重要業務に経営資産を集中」させ、事前に準備した「暫定的に事業を復旧させる手段」により、事業の継続を実現していくが基本的な考え方です。

② BCPの種類
 BCPには、大地震を想定したもの、システムの大規模な障害を想定したもの、そして今回のような感染症・パンデミックを想定したものなど、自社にとって優先的に対応すべきリスクを踏まえて作成されます。

Fig01

 大地震、感染症、システム障害では以下のように影響を受ける範囲が違います。一般的に大地震は内部環境・外部環境のすべてに影響が出るため、まずは大地震想定のBCPを構築することが一般的です。

Fig02

2.これまでのBCPの「想定外」
① 影響を受ける期間・地域が想定を超えていた
 BCPはコストパフォーマンスの観点から、被災状況をある程度想定し、これに合わせてBCPを構築します。しかし、今回のコロナウイルスはこれまでの大地震想定のBCPでは「影響を受ける地域・期間」が大きく想定を超えていたと言えます。パンデミック想定のBCPを構築していたとしても同様でしょう。

 このため、これまで準備していたBCPの効果は限定的であったという企業が多いと考えられます。

Fig03

 だからといって、BCPは意味がないと結論づけるのは早計です。大地震のリスクは依然として高まっておりますし、今後のパンデミックBCPに今回のコロナ禍の経験を活かしていくことが重要といえます。

3.これからのBCPの策定ポイント
① 影響が長期的(2~3年)であることを踏まえる。
 2021年9月30日で緊急事態制限が解除されましたが、これで収束すれば今回のコロナ禍の影響期間は2~3年です。強毒性インフルエンザや地震などの場合(被災中心地を除く)はせいぜい3か月程度の影響期間を想定することが多いので、影響を受ける期間の想定を大きく変える必要があります。

② コロナ禍の影響や対策を総括しておくこと。
 大地震と違って、コロナウイルスは全世界の人が経験しています。大地震BCPはあくまでも「想定される被災状況」を基に策定します。一方、パンデミックは今この状況こそリアルな被災状況となります。人はのどもとを過ぎれば忘れていくものです。コロナ禍の影響や対策を記録・総括し、この厳しい経験を次世代につなぐことが非常に重要です。

③ コロナ禍での課題に長期的に取り組むこと。
 現在対策できず、困っていることがあれば課題としてそのままにせず長期的に取り組むことが重要です。緊急事態宣言が明けこれまでの生活に近づいたとしても、今後また同様の事態が発生する可能性は十分あります。

④ 必要であれば事業を再構築すること。
 BCPとは、非常事態における経営戦略です。これまでのBCPは乱暴にいえば「事業環境が元に戻るまでなんとか乗り切りましょうという戦略でした。しかし、今回のコロナ禍の影響期間は最短でも2~3年です。そもそも事業環境がコロナ以前に戻らない可能性もありますので、事業環境が中長期的に変化したと捉えるべきでしょう。

 経営戦略とは、「変化する事業環境に対応すること」であるとするならば、コロナ禍による事業環境の中長期的変化に対応しなければなりません。現在の事業によってはリスクを負ってでも新しい分野に進出するなど、事業の再構築が必要かもしれません。現在であれば、経済産業省の事業再構築補助金制度もあります。

4.事業再構築の事例
 ウイスキー専門のバーが、バーの近隣にクラフトビール店(製造販売)を出店した事例があります。2019年オープンでしたので、オープン後1年でコロナ禍となりました。

 ウイスキー専門のバーは、地下にあるため密となりやすく、商品特性上テイクアウトなどの対応も難しい状況となりました。このため一時休業になり御多分にもれず売上は大きく落ち込みました。

 しかし、新規オープンさせたクラフトビール店は、営業を継続することが出来ました。路面店で換気もよかったことに加え、商品特性上テイクアウトや移動販売に向いていたからです。このクラフトビール店が売上を大きく支え、企業は今も存続しています。従業員4名の小さな企業ではありますが、BCPの観点からも成功した事例とえいます。

【筆者略歴】
 中小企業診断士・防災士
 菊地俊光
 東京都中小企業診断士協会中央支部
 総務部長 
 多くの上場企業、中小企業、独立行政法人などのBCP構築支援の経験を活かしたコンサルティングを行っている。