1. カーボンニュートラルとは?
 最近、テレビや新聞などでもカーボンニュートラルの話題が取り上げられています。カーボンニュートラルとは、ライフサイクル全体で二酸化炭素(CO2)の排出量と吸収量をプラスマイナスゼロの状態(ニュートラル)にする、ということです。温室効果ガスの排出をゼロにすることは難しいので、削減だけでなく、吸収・除去を合わせて実質ゼロにする、という取組です。
 地球温暖化の主な要因が温室効果ガス(二酸化炭素など)と考えられており、地球全体で取り組んでいく大きな問題となっています。

表 二酸化炭素(CO2)の排出量と吸収量をプラスマイナスゼロにする方法

活 動 説 明
削減する 生産方法の見直しや原料・機械設備の見直しなど排出するCO2を減らす
吸収する 植林を進めて光合成で使われる大気中のCO2の吸収量を増やす
除去する CO2を他の気体から分離して集めて、地中深くに貯留・圧入する

 日本も2020年10月に、「2050年までに、温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする、2050年カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指す」ということを宣言しています。東京都・横浜市を始めとする444自治体(40都道府県、268市、10特別区、106町、20村)でも「2050年までに二酸化炭素排出実質ゼロ」を表明しています(2021年8月31日現在)。

2.中小企業のカーボンニュートラルへの取組み
 カーボンニュートラルは、温室効果ガスの排出量が多い大企業にとっては重要な活動テーマとなっています。中小企業の中でも、工場を持つ製造業の経営者の方は、関係するかも、と思われているかもしれませんが、多くの中小企業の経営者の方は、関係ない、と思われているのではないでしょうか。
 中小企業でもカーボンニュートラルに取組む必要性や、取組みによるメリットがあります。
(1)取引先からの要請
 取引先企業がサプライヤーにCO2排出量の提出や削減を求める可能性があります。
例えば、Appleでは2030年までにサプライチェーンの 100%カーボンニュートラル達成を約束( https://www.apple.com/jp/newsroom/2020/07/apple-commits-to-be-100-percent-carbon-neutral-for-its-supply-chain-and-products-by-2030/)しており、Appleと取引をする場合にはカーボンニュートラルの取組は必須となります。そのほかでも今後このような活動が進んでいくと考えられます。
 さらに、サプライチェーン全体の活動に伴うCO2排出量を算定対象とすることで、企業活動全体を管理して、企業の環境経営指標や機関投資家が着目する項目として使用される動きが見られます。GHGプロトコルがサプライチェーン全体の排出量の算定基準(SCOPE3基準)を定めています。日本企業の中でもサプライチェーン排出量の算定に関する取組みを進めているところが増えており、取引先からCO2排出量算出を求められる可能性もあります。サプライチェーン排出量算定を行っている事例がWEBに公開されています(http://www.env.go.jp/earth/ondanka/supply_chain/gvc/case_smpl.html)。
 取引先からの要請にこたえるためのカーボンニュートラルの取組みであっても、自社の製品やサービスの競争力強化や企業価値向上にもつながり、新たな取引先開拓などにもつながる活動になると考えられます。
(2)コスト削減
 カーボンニュートラルに取り組むためには、まず、①現状のCO2排出量がどの程度あるのかを知り、②CO2排出量の目標値を決めて、③そのうえでどのように対策をするのかを検討し、④実行をしてさらに見直しを行う、というPDCAサイクルを進めていく必要があります。
 現状のCO2排出量を知るためには、水道光熱費から算出する方法があります。省エネ診断で専門家に測定・アドバイスをもらう方法もありますが、機械ごとのCO2排出量は、IoTで活用できる電流センサーを利用して自社で測定してみる方法もあります。
 カーボンニュートラルの取組は、省エネ活動として電力消費が大きな設備の改善や更新、蛍光灯のLED化、非効率な工程の見直しなどを進めることになります。電力使用量は作業内容にも関係します。それに伴い、水道光熱費や燃料費などの低減も図れます。太陽光発電などの再生可能エネルギーの利用も対策として考えることができます。
 設備の更新やLED化、再生可能エネルギーの利用に関しては、補助金が活用できるケースもあります。
(3)社員のモチベーションアップや人材獲得
 カーボンニュートラルの取組は、社員のモチベーションアップや新入社員などの人材を獲得することにつながる可能性が考えられます。カーボンニュートラルに企業として社員からの意見も取り入れて現場も巻き込んで全社一丸となり取組むことで、社員のやる気を引き出すことにつながります。カーボンニュートラルの取組は金銭的なメリットのみならず、従業員のモチベーションアップや人材の獲得などにつながり、企業価値の向上も期待できます。

3.お金の掛からないカーボンニュートラル取組のPR
 カーボンニュートラルの取組は、SDGsでの「目標 7:すべての人々の、安価かつ信頼できる持続可能な近代エネルギーへのアクセスを確保する」、「目標13:気候変動およびその影響を軽減するための緊急対策を講じる」、にも相当します。カーボンニュートラルの取組とSDGsの取組を一緒に実施することになります。
 これらの取組をプレスリリースで出すことや、自社のWEBで紹介、会社のパンフレットにも紹介することで取引先や人材獲得などでのアピールにもなります。

 中小企業でもメリットが考えられ、世間的にも注目されているカーボンニュートラルへの取組を検討しませんか。カーボンニュートラルへの取組についてのご相談がありましたら、ぜひ中央支部までお気軽にお問合せください。カーボンニュートラルの取組を「攻めの一手」としてご活用ください。

環境省 脱炭素ポータル
https://ondankataisaku.env.go.jp/carbon_neutral/about/
中小規模事業者のための 脱炭素経営ハンドブック
http://www.env.go.jp/earth/SMEs_handbook.pdf

【プロフィール】
高鹿 初子(こうろく はつこ)
経済産業大臣登録 中小企業診断士
一般社団法人 東京都中小企業診断士協会 中央支部副支部長
技術士(総合技術監理部門・情報工学部門)、情報処理技術者(システムアナリスト)
東京都中小企業診断士協会 エコステージ実務研究会で国内外の環境に関する取組を調査し、中小企業が環境経営に取り組むための手法、事例を研究。
著書:中小企業がIoTをやってみた(共著:日刊工業新聞社)
   これならわかる EU環境規制 REACH対応 Q&A88(共著:第一法規)