1.コロナ下における従業員の意識の変化
 昨年の春先に新型コロナウイルスが猛威を振るい、私たちの働き方は大きく変わりました。
 多くの会社でリモートワーク化が進み、全員がオフィスに集まる機会が減った会社も多いのではないでしょうか。
 そんな状況下で、従業員の目線から見ると「会社に行かなくても仕事が回る」という感触を持った人が多くいます。
 総務省の調査では、約66%の人が今後もリモートワークを継続したい考えていたり、パーソルキャリアが実施した調査では、転職を検討する際の条件としてテレワークが重要と回答した人が半数以上となったとの結果も発表されています。
 経営としては、これらの状況を把握したうえで、どういった就労環境を整えていくかを考えていく必要があります。

 リモートワークを求める従業員が増えている一方で、”withウイルス”という言葉と共に「週2日の出社」を指示する会社があったり、従業員が進んで出社しているケースもあります。
 その目的や真意はそれぞれです。freeeが行った調査では、リモートワーク下での出社の理由の上位に「書類の確認や整理作業」や「契約書の押印作業」が挙げられており、それらはいずれも”オフィスでなければできない仕事”です。

 では、それ以外の作業は全てリモートにするべきなのでしょうか?

2.対面コミュニケーションの価値
 2021年1月の記事になりますが「リモートワークでの生産性は出社時の約8割」という記事が日経新聞に出ました。これも理由は様々です。家に家族がいたり、仕事用の部屋や机がなかったり、家で働くための環境が整っていない家庭ではリモートワークの生産性は下がるでしょう。
 そして生産性を下げる大きな要素として、リモートワーク下でのコミュニケーションの難しさがあります。テーマの決まった会議はテレビ会議ツールを使えば問題なく開催できます。ただし、その前後の「ちょっとした会話」や、会議の合間に「気軽に質問する時間」などが失われていることも生産性低下の原因となっているでしょう。
 「偶然の会話からイノベーションが生まれる」というような大きなことをいうつもりはありませんが、人と話すことによって得られる気づきは多いものです。
 一人で仕事をしていると行き詰る場面も出てきます。それを突破できる可能性が、偶発的なコミュニケーションにはあると考えています。

3.経営目線で考える「出社してもらうことの重要性」
 もう一つ、経営的な目線で出社の目的を捉えることもできます。それは従業員の”定着率”についてです。
 数年前から”副業解禁”の是非は多くの企業が直面している課題ではないでしょうか。コロナ禍でリモートワーク化が進み、”移動時間”だった時間を使って勉強したり、インターネットを活用して手軽に始められる副業(副収入を得るための活動)を始めた人も多くいます。東洋経済の記事によると副業・兼業を行う人は100万人増えたとの調査結果もあります。
 副業が広まり収入面の制約が少なくなれば、従業員の組織への帰属意識が下がっていくことは避けられません。
 その状況下で企業として従業員に提示できるものは何でしょうか。

 私が重要だと考えるのは「ビジョン」と「人の繋がり」です。
 経営者の考える「ビジョン=理想」を実現したいと思えるかどうか。そして、それを一緒に目指したいと思える仲間がいるかどうか。
 さらにいうと「ビジョン」についても”誰がそのビジョンを掲げているか”という面も大きいです。つまり、経営者を含めた「一緒に働く仲間とのつながり」が組織への従業員の定着率に直結します。
 そのつながりを生み出す環境を作り為には、日常からコミュニケーションで深めておく必要があります。

4.従業員が出社する理由作りと具体施策
 出社することで生産性が上がり、従業員の定着率が上がるのであれば、出社してもらった方がいいに決まっています。
 ただし、従業員はコロナ禍にリモートワークという選択肢を得ました。人によっては通勤が無くなった時間で勉強や副業を始めたかもしれません。その時間を奪って「出社しろ」というのは、やや乱暴です。
 そして、「生産性」や「定着率」というのはあくまで”経営の目線”です。従業員にとってメリットのある形での就労環境を整えていく必要があります。

 解決策として考えられるのは、従業員が進んで出社したくなうような仕組みやイベントを用意することです。しかし、これらはとても難しいものです。
 リモートワークになる前から人間関係を構築で来ていたメンバーであれば、「定期的に集まろう!」と言いやすいでしょうし、時間を割いて出社する理由にもなります。
 ただし、新たに入社してリモートでのつながりしかない従業員も含めて”進んで参加したいと思えるイベント”というのは、かなり難易度が高い。そして、それを業務に結び付けた形にしなければ、頻度高く開催したりメンバーを惹きつけ続けるのは難しいでしょう。

 もう一つの解決策として考えられるのは、「オンライン上のオフィスに出社する」という考え方です。
 満たすべきことは「出社すること」ではなく「コミュニケーションを取れること」です。
 常時接続可能なオンラインの会議ツールなどを使って、決まった時間にみんなでそこに「出社」するという解決方法もあると考えています。
 remoやoVice、SpacialChatなどといったオンラインのコミュニケーションツールを活用すれば、コミュニケーションは不可能ではありません。
 声をかけても大丈夫か、会議中か等のステータスが分かるような運用を組み合わせれば、従業員同士がまるで近くに働いているような環境を作ることも可能です。

 このように、ツールを上手く活用することでコミュニケーションの場を作ることは可能です。

5.求められる「経営の意識変革」
 組織としては、会社で長期的に活躍してもらう為に、社内でしっかり人との繋がりを作っておいてもらう必要があります。その為には、様々な取り組みに挑戦していく必要があります。
 しかし、いくら仕組みを作ったとしても、従業員の意識が伴わなければ活用されません。

 授業員の目線で考えると、組織で働く利点として、「自分一人では出来ないことができること」だと考えています。たくさんの人と繋がりを持つことで、成長が加速したり、自分一人の能力を超えた仕事ができることが大きなメリットだと感じます。
 実際に私の経験から感じることでもありますが、この”つながり”は会社を辞めた後も資産になっていきます。そんな繋がりを作れる場であれば、会社に行って、人の繋がりを積極的に作ろうと思えるのではないでしょうか?

 「会社を辞めても活かせる人脈を作ろう」というのは、会社側から発信していくのは難しい表現かもしれません。
 ですが、従業員からすると、そんな生き方がスタンダードになっていきます。
 逆説的ではありますが、従業員が辞めていくことを前提にすることで、逆に従業員を惹きつける会社にできるかもしれません。
 会社としても人材の流動性の高まりを真摯に捉え、その中で優秀な人材が集まり、とどまってくれる組織を作っていく必要があります。
 新型コロナウイルスがもたらした働き方の変化に対して、経営も意識を変えなければならない時が来ています。

<参考記事>
テレワークの生産性「出社時の8割」 パーソル総研
https://www.nikkei.com/article/DGXZQODZ190LP0Z10C21A1000000/

個人向けアンケートで見るテレワークの実情 第1部第3節 総務省
https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r03/html/nd123420.html

第2回リモートワーク・テレワーク企業への転職に関する意識調査 パーソルキャリア
https://www.persol-career.co.jp/pressroom/news/research/2021/20210322_01/

テレワークに関するアンケート調査第二弾 freee
https://news.mynavi.jp/article/20201211-1577906/

100万人増!「副業」の急増で考えておくべきこと 東洋経済
https://toyokeizai.net/articles/-/445333

略歴
小林慶志郎
合同会社KBC 代表 / 中小企業診断士
2018年に独立し、中小企業の経営コンサルティングと大手企業のITプロジェクトの支援を行う。
並行して「フリーランスが働きやすい社会」を作るべく、スマホアプリ「BiSE」の開発およびオープンコミュニティの運営を行っている。
2007年法政大学卒業。シンクタンク系SIer、コンサルティング会社を経て2018年に独立。