はじめに
 会計システムの普及により売上データは記録されていますが、多くの中小企業は売上データを分析には活用できていません。ここでは、エクセルや無料のBIツール(ビジネスインテリジェンスツール)を用いて、売上データを分析する方法を解説します。

〇単価要因なのか、数量要因なのかを特定する
 売上高は、売上高=販売単価×販売数量で表すことができますが、売上増減要因分析は、販売単価と販売数量のどちらの要因が売上高の減少に大きく影響したかを調べることができます。
 売上の増減高は、下記のように分解できます。

Fig_20230220_3-01

(単価要因売上減少高)=(前年度の単価―今年度の単価)×(前年度の数量)
(数量要因売上減少高)=(今年度の単価)×(前年度の数量―今年度の数量)

 これをエクセルのウオーターフォールグラフを用いると下記のように見える化できます。
Fig_20230220_3-02

 上図の例では、2020年度売上高は2019年とほぼ同じですが、単価要因売上高の下落分を数量要因売上高の増加で補填していることが分かります。しかし、2021年度売上高は、単価要因売上高が売上高減少の主要因であるとわかります。
 売上高増減要因分析のポイントとしては、事業別や商品カテゴリー別など同種のグループで分析する必要があることです。売上高減少要因分析の販売単価は、平均単価を計算して用います。しかし、あまりに販売単価の差が大きな商品が含まれている場合、売上高増減に対する影響も変わるため、正しい分析結果を出せなくなります。

〇市場動向との比較を行う
 自社の商品・サービスに該当する出荷実績推移などの市場データと、自社の売上推移の比較を行います。市場の出荷実績推移が増加傾向にあるのに、自社の売上推移が減少しているのであれば、自社の商品・サービスあるいは、競合他社の存在など自社を取り巻く環境に課題があると推定されます。また、市場の出荷実績推移も自社の売上推移も減少しているのであれば、市場自体が縮小していると推測されるため、他のカテゴリーの商品に注力するなど、戦略の見直しが必要とされる可能性があります。
 市場データは、統計局、市場調査会社、自社の商品・サービスの関連団体・協会などが公表しています。

Fig_20230220_3-03

 上図の例では、市場データとして2019年~2022年までの月ごとの出荷数推移が公表されていたので、Microsoft社のPower BIを用いて自社の出荷推移との比較を行った例です。市場データの出荷数、自社の出荷数共に月々の変動が激しいため、変化のトレンドを読み取りづらいグラフとなっていました。そこで、Power BIの分析ツールである傾向線(黒の破線)を追加することで、増減のトレンドを分かりやすくすることができます。上図の例では、市場出荷台数が減少傾向にあり、自社の出荷数も市場ほどではないが、減少傾向にあることが分かります。このような時は、今後の市場予測を踏まえながら、自社の強みを活かしてこの商品を継続するか、あるいは他に伸びている商品の拡販に社内のリソースを投入するなど、自社の戦略の見直しに役立てることができます。
 市場動向比較のポイントとしては、市場データと同じカテゴリーの商品・サービスを比較する必要があることです。自社の売上データに市場データと異なる商品・サービスが含まれている場合、正しい比較となりません。このような場合は、自社の売上データから関係のないデータは除外した上で、比較を行う必要があります。

〇様々な切り口で分析を行う
 売上データに商品・サービスの属性項目(カテゴリーの大項目・中項目・小項目、メーカー、サイズ・重量、色など)や、顧客属性項目(性別、年代)などが含まれていた場合は、属性別に強い商品・弱い商品の見える化をすることができます。
 エクセルのピボットテーブルやPower BIのスライサー機能を使えば、容易に属性項目を切り替えて、属性ごとの売上推移の見える化ができます。
 ポイントとしては、あらかじめ売上データに属性項目を設ける必要があることと、ルールを定めて正しく属性項目を入力する必要があることです。そのためにも、分析の目的を考え、会計システムに入力する属性項目を決める必要があります。

〇売上データの活用例
 売上データには、品名、販売単価、販売数量以外にも様々なデータが含まれています。以前に診断した企業の売上データには入庫日、出荷日、入金日、仕入先、取引先、仕入価格が含まれていたため、下記のような分析を行いました。

① 平均粗利益・粗利益率の推移
 次の計算式で商品ごとの粗利益、粗利益率を計算し、Power BIの集計機能の平均を使って平均粗利益・平均粗利益率の推移をグラフ化し、利益貢献度の高い商品カテゴリーの見える化を行いました。

 粗利益=販売単価―仕入単価、 粗利益率=粗利益÷販売単価

② 仕入先の購入比率や、平均仕入額の推移
 仕入先ごとの平均仕入額の推移をグラフ化し、依存度の高い仕入先の見える化を行いました。

③ 平均在庫日数と平均キャッシュコンバージョンサイクル
 次の計算式で在庫日数と、キャッシュコンバージョンサイクルを計算し、Power BIの集計機能の平均を使って平均在庫日数と、平均キャッシュコンバージョンサイクルを数値化しました。それにより必要となる運転資金の見える化を行いました。

 在庫日数=出荷日―入庫日、 キャッシュコンバージョンサイクル=入金日―入庫日

まとめ
 電子帳簿保存法への対応などもあり、中小企業においてクラウド会計ソフトの利用率は増えています。これは同時に売上を電子データとして保存できていることを意味しています。
 また、企業の持つ様々なデータを分析・見える化し経営や業務に活かすBIツールが開発され、無料でもかなりの機能を使うことができるようになりました。そのため、中小企業でも莫大なコストをかけずにBIツールで自社の経営の見える化をすることができます。
 エクセルやBIツールを用いて売上データを見える化することにより、経営改善を図ることができます。
 売上データを見える化し、課題に対して施策を打ち、その結果を見える化した売上データで確認し、更に新たな課題に対して施策を打つといったPDCAを回すことで、経営の迅速な意思決定に役立てることができます。

略歴
 五十嵐 直人(いがらし なおと)
 中小企業診断士、ITコーディネーター、IRCA QMS準審査員
 中小企業診断士協会 中央支部 ビジネス創造部副部長
 電機メーカーにて商品企画、設計開発に従事、2020年に独立診断士として活動を始める。
 得意分野は、マーケティング・商品開発、事業計画作成、IT導入支援など。
 現在は、経営相談や診断、補助金計画書策定支援などを行っている。