古賀 英右

 改正高齢者雇用安定法施行により、希望する従業員を65歳まで雇用するため、企業は(1)定年の引き上げ、(2)定年廃止、(3)継続雇用制度のいずれかを選択し、実施することが求められた。施行前の12年6月に厚生労働省がまとめた「高齢者の雇用状況」調査によると(3)継続雇用を選択する企業が83%と大多数を占めている。
 高齢・障害・求職者支援機構の調査(2012年)によると、高齢社員と総合職との「就業の自由度」「期待する役割」「成果への期待」のいずれかが異なると回答した企業は9割を超える。老齢厚生年金や高齢者雇用継続給付金などの併用を考慮し、定年後に一律に賃金を低下させるなど、人事・賃金制度で高齢社員には総合職とは異なる制度を適用し、政府の政策や社会的責任に対応するための「福祉的雇用」といえる施策をとる傾向がある。高齢社員の活用により経営成果を上げるのであれば、本来「賃金は能力と仕事の成果に基づいて決められるべき」にもかかわらず、である。
 一方、経営成果を上げるための戦力として高齢社員を雇用したとしても、総合職とは異なる処遇にならざるをえない。総合職と高齢社員を比較してみよう。総合職は長期雇用を前提として転勤や職種を問わない異動、時間外勤務や出張など就業の自由度、期待する役割、成果への期待がいずれも高い「育てて活用して処遇する」社員である。入社当初の能力養成期は「賃金>貢献度」、一人前になって「賃金<貢献度」、貢献度が頭打ちになる定年前向けて再び「賃金>貢献度」となり、在職期間全体で「賃金≦貢献度」となるように処遇が設計されている。これに対して、継続雇用後の高齢社員は予定されている雇用期間が短いため「いまの能力をいま活用して、いま処遇する」社員にならざるを得ず、仕事と成果に合った処遇をされる。すると定年前と同じ仕事をしているにも関わらず、定年前に「賃金>貢献度」が高齢社員になると「賃金=貢献度」となるため、賃金が低下する。
 これまでは定年後に再雇用する場合、高齢社員のために補助的な仕事を用意し、短時間労働でワークシェアすることで、賃金の低下については一応の納得性が得られた。ところが現在は企業に高齢社員のための仕事を用意する余裕はない。また、採用抑制や少子化による新卒社員の減少の面でも、定年後もいままでと同じ仕事を高齢社員に求める場面が増えるのは間違いない。その結果高齢社員からは「同じ仕事をしているになぜ賃金が下がるのか」という不満が当然出てくる。こうした不満に対して定年前と再雇用後との賃金格差を緩和するために40~50代の賃金カーブを抑えて財源を捻出する企業も現れた。しかし、これではしわ寄せを受ける総合職にも不満がひろがり、企業の活力そのものを奪いかねない。
 そこで、継続雇用で高齢社員を戦力として活用するために賃金を能力と仕事と成果により決める制度を改正法施行前から導入・実施している企業の先進実例を紹介したい。
 髙島屋では01年から再雇用制度を導入し、50歳から65歳までを見据えた中高年社支援制度を導入。06年には有期契約雇用者を含めた改正を行い、09年には多様な働き方に対応した再雇用制度を再構築した。
 同社の再雇用コースは大別して7つあり、現役時代からどんな経験を積み評価を得れば、どのコースに進めるかを明示している。基本的に現役時代の経験が活かせる仕事に就くのが前提で、キャリアキャスト(フルタイム勤)とシェアード(短時間※フル勤務の8割と週22.5時間勤務)に分かれている。どのコースに進むかは50歳・55歳実施のライフプランセミナーで、定年まで見据えたキャリア分析、個々のスキルの棚卸、評価・健康の確認、ライフプランの支援などを話し合い、59歳6カ月までに定年後のコース確認面談が行われる。また、再雇用後も上期・下期に人事考課を定年前同様に実施。賞与・給与額が決定するほか、意欲や成果が認められた場合、シェアードからキャストへのコース転換にも生かされる。現役時代に明確な再雇用基準を設定し、定年後も考課による賃金・コース転換により本人のやる気を引き出し、継続して成果を発揮させようとしている。
 定年をまたいで高齢社員のモチベーションを維持することは難しい。上記髙島屋の事例のほかにも、高齢社員が定年前と同じ仕事をする場合、賃金は仕事と成果で決定するが、賃金水準は定年時の水準を考慮して決めたり、ある一定の年齢(キャリア段階)以上からは、総合職の賃金を仕事と成果によって決めることにより定年後の賃金を現役並みにする、などの施策が考えられる。
 ほとんどの企業にとっては改正法施行後、実際にどのような施策で高齢社員を活用していくのかはこれからの課題である。高齢者員だけでなく総合職、一般職、契約社員、パート社員など多様な働き手が経営の成果を上げていくために、人事管理制度の見直しが求められる。
参考文献
「正社員消滅時代の人事改革」今野浩一郎著(日本経済新聞出版社2013年)
日経ビジネス2013年3月4日号(日経BP社)
週刊東洋経済2013年1月26日号(東洋経済新報社)
 
 
 
■古賀 英右
東京都中小企業診断士協会 中央支部執行委員
中央支部青年部 副部長