【質問】
「事業を開始してからこれまで融資を受けていないのですが、融資は受けるべきですか?」

【回答】
 中小企業の経営者様や個人事業主の方、また、これから創業をしたいと考えている方などから、融資は受けるべきかどうかというご質問を受けることが時々ありますが、私はこの場合「目先のことだけではなく事業の将来を考えても、融資は受けておいた方が良いと思います」とお答えしています。もちろん絶対に融資を受けなさいという意味ではありませんが、何故融資を受けておいた方が良いと考えられるのでしょうか。

 1つめの理由として、事業には浮き沈みがある以上、金融機関からタイムリーに資金調達ができる関係性を築いておく必要があると考えられるからです。金融機関から見ると、融資を行うことはお客様に資金という資産の貸付をして、そこから利息を得ることで利益を確保することになります。
 そうなると、必要なときに必要なだけ融資を受けようとする方よりも、常に融資を受けてくれている方のほうが、金融機関にとって有り難いお客様であると言え、事業者側からの融資希望に対しても積極的・機動的な対応をしてくれることが考えられるからです。

 2つめの理由として、事業が成長期や拡大期に入ってきたときには、目先の資金需要の高まりに対して自力での資金確保が一時的に追いつかなくなることがあるからです。例えば事業の成長を図るために新たに従業員を雇用したり、あるいは、事業の拡大を図るために新たに生産設備を導入したりする場合、給料や機械などの支払が行われてから、その投資効果として売上が増えることが一般的でしょう。そうなると支払資金を調達するために金融機関から融資を受ける必要性が生じることになると思いますが、その時になるべく早く融資を受けるためには、やはり日頃から金融機関と取引を持っている方が早期に融資実行を受けられる可能性が高まるからです。
 なお、余談になりますが、このようなケースでも手元に充分な現預金があって融資の必要がないという場合、その時点で過分な現預金を手元にあったということであり、事業に使える資金を効率的に運用できていなかったことと考えることもできます。手元に現預金があることは事業運営上の安心感に繋がることも確かですが、過剰に持ちすぎることもないようなバランスを意識するようにしてください。

 さて、金融機関に融資を申し込む場合、当然金融機関側では融資が可能か審査を行うことになります。その際、初めて金融機関から融資を受けたいという事業者の方は、金融機関にとって、「これまで融資実績もなく、融資してもちゃんと返済してくれるかどうか分からない」段階から審査がスタートすることになります。そうなると過去に金融機関から融資を受けたことがある事業者と同じ事業内容、同じ業歴、同じ業績、同じ融資希望額であったとしても、その金融機関に対しての実績と信用度が異なりますので、審査期間は長くなることが一般的です。となると、資金需要がさほど高くないときでも金融機関と融資取引を行っておく方が、機動的な資金調達が可能になるといえます。
 更に、金融機関によって融資を申し込む場合に信用保証協会の保証を条件に融資を実行するという場合があります。これは、万が一借り主の返済が滞った場合、借り主に代わって信用保証協会が金融機関に「立て替え払い」を行う仕組みのことで、これによって金融機関は積極的に融資が行いやすくなるメリットが生じるものです。保証協会付きの融資を初めて受ける場合には、この信用保証協会による保証審査も行われますので、事業者の方が金融機関に融資を申込してから融資実行可否の回答をもらうまでの期間が更に長くなる可能性が生じてしまうのです。

 これらの理由から、「目先のことだけではなく事業の将来を考えても、融資は受けておいた方が良いと思います」と回答しているのですが、そうなると融資希望額はどの程度が適切なのかとの疑問が生じてこられるかと思います。しかし、この点については「借入後に生じる返済負担額が、通常の資金繰りにおいて重くならない程度」と回答するしかありません。
 事業者の方ごとに状況はそれぞれであり、事業運営上の戦略も含めると様々なケースが生じうるからです。また、売上規模に対して借入金額の目安を持つことも大切ですが、借入内容が運転資金なのか設備資金なのかによっても考え方は変わります。
 お悩みの場合には、融資申込前に金融機関と事前相談を行ったり、中小企業診断士などの専門家に相談をしたりして、適切な規模の借入額を検討してみたらいかがでしょうか。

 金融機関からの借入は、それだけが資金調達の手段ではありませんが、最も一般的かつ機動的な資金調達手段かと思います。それだけに、必要な時に機動性を失わずに資金調達ができるよう、日頃から金融機関とは良好な関係性を築いておくべきでしょう。

●略歴
■中川 健史
T4代表
中小企業診断士 認定経営革新等支援機関
唎酒師(ききざけし)、フードコーディネーター2級
民間会社や会計事務所で15年以上経理、財務、税務面の実務経験を持ち、会計回りを得意とする。2015年に中小企業診断士の資格取得と同時に独立してからは、小規模・零細事業者に対する経営・融資の相談や事業計画の策定、創業支援業務を中心に活動しており、小規模事業経営者様の目線に立った意識を忘れることのないような支援活動を心掛けている。