【質問】
 会社を設立して起業したいと考えています。一般的な手順とアドバイスをお願いします。

【回答】
 ビジネスを始める場合、個人事業主で始めるか、会社(法人)で始めるか選ぶことになりますが、会社を設立して起業する場合、信用力が上がることと、税務上のメリットを得られる可能性があることから、株式会社や合同会社で起業する場合が一般的です。会社を設立する場合の流れと事業資金の準備などについてお伝えいたします。

 副業や独立など、自分で起業する場合の大まかな流れは以下のようになります。
 1.起業準備:起業する事業や提供するサービスのイメージやビジネスプランを具体的に持つ。
 2.事業計画:起業に関する手続きの準備や、事業計画書を中小企業支援機関に相談するなどして作成する。
 3.会社設立:会社設立登記などの手続きを行う。
 4.資金調達:事業に必要な資金を創業融資などで調達する。
 5.各種届出:会社設立後に必要な官公庁等への届出を行う。

 これらの起業に必要な対応を行う際のポイントをお伝えします。

1.起業準備
 起業したいとき、どんなビジネスや事業を行うか、サービスを提供するか、イメージを具盾木に持つことが大切です。そのために良い方法は、行いたいビジネス、事業やサービスで、既に成功している事業者のケースを参考にするという方法があります。成功事例から良いところを学び、どのようなビジネスを興し、運営していくかアイデアを出して、起業までのプランをノートにまとめるなどして、ビジネスプランを具体化していきます。

2.事業計画
 新たなビジネスを成功させるには、独力でやみくもに取り組むより、検討したビジネスプランを元に、創業計画書や事業計画を策定することをお勧めします。そして、ビジネスプランをより具体化するためには、中小企業診断士など、起業や創業支援の専門家に相談するのが良い方法です。東京都の場合、「東京都よろず支援拠点」などの多くの中小企業向けの支援機関、施設があります。例えば、よろず支援拠点は、国が全国に設置する中小企業・小規模事業者の方向けの経営相談所で、無料で利用できます。よろず支援拠点には、中小企業診断士や税理士など多様な分野に精通した専門家が在籍されていますので、ぜひ相談してみてください。事業計画書の作成、ビジネスプランの具体化に向けて大いに力になってくれると思います。
 また、事業計画を策定しておくと、銀行口座開設や、創業融資など資金調達を行う際の説明に活用できますし、融資が承認される大きな助けにもなりますのでぜひ取り組んでみてください。

3.会社設立
 会社の種類には、株式会社、合同会社、合資会社、合名会社の4種類があります。事業の形態にはそのほかにもNPO法人など多数の形態がありますが、多くのビジネスでは、株式会社、合同会社を設立するのが一般的です。
 一例として株式会社の設立の流れは以下のようになります。

会社概要の策定
定款の作成・認証(合同会社は認証不要)、
法人用印鑑の作成、
資本金の払込
登記申請書の作成・会社設立登記

 定款の作成や登記申請の準備にあたっては、行政書士などの専門家に依頼するのが良いです。会社設立に長けた行政書士の方をインターネットで探すこともできます。

(参考)株式会社と合同会社の特徴を簡単にまとめると以下のようになります。
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 合同会社の設立に係る費用は、定款の認証手数料、謄本代が不要で、登録免許税も安く、株式会社の半分ほどで済みます。株式会社の場合、定款を作成して公証人の認証を受ける必要があります。電子定款にすると収入印紙代4万円が不要ですので、定款の作成や設立登記の準備は、電子定款にも対応できる行政書士などの専門家に依頼するのが良いです。インターネットで探せば、5千円から1万円程度の手数料で依頼することもできます。
 法人用の印鑑は、インターネットで探せば、実印、銀行員、角印のセットで、概ね1万円~3万円程の価格で作成可能です。
 出資費用は、株式会社、合同会社ともに1円からとなりますが、より信用度を得るためにはある程度まとまった金額を出資することをお勧めします。会社設立後に創業融資などで資金調達を行う場合、出資金額に応じた上限金額の要件があるため、留意が必要です。例えば、日本政策金融公庫の新創業融資制度では、創業資金総額の10分の1以上の自己資金があることが要件の一つとなっています。
 会社設立時には、本店所在地を登記する必要があります。創業時には費用を抑えるため、自宅を登記する場合があります。その一方で、ネット販売など行う場合はWebサイトに事業者の住所等を掲示する必要がありますので、自宅住所を公開することを避ける意味もあり、オフィスを構えることを検討する方も多いです。そのような場合、賃借料など固定費を抑えるため、法人登記可能なバーチャルオフィスやレンタルオフィス、シェアオフィスを利用するという方法もあります。また、東京都では多数の認定インキュベーションを紹介していますので、活用を検討されるのも良いでしょう。
 なお、法人登記においては、代表者の方や出資者の方について印鑑証明書が必要になりますので、免許証やマイナンバーカード等の身分証明書の用意や、あらかじめお住まいの市区町村に実印登録をしておく必要があります。あと、マイナンバーカードがあるとコンビニで印鑑証明書を休日夜間でも取得できるので便利です。
 会社設立後、事業を行うには銀行口座も必要です。法人口座はどの銀行や信用金庫などでも取り扱っていますが、その一方で、ビジネスを行っている事業実態がないと口座開設が難しい場合があります。銀行口座開設においても、事業計画書の有無は有利に働きますので、準備されることをお勧めします。

4.資金調達
 適切な資金調達を行った企業は存続する可能性が高くなる傾向があるといわれています。日本政策金融公庫の「新規開業パネル調査」(2021年12月21日)によると創業融資を受けた企業を5年間にわたって存続調査しており、9割近くの企業が存続している結果がでています。適切な事業計画を策定し一定額の創業融資を受けた企業は事業継続において有利といえるでしょう。事業継続に必要な資金調達ができていれば、じっくりと事業運営に取り組むことができるからと思われます。
 資金調達として融資を申し込む場合、民間の金融機関では創業前や創業間もない場合、事業実績がないためにハードルが高くなりますので、日本政策金融公庫の新創業融資制度や、信用保証協会を利用した地方自治体の推進する創業時の制度融資を利用するのが一般的です。また、地方自治体による創業補助金、助成金事業がありますので、それらの活用も検討します。
東京都の場合、創業希望者を支援する「TOKYO創業ステーション」がありますので、創業助成事業について相談してみると良いでしょう。また、東京商工会議所では「創業支援センター」などでさまざまな起業、創業支援を行っています。
 資金調達の融資においては、創業計画書など事業計画を提出する必要がありますので、上掲の国の「東京都よろず支援拠点」、東京都の「TOKYO創業ステーション」、東京商工会議所の「創業支援センター」などの支援機関に相談しながら準備をしたうえで、日本政策金融公庫などに創業融資の相談をすると良いでしょう。

5.各種届出
 会社設立登記後には、税務署への法人設立届出書や日本年金機構の年金事務所への健康保険・厚生年金保険新規適用届書の届出が必要になります。必要な届出には、それぞれ提出期限がありますので、留意して手続きを行う必要があります。詳細は、税理士や社会保険労務士などの専門家に相談するか、提出先の各役所の窓口で照会してください。
 東京都には「東京開業ワンストップセンター」があり、法人設立や事業開始時に必要な行政手続(定款認証・登記・税務・年金/社会保険・入国管理)を1か所で行うことができますので相談してみると良いでしょう。

≪官公署への手続き例≫
※詳細は、税理士や社会保険労務士などの専門家に相談するか、提出先の各役所の窓口で照会してください。
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【メール利用、ホームページ開設等について】
 ビジネスを行うには、企業独自のメールアドレスやホームページ開設が実質必要となります。企業の独自ドメイン取得、メール利用、ホームページ開設用のレンタルサーバーを利用します。ITに詳しくない方は、よろず支援拠点など上掲の創業相談施設や経営相談所に相談してみると良いでしょう。IT導入補助金など、IT導入に係る費用に対する補助金もありますので、役に立つ情報やアイデアの支援をしてもらえると思います。

【参考文献・資料】
日本政策金融公庫 創業時支援
https://www.jfc.go.jp/n/finance/sougyou/riyou/sougyouji/

東京都よろず支援拠点
https://tokyoyorozu.go.jp/

※東京都よろず支援拠点とは、国が全国に設置している無料の経営相談所です。中小企業・小規模事業者、NPO法人・一般社団法人・社会福祉法人等の中小企業・小規模事業者に類する方、創業予定の方の売上拡大や経営改善など、経営上のあらゆるお悩みの相談に対応しています。提言だけではなく、ご事情に応じた課題解決施策を助言し具体的に成果を上げていくことが特徴です。様々な分野で活躍している専門家が皆さまの経営課題に対して一緒に具体的に解決策を考えます。

東京都 女性・若者・シニア創業サポート事業
https://cb-s.net/tokyosupport/

※「女性・若者・シニア創業サポート事業」は、東京都内での地域に根ざした創業を支援するために東京都が創設した制度です。女性、39歳以下または55歳以上の男性で、都内で創業予定の方、または創業後5年未満の方が対象となります。

TOKYO創業ステーション
https://startup-station.jp/

東京都創業NET インキュベーションオフィス
https://www.tokyo-sogyo-net.metro.tokyo.lg.jp/incu_office/

東京都認定インキュベーション施設
https://www.tokyo-sogyo-net.metro.tokyo.lg.jp/incu_office/nintei/

東京開業ワンストップセンター
https://www.startup-support.metro.tokyo.lg.jp/onestop/jp/

東京商工会議所
https://www.tokyo-cci.or.jp/

IT導入補助金
https://www.it-hojo.jp/

■坪田修(つぼたおさむ)
中小企業診断士、システム監査技術者、情報セキュリティアドミニストレータ
東京都中小企業診断士協会事業事務局長