DX推進が重要であることは繰り返し語られていますが、中小企業のDX推進はまだまだ進んでいません。
本コラムでは、中小企業のDX推進に関する手引き、リファレンス、参考情報等をご紹介します。
〇そもそもDXとは
DX推進ガイドライン(2018年 経済産業省、現在は「デジタルガバナンス・コード」)においてDXは以下のように定義されています。
DX:企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること
「「DX推進指標」とそのガイダンス」(2019年、独立行政法人情報処理推進機構)においては以下のように定義されています。
DXは、本来、データやデジタル技術を使って、顧客視点で新たな価値を創出していくことである、そのために、ビジネスモデルや企業文化などの変革が求められる。
〇中小企業におけるDX取組の状況
「中小企業のDX推進に関する調査(2014年)アンケート調査報告」(2014年 中小企業基盤整備機構)によれば、すでにDXに取り組んでいる企業の割合は18.5%、「取り組みを検討している」(23.5%)を加えると、42.0%の企業がすでに何らかの形でDXに取り組んでいます。DXにすでに取り組んでいる企業における進捗状況では、デジタイゼーション(アナログで行っていた作業やデータのデジタル化)で留まっている企業が35.7%を占め、デジタライゼーション(業務フローやプロセス全体をデジタル化)やDXへいくほど割合が少なくなっています。このように中小企業のDXはまだまだ進んでいません。
〇デジタルガバナンス・コード
経済産業省は、企業のDXに関する自主的取組を促すため、「デジタル技術による社会変革を踏まえた経営ビジョンの策定・公表」といった経営者に求められる対応を「デジタルガバナンス・コード」として、2020年11月に公表しました。2022年9月には、「デジタルガバナンス・コード2.0」を公表し、「デジタルガバナンス・コード3.0~DX経営による企業価値向上に向けて~」を2024年9月に公表しました。
この中では、企業価値向上の実現に向けて、「DX経営に求められる3つの視点・5つの柱」を提案しています。
3つの視点とは以下のとおりです。
①経営ビジョンとDX戦略の連動
②As is - To beギャップの定量把握・見直し
③企業文化への定着
5つの柱とは以下のとおりです。
①経営ビジョンとビジネスモデルの策定
②DX戦略の策定
③DX戦略の推進
組織作り、デジタル人材の育成・確保、ITシステム・サイバーセキュリティ
④成果指標の設定・DX戦略の見直し
⑤ステークホルダーとの対話
〇デジタルガバナンス・コード実践の手引
経済産業省は、「デジタルガバナンス・コード」に対応して、中堅・中小企業等のDX推進を後押しするべく、DXの推進に取り組む中堅・中小企業等の経営者や、これらの企業を支援する機関が活用することを想定したDX実践のための手引である「中堅・中小企業等向け『デジタルガバナンス・コード』実践の手引き」を2022年4月に公表しました。「デジタルガバナンス・コード実践の手引 2.0」に、DXセレクション2023、2024の受賞企業の事例などを追加した増補版として「中堅・中小企業等向け『デジタルガバナンス・コード』実践の手引き 2.1」を公表しました。
この手引には「デジタル・ガバナンスコードの実践に向けて」と題して、3社の取組例と10社のDX取組事例が掲載されています。
取組例、DX取組事例について、DX推進において経営者が考えるべき以下の4つの項目ごとに整理しています。
①何のために会社があるか理念・存在意義
②5~10年後にどんな会社でありたいか
③理想と現状の差分は何か どう解消するか
④顧客目線での価値創出のためデータ・技術をどう活用するか
DXの進め方として、適切な外部人材の活用や、経営者・DX担当者が多くの役割を果たすと同時に、取組を通じてノウハウを蓄積しながら必要な人材の育成に取り組んでいくことが必要と述べています。
事例調査を通じて、成功企業に共通するDX成功ポイントとして、以下を挙げています。
①気づき・きっかけと経営者のリーダーシップ
DX推進に取り組む「きっかけ」や「気づき」を得る
経営者のリーダーシップ
②まずは身近なところから
身近なところから始め、成功体験とノウハウ蓄積、人材確保・育成を行い、組織全体に拡大
③外部の視点、デジタル人材の確保
デジタル技術を経営の力にするには専門的な知識が必須
外部の人材活用で不足するスキルとノウハウを補う
④DXのプロセスを通じたビジネスモデル・組織文化の変革
データやデジタル技術の活用を進める中で、ビジネスモデルや組織の変革を推進し、組織文化自体を強い体質に変革していく
⑤中長期的な取組の推進
DX推進には時間がかかるので、5年後・10年後のビジョンの実現に向けて、戦略的に投資を行いながら地道な試行錯誤に取り組む
⑥伴奏支援の重要性と効果的な支援ポイント
伴走支援者が外部の視点から経営者と対話を行うことで、経営者自身がパーパスや経営ビジョンを明確にし、組織や経営者自身の自己変革力を高めていく
〇中堅・中小企業等向けDX推進の手引
経済産業省は、DXの推進に取り組む中堅・中小企業等の経営者や、これらの企業の支援に取り組む支援機関の参考となるよう、中堅・中小企業等がDXの推進に取り組む際に求められること等について事例を交えて解説する「中堅・中小企業等向け『デジタルガバナンス・コード』実践の手引き」を2022年4月に公表しました。
全体像の把握は「デジタルガバナンス・コード」、要点や事例等の把握には「中堅・中小企業等向けDX推進の手引」を利用するという役割分担としています。
ここではDXの成功のポイントとして以下の7点を挙げています。
①経営者がリーダシップを取ってDXを推進する
②中長期的な視点を持って取り組む
③まずは身近なところから始め、成功体験を重ねる
④データを分析・活用し、新たな価値を創出する
⑤DX推進過程の中で人材を育成する
⑥継続的に変革を続け、DXの取組を拡大する
⑦支援機関による伴奏支援を活用する
また、企業DXに関連する政策一覧も紹介しています。
〇DXセレクション
経済産業省は、中堅・中小企業等のモデルケースとなるような優良事例を「DXセレクション」として、2021年度より、選定しています。
直近のDXセレクション2025では、グランプリ1社、準グランプリ3社、優良事例11社、合計15社について、以下の項目で分析、紹介しています。
・企業概要
・DXの取組プロジェクト
・DX推進の成果
・DX実現に向けたプロセス
①意思決定(経営ビジョン・戦略策定)
経営者がスピード感を持ってリーダーシップを発揮した事例
②全体構想・意識改革(会社を巻き込んだ変革準備)
身近な部分における成功事例
③本格推進(社内データ分析・活用)
DXを進める上での苦労や行った工夫
④DX拡大・実現(顧客接点やサプライチェーン全体への変革の展開)
将来ビジョンや今後の展望
・DX推進体制(人材の育成・確保の取組/外部支援機関等の活用)
〇DX支援ガイダンス:デジタル化から始める中堅・中小企業等の伴走支援アプローチ
経済産業省は、DX支援機関にとって有効な参考書となることを期待して、DX支援の在り方や伴走支援をいかに進めていくのかなどをまとめた「DX支援ガイダンス:デジタル化から始める中堅・中小企業等の伴走支援アプローチ」を2024年3月に公表しました。
これまで政府は個社支援を行ってきましたが、中堅・中小企業では人材・情報等の不足から独力でDXを推進することが難しいため、支援機関を通じて中堅・中小企業のDXを支援する新たなるアプローチが有効としています。
支援機関として以下が挙げられています。
①地域金融機関 ②地域ITベンダー ③地域のコンサルタント ④SaaSツール事業者 ⑤大手ITベンダー ⑥公益法人、一般社団法人、地方公共団体 ⑦商工会、商工会議所、中央会 ⑧税理士、公認会計士、社会保険労務士、情報処理安全確保支援士、中小企業診断士等士業 ⑨業界団体⑩大学、教育機関
これらの支援機関同士が連携して、多様化、複雑化した課題に対応し、連携を通じて「強み・弱みの相互補完」、「情報共有」を実現すべきとしています。
別冊事例集では、16の支援機関について以下の4点でまとめられています。
①DX支援の取組
②支援機関同士の連携
③DX支援人材
④支援機関に向けたメッセージ
以上の手引、リファレンス、参考情報等を活用して、我々中小企業診断士も中小企業のDXを推進していきます。
〇参考ホームページ
・「DX推進指標」とそのガイダンス
https://www.ipa.go.jp/digital/dx-suishin/about.html
・中小企業のDX推進に関する調査(2014年)アンケート調査報告
https://www.smrj.go.jp/research_case/questionnaire/fbrion0000002pjw-att/202412_DX_report.pdf
・「デジタルガバナンス・コード3.0~DX経営による企業価値向上に向けて~」
https://www.meti.go.jp/policy/it_policy/investment/dgc/dgc3.0.pdf
・デジタルガバナンス・コード実践の手引
https://www.meti.go.jp/policy/it_policy/investment/dx-chushoguidebook/contents.html
・中堅・中小企業等向けDX推進の手引
https://www.meti.go.jp/policy/it_policy/investment/dx-chukenchushotebiki/dx-chukenchushotebiki.html
・DXセレクション
https://www.meti.go.jp/policy/it_policy/investment/dx-selection/dx-selection.html
・DX支援ガイダンス:デジタル化から始める中堅・中小企業等の伴走支援アプローチ
https://www.meti.go.jp/press/2023/03/20240327005/20240327005.html
●略歴
守谷 元伸(モリヤ モトノブ)
早稲田大学大学院理工学研究科修了
SIベンダーにて、主に官公庁向けの情報システムの構築、保守、運用に携わる。
資格:中小企業診断士、ITコーディネータ、PMP
役職:NPO法人東京都中央区中小企業経営支援センター副理事長
一般社団法人東京都中小企業診断士協会中央支部執行委員
独立行政法人情報処理推進機構(IPA)情報処理技術者試験委員/情報処理安全確保支援士試験委員
専門分野:情報システム構築(特に官公庁分野)、プロジェクト管理
著書:「問題解決に役立つ品質管理」誠文堂新光社(共著)、「経費節減なんと1181の具体策」中経出版(共著)他