はじめに
皆さんは、カンボジアについてどのようなイメージをお持ちでしょうか? 2025年4月に米国トランプ大統領が発表し世界中に衝撃を与えた相互関税で、アジア諸国の中で中国に次ぐ49%という税率が設定されたということは、それだけ国際分業の中で力を付けてきている証拠であるとも言えます。私は昨年、急成長を遂げているこの国を訪れる機会があり、情報をまとめてみましたので、是非お読み下さい。
1.カンボジアはどんな国?
1-1 カンボジアの概況
国名 カンボジア王国 Kingdom of Cambodia
政体 立憲君主制 シハモニ国王
面積 18万1,035平方キロメートル(日本の約2分の1弱)
人口 1,701万人(2023年、出所:IMF)
首都 プノンペン(人口:228万人(2019年、出所:カンボジア計画省統計局))
言語 大半がクメール語(95.8%)、その他に少数民族言語、中国語、ベトナム語等
宗教 大半が仏教徒(上座部仏教)
公用語 クメール語
国旗 世界遺産アンコールワットが中央に描かれ、カンボジアの象徴としてだけでなく白で描くことで仏教を表している。上下の青い帯は王室の権威、中央の赤い帯は国民の忠誠心を表している
(出典:在日本カンボジア王国観光省ホームページ
https://cambodiatourism.or.jp/about_cambodia/)
1-2 歴史
9世紀から15世紀にかけて、現在のカンボジアの地にクメール帝国が栄えました。この時代に建設されたアンコールワットに代表される壮大な寺院群は、当時の高度な建築技術と豊かな文化を今に伝えています。その後、19世紀後半からはフランス領インドシナの一部として植民地支配を受けましたが、第二次世界大戦後に独立運動が高まり、1953年にシアヌーク国王の下で独立を達成しました。
しかしその後、冷戦下の国際情勢の影響を受けて国内は不安定化し1970年のクーデター後に内戦が激化し、1975年にはカンボジア共産党のポル・ポト率いるクメール・ルージュが政権を掌握しました。ポル・ポト政権下では、都市住民の強制移住、知識人や文化人の粛清、原始共産主義を目指す急進的な政策により、約200万人(注:諸説あり。)もの人々を虐殺するという悲劇的なジェノサイドが発生しました。1979年にベトナム軍の侵攻によりカンボジア人民共和国が成立したものの、その後も不安定な国内情勢が続きました。
1980年代には国連の積極的な介入が始まり、1991年のパリ和平協定、そして1993年の国連監視下の総選挙を経て、カンボジアは立憲君主制の下で安定を取り戻しました。1999年には東南アジア諸国連合(ASEAN)加盟国となり、その後は順調な経済発展を続けています。
プノンペン 王宮前広場(筆者撮影)
1-3 地理と気候
カンボジアはインドシナ半島の中央部に位置し、タイ、ラオス、ベトナムの3か国に囲まれています。国土の大半が平野で、縦断するようにメコン川が南北に流れています。首都のプノンペンを除けば人口20万人程度の中規模都市が点在していますが、かつての内戦の影響などにより国内の交通網は発達しているとはいえません。例えば、プノンペンからアンコールワットがあるシエムリアップまで300Kmほどの距離ですが、鉄道や高速道路が無いため、車だと一般道を使い約5時間を要します。そのため、海外からの観光客がプノンペンとアンコールワットの間を移動する場合は、航空機を利用することが多いようです。
筆者が2024年にプノンペンを訪れた際、突然スコールに見舞われ、空港に通じる幹線道路が、まるで川のように水が溢れ、大渋滞に巻き込まれた経験をしました。(濡れるのも構わず、冠水した道路をバイクで果敢に走る若者達に、この国の熱量を感じました) また、少し郊外に出ると、経済特区の周辺でも未舗装の道路が目立ちます。急速な発展を遂げている中、日本や中国の支援を受け、高速道路や鉄道の整備が急ピッチで進められています。
冠水した道路を走るバイク(筆者撮影)
気候は、年間平均気温が約27度の熱帯モンスーン気候で、年間を通して高温多湿です。日本のような四季はなく、大きく「乾季」と「雨季」の2つに分かれます。乾季は11月から4月で、特に12月から2月は比較的涼しく、観光に適していると言われています。しかし、3月から4月は年間で最も暑く、日中40℃に達することもあります。一方、雨季は5月から10月で、スコールと呼ばれる短時間の激しい雨が特徴ですが、一日中降り続くことは稀です。
2.日系企業にとってのカンボジアの魅力
2-1 経済状況
カンボジア経済は近年、安定した成長を続けており、過去10年間の実質GDP成長率は、コロナ禍の2020年と2021年を除けば、毎年5%以上となっています。
カンボジア 実質GDP推移 (IMFデータを元に筆者作成)
主要産業は農業、縫製業、観光業であり、特に縫製業はGDPの約16%を占め、輸出の主要品目となっています。近年は、建設業やサービス業も成長しており、経済の多角化が進んでいます。政府は外資誘致に積極的であり、投資奨励策や経済特区(SEZ)の設置などを通じて、外国企業の進出を促進しています。
通貨はリエル(KHR)ですが、米ドルが広く流通しており、特にビジネスの場や、外国人が多く利用するホテル、観光地、空港などでは米ドルが主要通貨として使用されています。
2-2 人口・労働力
カンボジアの人口は約1,700万人(2023年時点)で、年間約1.5%のペースで増加しています。特筆すべきは、人口の約65%が30歳未満という若い年齢構成であり、これはポル・ポト政権下の虐殺の影響により50代以上の年齢層が少なくなってしまったということもありますが、若い豊富な労働力を有しているとも言えます。
識字率は約80%と向上傾向にありますが、高等教育機関への進学率はまだ低く、熟練労働者の育成が課題となっています。労働者の平均年齢は低く、勤勉で手先が器用な国民性から、製造業における労働力としては高い潜在力を持っています。
また、カンボジアでは人口構成が経済成長に有利に働く「人口ボーナス期」に入りつつあると言われており、他の多くのASEAN諸国に比べて人口は多くはないものの、消費市場としての成長も期待されています。
2-3 日本企業の進出状況
進出企業数の正確なデータはありませんが、カンボジア日本人商工会に加盟している企業・団体数は、254社・団体(準会員、賛助会員を含む)となっています。業種別の内訳は、製造23%、建設・不動産21%、商業18%、サービス15%、その他、の割合です。製造業においては、昨今の地政学リスクに対応するため、中国に工場を有している企業が、拠点を分散すべく新たに同国に進出するケースもみられるようです。
また、商業分野の一例としては、イオングループがベトナムやインドネシアと並んでカンボジアで積極的な事業展開を図っています。プノンペンに2014年に1号店をオープンした当初は来客数の伸び悩みもあったようですが、その後順調に事業を拡大し、2023年には郊外にASEAN最大規模のイオンモール3号店をオープンしています。モールにはダイソーやリンガーハット、ノジマなどの日系企業も出店し、買い物やエンタテイメントを楽しめる場所として現地の若者や家族連れに広く受け入れられています。
2-4 日本企業にとってのカンボジアのメリット
JETROが2024年11月に公表した「2024年度 海外進出日系企業実態調査」によると、カンボジアの投資環境のメリット上位5項目は、下記の表の通りとなっています。
投資環境上のメリット上位5項目(複数回答)
カンボジア | (参考)タイ | (参考)ベトナム |
安定した政治・社会情勢 53.8% | 駐在員の生活環境 56.0% | 市場規模/成長性 61.9% |
人件費の安さ 47.1% | 取引先企業の集積 47.2% | 人件費の安さ 54.4% |
市場規模/成長性 36.5% | 市場規模/成長性 37.% | 安定した政治・社会情勢 44.1% |
言語・コミュニケーション上の障害の少なさ 31.7% | 人件費の安さ 25.0% | 駐在員の生活環境 33.3% |
駐在員の生活環境 28.8% | ワーカー等の雇いやすさ 23.5% | ワーカー等の雇いやすさ 23.4% |
出典:JETRO「2024年度 海外進出日系企業実態調査」
日系企業が数多く進出しているタイと比べると。「安定した政治・社会情勢」や「人件費の安さ」といった点がカンボジアに進出している企業にとっての魅力と考えられます。一方で、「駐在員の生活環境」や「取引先企業の集積」といった、タイの強みと言える点は、長年にわたる日系企業の進出の歴史の中で蓄積されてきた結果とも言えます。カンボジアが、タイに匹敵するような日系企業にとっての東南アジアの拠点となるためには、国としてのインフラの構築はもちろんのこと、様々な企業の進出を促すような、助成制度や法整備が必要となると考えられます。
まとめ
多くの方にとってあまりなじみのないと思われる、カンボジアを紹介させて頂きました。現在ANAが成田―プノンペン便を運休中のため日本からの直行便もなく、短期滞在でもVISA取得が求められるので、あまり気軽に行ける国ではないかもしれません。しかし、ODAによる復興援助やかつての国連PKO活動を通じて日本との関りは深いこともあり、カンボジア人には親日家が非常に多いそうです。世界遺産のアンコールワットをはじめとした観光資源を有する一方、今後の経済発展が期待されるカンボジアに、機会があればぜひ足を踏み入れてはいかがでしょうか。
■戸田 啓介(とだ けいすけ)
2013年中小企業診断士登録。東京都中小企業診断士協会中央支部 国際部所属。保有資格は国際経営学修士、米国公認会計士など。
大学卒業後、航空会社およびメーカーで主に経営企画や事業戦略畑を歩む。イタリア(ペルージャ、ローマ)、フランス(パリ)、イギリス(ロンドン)に赴任経験あり。
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