グローバルウィンド

グローバルウィンド「アフリカの玄関口、エジプトの最新経済事情」(2025年10月)

2025年9月21日

中央支部・国際部 森谷 進吉

2025年8月、横浜で「TICAD9」(第9回アフリカ開発会議)が開催されました。「アフリカと共に革新的な解決策を共創する」をテーマに掲げられ、日本とアフリカが「共に成長するパートナー」であるという強いメッセージが発信されました。これに先立つ7月、私は神奈川県などが主催するセミナー「エジプトの最新経済動向とビジネス環境」に参加しました。そこで、今回のグローバルウインドでは、このセミナーで伺った内容に触れながら、「アフリカの玄関口」であるエジプトの最新経済事情を報告します。

エジプトとは

エジプトの正式国名は「エジプト・アラブ共和国」です。国土面積は約100万km²(日本の約2.7倍)、人口は1億811万人(2025年9月12日現在、出所:エジプト中央動員統計局(https://www.capmas.gov.eg/))、首都はカイロです。

エジプトはアフリカ大陸の北東部に位置し、東側にはシナイ半島が広がります。また、スエズ運河は、地中海と紅海を結ぶ重要な海上交通路であり、アフリカとアジア、地中海と紅海・インド洋をつなぐ、まさに文明の十字路となっています(図表1)。

国土の大部分が砂漠であるため、乾燥した砂漠気候が支配的です。カイロの場合、暑い季節(5月~10月)の一日平均最高気温は32℃を超え、涼しい季節(12月~3月)は22℃未満です。年間降水量は平均して3mm前後と非常に少ないのが特徴です(出所:Weather Spark(https://ja.weatherspark.com/countries/EG))。

主な宗教はイスラム教とキリスト教で、イスラム教徒(主にスンニ派)が90%、キリスト教徒(大多数はコプト正教会)が10%を占めます(出所:CIA World Factbook(https://www.cia.gov/the-world-factbook/countries/egypt/))。

食事は、中東や地中海、アフリカの食文化が融合した、豊かで奥深い味わいが特徴です。代表的なエジプト料理には、エジプトの国民食である「コシャリ」、ゆっくり煮込んだソラマメの「フル・メダンメス」、ソラマメを主原料とした揚げ物「タアメイヤ」などがあります(図表2)。

エジプトの治安は、北シナイ県、南シナイ県の一部、リビア国境や砂漠地帯の危険度レベルは高いですが、カイロ、ルクソール、アスワンなどの主要都市は比較的安全です。セミナーでは、「外国人が多いザマレック(Zamalek)やニュー・カイロ(New Cairo)などの繁華街・住宅街では、夜間に女性が一人で歩いても問題は感じない」との報告がありました。

日本との関係

エジプトと日本の国交は、意外にも古く江戸時代まで遡ります。歴史に残る両国間の最初の記録は、1862年に日本の遣欧使節団(文久遣欧使節)がヨーロッパへ向かう途中でエジプトに立ち寄ったことだとされています(出所:本の万華鏡(https://www.ndl.go.jp/kaleido/entry/14/1.html))。エジプトがイギリスから独立を果たした1922年に日本がこれを承認し、これが両国の公式な外交関係の始まりとされています。

近年、日本からエジプトへの経済援助(ODA)は盛んであり、2022年の実績は455百万ドルに達し、2020年度以降は1位を獲得しています(図表3)。

AFRICA BUSINESS PARTNERSによると、エジプトへ進出している日本企業の拠点は61に上り、アフリカ諸国の中ではモロッコと同率3位です(図表4)。

以下のような企業がエジプでビジネスを展開しています(図表5)。

エジプトの魅力と課題

今後、日本企業がエジプトに進出する際の魅力は多岐にわたりますが、特に重要な3つの点を挙げます。

1. 巨大な人口と「人口ボーナス」

エジプトは人口が1億人を超え、今後も増加することが予想されます。中でも25歳~64歳という年齢グループが2100年まで増加していくことが予想されます(図表6)。この年齢層の増加は、大きな消費市場であると同時に、豊富な労働力となります。

上記のような背景を踏まえて、Goldman Sachsの報告書(2022年12月)によると、エジプトは2050年には世界第12位、2075年には第7位の経済大国になると予想されています(図表7)。

2. 地政学的な優位性

エジプトは、既に記載したようにアフリカ、中東、ヨーロッパを結ぶ戦略的な位置にあります。特に、アジアとヨーロッパを結ぶ主要な海上貿易ルートであるスエズ運河を擁しているため、エジプトを生産拠点とすることで、製品をこれらの巨大市場に効率よく輸送・供給することが可能です。これは、サプライチェーンの最適化を図る上で大きなメリットです。

近年、イスラエルとハマスの衝突を契機に、イエメンのフーシ派が紅海で国際船舶を攻撃するインシデントが発生しています。そのため、スエズ運河の通航隻数は激減しており、エジプトの地政学的な重要性が改めて認識されています(図表8)。

3. 政府による経済改革とインフラ投資

エジプト政府は、外国からの投資を積極的に誘致するため、大規模なインフラ開発(新行政首都、スエズ運河経済特区など)を進めています。また、外貨不足の解消に向けた経済改革も行っており、投資環境が改善されつつあります。これらの改革は、日本企業が持つ技術やノウハウを活かせるビジネスチャンスを創出します。

一方で、エジプトに進出する日本企業にとっての課題は以下の3つです。

1. 経済・為替の不安定性

エジプト経済は、外貨不足やインフレといった構造的な課題を抱えています。特に、過去10年間で何度か大規模なエジプト・ポンドの切り下げが行われており、為替レートが非常に不安定です(図表9)。これにより、資材の輸入コストが急騰したり、利益を本国へ送金する際に想定外の為替差損が生じたりするリスクがあります。

2. 官僚主義と複雑な行政手続き

エジプトの行政システムは、官僚主義的で手続きが複雑かつ時間がかかると言われています。事業を開始する際の許認可プロセスや、税務・労働関連の手続きに多くの時間と労力を要することが、進出企業にとって大きな障壁となり得ます。
セミナーでは、「税務署が過去に遡及した不合理な徴税を課すこと、税務調査完了証明書がないと各種ライセンスが更新できないことが進出企業共通の悩みである」とのコメントがありました。

3. 社会・文化的な違い

エジプトは日本とは異なる社会・文化・商習慣を持っています。特に、時間を厳格に守る文化は薄く、ビジネスの場面でも約束の時間に遅れたり、計画が直前に変更されたりすることが一般的です。また、商談や交渉は人間関係を重視して進められることが多く、信頼関係を築くまでに時間がかかる場合があるそうです。セミナーでは、エジプト人を評して、「競争心があまりない」、「合理的な提案をしても断られる」、「四則演算が苦手」といったコメントがありました。

今回の記事では最新のエジプトの経済事情を中心に書きましたが、エジプトの最大の魅力はなんといっても荘厳なピラミッドやスフィンクス、壮大な神殿群など、古代文明の神秘が息づく世界遺産です。
現在、豊洲のラムセス・ミュージアムにて「ラムセス大王展」が開催されています(2026年1月まで)。エジプト史上「最も偉大な王」と称されるラムセス大王(ラムセス2世)とその時代にまつわるエジプトの至宝は、見る者を惹きつけます。まず、こうした古代遺産を通して、エジプトの奥深い世界に触れてみてはいかがでしょうか(図表10)。

■森谷 進吉(もりや しんきち)

2023年中小企業診断士登録。東京都中小企業診断士協会 中央支部 国際部所属。
信託銀行にて、システム開発、年金運用、資産形成、金融工学などの業務に従事。現在は資産金融・資産流動化の業務におけるAI活用・システム企画を担当。

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