グローバルウィンド

グローバルウィンド「再訪のオランダで気づいたこと 技術と心をつなぐコミュニケーション」(2025年11月)

2025年10月22日

中央支部・国際部 石原 繁

はじめに

私は2009年に中小企業診断士として登録し、2024年より国際部に所属しています。現在の勤務先では海外の関係会社との連携が多く、現地訪問の機会もあります。中でも印象深いのは、20数年前に長期滞在したオランダの関係会社です。一昨年、再び同社に約3ヶ月間滞在する機会がありました。かつての経験と現在の状況を比較することで、技術・文化・コミュニケーションの進化を実感することができました。
本稿では、当時と現在の違い、変わらないもの、そして進化した点について、私自身の体験をもとにご紹介いたします。

技術融合から現場重視へ

20数年前、オランダの関係会社に技術の融合を目的として派遣されました。当時の業務は現地技術の理解と日本の技術との融合が中心で、現場の運転員との直接的な交流は少なく、主に英語を話すマネージャーの方々と業務を進めていました。拙い英語でも意思疎通には大きな支障はありませんでしたが、細かなニュアンスや現場の「肌感覚」までは十分に把握できなかったのが正直なところです。
一方、一昨年の滞在では目的が大きく異なり、現場の問題解決が主な業務でした。現地スタッフや運転員と特別チームを編成し、原因究明と是正策の立案・実行に取り組みました。ここで重要だったのは、現場の「生の声」をいかに正確に引き出すかという点です。
オランダ人は英語を流暢に話しますが、彼らにとっても英語は第二、第三言語です。私の英語を聞き、理解し、オランダ語で考え、それを英語に訳して話すというプロセスには、どうしても情報のロスが生じます。
実際、オランダでは国民の94%がバイリンガルであり、77%が母語以外に2言語以上を使えるマルチリンガルであるという統計があります(出典:欧州委員会「Europeans and their languages」報告書、2012年(https://ec.europa.eu/assets/eac/languages/policy/strategic-framework/documents/ebs_386_en.pdf))。
このような高い言語能力を持つ国であっても、現地語でのコミュニケーションの重要性は変わりません。

翻訳機がもたらす新たな接点

20数年前には翻訳ツールはなく、辞書を片手にコミュニケーションを取るしかありませんでした。しかし現在では翻訳機やアプリの進化により、現地語での質問も可能となりました。
一昨年の滞在ではハンディタイプの翻訳機を持参し、現場の運転員との会話に活用しました。時には誤訳もありましたが、それが場を和ませることもあり、結果的には非常に有効なツールとなりました。英語では出てこないような本音の話も、オランダ語でのやり取りを通じて引き出すことができました。
今回の滞在を通じて改めて感じたのは、「現場・現物・現象」の三現主義の重要性です。現場に足を運び、現物を見て、現象を理解することで、初めて正しい原因究明と是正が可能になります。そして、そのためには現地の人々との円滑なコミュニケーションが不可欠です。翻訳機のようなツールを積極的に活用することで言語の壁を越え、より深い理解と信頼関係を築くことができました。

生活面の変化と楽しみ

生活面でもオランダは大きく変化していました。かつては日曜日にスーパーマーケットが開いているのは月に一度だけでしたが、現在では毎週営業しており、アムステルダム周辺の都市部だけでなく地方でも日本食やアジア食品が容易に手に入るようになりました。スーパーマーケットの数も増え、生活の利便性は格段に向上しています。
滞在中、特に印象に残ったのは春の味覚「ホワイトアスパラガス」です。ドイツやオランダが産地として有名で、週末のマーケットでも手軽に購入でき、わさび醤油やオランデーズソースで美味しくいただきました。食事は滞在の楽しみの一つであり、電子レンジ用の調理器具も大変重宝しました。日本から持参した調理グッズを使い、現地で炊いたご飯も美味しくいただくことができました。

入手したホワイトアスパラガス(筆者撮影)

現地では「ホリデーハウス」と呼ばれる貸別荘のような施設に滞在しました。生活に必要な設備はほぼ揃っていました。洗濯機だけは施設外のコインランドリーを利用する必要がありましたが、それ以外は快適に過ごすことができました。
翻訳機は、仕事だけでなく現地での生活でも活用し、コミュニケーションのハードルを大きく下げることができました。現地の人々との距離が縮まったことを実感しました。

まとめ-海外での挑戦を糧に

今回のオランダ滞在を通じて、技術や文化の違いだけでなく、コミュニケーションの本質についても多くの学びがありました。翻訳機というツールは、単なる言語の橋渡しではなく、現場の声を拾い上げる「耳」として機能しました。今後もこうしたツールは進化し続けるでしょうし、それを積極的に取り入れることで海外での業務の質と効率を高めることができると思います。
また、限られた選択肢の中でも好奇心を持ち、美味しいものを探し、生活を楽しむ姿勢は、海外での滞在を豊かにする大切な要素です。ポジティブな思考を持ち、得られた経験を自分の糧とし、それを周囲に伝えることで、他の人々の海外での挑戦を後押しできたら嬉しいです。
オランダ語は日本人にとっては習得が難しい言語だと思います。それでも現地語でのコミュニケーションを積極的にする姿勢を持ち続けたいです。三現主義の実践と、進化するツールの活用を通じて、これからも海外で様々なことに挑戦し続けたいと思います。

■石原 繁(いしはら しげる)

2009年中小企業診断士登録。東京都中小企業診断士協会 中央支部 国際部。
素材メーカーで研究・技術開発、及び製造業務を経験した後、現在は品質保証、及びコンプライアンスの業務に従事する企業内診断士。

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