グローバルウィンド

グローバルウィンド「台湾国のスペシャリティコーヒー栽培」(2026年1月)

2025年12月25日

はじめに

台湾国の山間地で育まれるスペシャリティコーヒーに注目し、雲林・古坑で開催された品評会と周辺農園の視察に参加した際の経験を共有します。
アラビカの希少品種や精製・発酵の工夫、産地を支える仕組みを現地で見聞きし、台湾コーヒーの魅力と成長の背景を感じる機会となりました。本稿では、品評会の様子と農園の取り組みを中心にご紹介します。

台湾国のスペシャリティコーヒー栽培

コーヒーはアラビカ種・ロブスター種という2種類の品種体系に区分されます。アラビカ種は、病害虫に弱くコーヒーの木一本あたりの収穫量が少ない一方、風味が良い希少品種です。ロブスター種は、病害虫に強くコーヒーの木一本あたりの収穫量が多い一方、低品位のため、缶コーヒーやインスタントコーヒーの原料に用いられています。
台湾では、雲林縣古坑や嘉義縣阿里山など中西部の山間地でアラビカ希少品種が栽培されています。数ある農園の中には、世界スペシャリティコーヒー協会認定のQ Grader(スペシャリティコーヒーの品質評価資格(審査員))の審査でスペシャリティ認定を取得、1キログラム 数十万円で取引されているコーヒー焙煎豆も生産されています。
台湾のコーヒー栽培は、20世紀初頭 台湾に渡った日本人が商業栽培を開始したのが始まりです。近年は、地域産業復興やスペシャリティコーヒーの世界的需要拡大を背景に、台湾政府主導で、コーヒー栽培の拡大に資する支援施策、新品種開発等に取り組んでいます。茶の有数の産地である嘉義縣阿里山においても、これらを背景にコーヒー農家に転身する茶農家も増加しています。
コーヒー栽培の歴史も古く、台湾国最大の産地である雲林縣で開催されたスペシャリティコーヒー品評会、コーヒー農園を視察した際の経験につき紹介させていただきます。

雲林縣古坑のコーヒー品評会・コーヒー農園を視察

(1) スペシャリティコーヒー品評会

雲林縣60戸のアラビカコーヒー農家が出品した自慢のコーヒー豆を台湾国・日本のQ Grader 10名が審査し順位を公表。副知事、同縣企画科長、同縣農業部長、嘉儀縣農業試験分析場長など、コーヒー栽培関連の政府機関も出席されていました。
私も日本からのゲストとして60種類のコーヒーの試飲に参加させていただきました。何れのコーヒーも大変に風味・個性が豊かな素晴らしいコーヒーでした。各コーヒーの試飲量は大さじ2杯程度も、日常では経験しない量のカフェインを摂取したことから、同会の後半はカフェイン酔いでフラフラになりながら試飲したことを覚えています。
また、品評後、特選1等、2等、3等を獲得した焙煎豆のオークションが開催されました。1等を獲得した焙煎豆は、1キログラム 30,000 台湾ドル(約15万円)で落札、中南米やアフリカの最高級品と比較しても遜色のない値付けがなされていました。

雲林縣副知事と品評会上位入賞者の記念撮影の様子(筆者撮影)

コーヒー試飲・評価の様子(筆者撮影)

(2) 雲林縣古坑のコーヒー農園

コーヒー品評会で特選1等を獲得した農園を含む5つの農園を視察しました。
雲林縣古坑の標高1,000~1,500mの高地、1農家あたり数千本のコーヒーの木が広大な農地で栽培されています。何れの農園もティピカ、ゲイシャを初めとした世界でも人気の高いアラビカ希少品種を栽培。収穫したコーヒーの特徴を生かした拘りの焙煎豆を生産するため、生豆の精製・発酵・乾燥・焙煎までの工程を農園で完結しています。立地環境に応じ植樹、栽培手法を工夫、高品質コーヒー栽培に向け試行錯誤している様子が伺えました。

嵩岳農園:特選を受賞。接木・挿木など繁殖技術開発に取り組み(筆者撮影)

東碧農園: 茶畑から転身。接木による新品種開発や日本向け販売に取組(筆者撮影)

古峰農園:コーヒー農園の近隣でホテルを経営。農園を観光資源に活用(筆者撮影)

永舜農園:自家栽培コーヒーを直営カフェで提供。絶景(筆者撮影)

花喜田莊園:標高1,500m。カフェ併設。視察当日は霧深く幻想的な雰囲気(筆者撮影)

まとめ

台湾のコーヒー栽培は商業的に成功、拡大を続けています。コーヒー品評会や現地農協を訪れた際も、コーヒー栽培に対する熱意・チャレンジ意欲を強く感じました。担い手不足や気候変動により衰退の危機にある我が国農業においても、台湾コーヒーのような政官学民一体での長期視点での戦略的取組が、農業界転換・振興に向けたあるべき姿であると改めて思い至りました。

■新井 卓(あらい たく)

2024年7月 中小企業診断士登録
2025年 2月 日本政策金融公庫 農業経営アドバイザー資格
東京都中小企業診断士協会 アグリビジネス経営支援研究会員

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