中央支部・国際部 鶴﨑 実穂子
はじめに
インド通の企画担当、
森畑会員(左)、楠本会員(右)(筆者撮影)
「インド通養成講座」は、インド駐在経験を有する中小企業診断士たちが、インドの価値観や、現地で直面する文化・商習慣の違いについて語り、「インドの文化・価値観への理解を深めることで、市場進出や現地との協業を加速させ、日印の相互交流を活性化させること」を目的としたもので、これからインド進出やインド企業との協業を検討される方々の一助となるよう企画したものです。
本講座は、2024年度および2025年度に計4回開催しました。中央支部以外にも東京協会の他支部や全国の他協会から幅広くご参加いただき、好評を得ることができました。
なぜ「インド通養成講座」なのか
近年、人口が世界一となり、経済成長を続けるインドは、巨大な内需市場として存在感を高めるだけでなく、IT・スタートアップ分野を中心とした産業の成長や、グローバル企業で活躍するインド人材の増加などを背景に、世界経済において重要な位置を占める国となっています。
日本企業においても、インド進出の可能性やインド企業との協業、インド人材の活用を検討する機会が増えており、インドの存在感が一段と高まっていることを実感します。
このような関心の高まりの一方で、「文化の違いが分からない」「インド人とのコミュニケーションが難しい」「進出後のイメージが描けない」といった声も多く聞かれるようになりました。市場規模や成長率といった数値情報だけでは埋めることのできない“理解の壁”が、より現実的な課題として浮かび上がってきています。中央支部国際部が「インド通養成講座」を開始したのには、こういった背景がありました。本講座の特色は、インドを単なるビジネス市場として捉えるのではなく、「人」「文化」「価値観」といった視点から理解し直す点にあります。企画を担ったのは、インド駐在経験を有する部員たちであり、現地での仕事や生活を通じて得た実体験をもとに、机上の知識だけでは捉えきれないインドの姿を共有する場として構成されました。
魅力あるメイン講座
第1回の講師 河本憲治氏(筆者撮影)
第1回では、「南インドの文化、歴史を背景に、経営を語る」をテーマに、南インドの現地法人 Mitsubishi Heavy Industries-VST Diesel Engines Pvt. Ltd. の代表(2017年~2021年)を務められた河本憲治氏を講師にお迎えしました。講演では、現地での従業員との関係構築やモチベーション向上に向けた具体的な事例とともに、社員に配布していた社名入りグッズも会場で披露されました。
また、写真家としても活動されている河本氏による現地写真の展示を通じて、宗教行事や日常生活の違い、インドにおける日本製品への高い信頼など、現地ならではの情報をご紹介いただきました。地域の祭礼で行われる「象のレース」の迫力や、日本製品に対する信頼度を表す現地のCMなど、今でもそのエピソードが印象に残っています。
第2回講師 前田良博氏(筆者撮影)
第2回では、はなまるうどん代表取締役社長の前田良博氏をお迎えし、「食のイノベーション」を切り口に、インド市場での挑戦についてご講演いただきました。進出前に描いていた想定と、現地で直面した現実とのギャップが大きく、インフラや食材調達、食文化の違いに戸惑いながらも試行錯誤を重ね、売上を3倍までに伸ばしたプロセスは、参加者にとって、海外展開における現実的な課題と可能性の双方を具体的にイメージする貴重な事例となりました。
また、本講演は、中小企業診断士として何ができるのかを改めて考えるきっかけとなり、進出前の現地調査やマーケティング、ローカライズの重要性を再認識する内容でした。
第3回講師 磯貝富夫氏(筆者撮影)
第3回インド通養成講座では、磯貝富夫氏(関西日印文化協会 副会長)をお招きし、「インドとタッグを組んで、創る未来!―中堅・中小企業のためのインド進出と成功の秘訣―」をテーマにご講演いただきました。前半では、世界から見たインドと日本の位置づけや、各国で活躍するインド人の存在感について解説があり、「インド世紀の到来」を印象づける内容となりました。
後半では、25年以上にわたるインドとの関わりを踏まえ、「日本とインドの違い10項目」や「インドとの付き合い方10か条(Do’s & Don’ts)」が、ユーモアを交えて紹介されました。さらに、最新のインド情勢や今後の経済動向にも触れられ、中小企業診断士にとって非常に示唆に富む回となりました。
第4回講師 笠井亮平氏氏(筆者撮影)
第4回インド通養成講座では、笠井亮平氏(日印協会顧問、岐阜女子大学特別客員准教授)をお招きし、「外交から読み解くインドの価値観と行動原理」をテーマにご講演いただきました。前半では、人口、GDP、軍事費などのデータを基に、国際社会で存在感を高めるインドの「大国化」の現状と今後の動向が解説されました。
後半では、戦略的自律を重視する外交姿勢や、グローバルサウスのリーダーとしての自覚、粘り強い交渉を特徴とする外交スタイルについて、日本との比較を交えながら紹介されました。加えて、「バーラト」という国名の由来や食文化の多様性、NHK「視点・論点」出演時のエピソードなども披露され、インド理解を多面的に深める内容となりました。
「導入講座」は、インド理解の共通基盤
導入講座の講師を務める森畑部員
本講座では毎回、外部講師によるメイン講座の前に導入講座を行ないました。
導入講座では、インド駐在経験を有する森畑部員が登壇し、現地でのビジネスや生活に基づく具体的な事例を交えながら、インドの全体像を分かりやすく解説しました。
インドの地理・歴史といった基礎知識から、インド人の行動特性やコミュニケーション、文化的背景までを俯瞰的に紹介し、参加者がインドを立体的に理解する機会となるようにしました。
印象深いものには、独自の発想法である「ジュガード思想」や、クリケットや映画といった娯楽産業を切り口とした価値観・マーケティングの考え方があり、日本との違いに感嘆の声や笑いが起こりました。
参加者からは、「本講座を理解するためのインドの全体像が整理できた」「駐在経験に基づく話が理解を深めた」といった声が寄せられ、導入講座は、インド理解の共通基盤となり、その後の各回のメイン講義を円滑に理解するための役割を果たしています。
懇親会の盛り上がりと下見
第1回講師河本憲治氏を囲んで盛り上がる参加部員(筆者撮影)
講師を囲んでの懇親会は、毎回ながら大盛況を収めました。講師のお話とお人柄が相まって、会話が盛り上がり、みんなでインドツアーへ行こうといった話も出るほどです。
懇親会で使ったお店の対応が良いことも参加者からお褒めいただくことも多くありました。
実は、懇親会の会場となるインドレストランには必ず事前に部員が訪問して、お店ときちんと事前に交渉をしていたのです。インド駐在の経験から「事前に顔を見て交渉することが大事」だということを知っているのです。特別メニューの設定や料金交渉など、日本人を超えた交渉術が功を奏し、心地よい懇親会が演出されました。
懇親会の中では、この講座で学んだことで、インド企業と上手く付き合うことができたというエピソードを教えてくださることもありました。インド企業の支払い遅延に関することで悩んでいたそうですが、インド通養成講座でインド人の行動や思考パターンの紹介を受け、「なるほど、これか」と思い、全く動じることなく交渉を成功させることができたそうです。開催者にとっては、講座が実務にお役に立てたことはとても嬉しいことでした。
「インド通養成講座」の開催を通して
インド通の企画担当、
松田部員
毎回、インドに通じたメイン講師に登壇していただきましたが、飛び込みで交渉してご承諾いただくこともありました。インドで培った部員の粘りの交渉が役に立ったのかなと思います(笑)。メイン講師の選考には、インドに実際に駐在した経験のある方、中小企業診断士の活動にためになる話が聞けること、他ではなかなか聞けない深いインドの話であることが重要視されました。
今後の課題としては、メイン講座の時間配分です。内容があまりにも盛り沢山、かつ面白い話ばかりなので、講師と事前に打ち合わせた時間を大幅に超過してしまい、開催側でお伝えしたいインド商談における重要ポイントの説明が不十分になるケースが多発したためです。今後はこの反省点を踏まえて、改善を重ねていきたいと思います。
最後に本講座は、当初、中央支部内部の開催予定でした。ところが第1回の案内をHPにアップするやいなや、東京協会の他支部や他県からの申し込みがありました。この反響の大きさを捉えて、当初の中央支部会員限定公開から第1回目は東京協会内、第2回目以降は全国の中小企業診断士へと参加枠を広げることとしました。中央支部の有吉国際部長をはじめ東京協会の役員の方々のご理解とご尽力には心から感謝しております。また、開催メンバーのチームワークの良さにもたいへん助けられ、講座の開催がスムーズに進んだこと、感謝いたします。
本年度は「フィリピン通養成講座」も開催されました。今後は他の国についても開催を検討していけたらと考えています。
楽しみにしていてください。
■鶴﨑 実穂子(つるさき みほこ)
2021年に中小企業診断士として登録し、中央支部国際部に所属。ICF国際コーチ
外資系・グローバル企業での新規事業・改善プロジェクトを経て、現在は外国企業の日本進出支援に従事。バイリンガルふろしき講師としての経験を活かし、観光インバウンド支援に携わる。
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