【質問】
創業を予定しており融資を受けたいのですが、その実行率が高まるような創業計画書を作るポイントを教えてください。

【回答】
〇創業融資の申請先について
まず、創業融資の申請先は、①国が運営する日本政策金融公庫、②民間の金融機関の大きく二つに分かれます。②の民間の金融機関を利用する際には、信用保証協会の保証が必要になることがほとんどです。そして、民間の金融機関を利用する場合、地方自治体の融資制度を利用することで、低利で融資を受けることができます。
ここでは、民間の金融機関を利用して融資を受ける場合についての説明を行います。民間の金融機関に融資申請する場合は、地方自治体の融資制度を利用することをお勧めします。地方自治体の融資制度を利用する場合、申請に必要となる創業計画書の作成の相談にのってもらえる他、融資が実行された場合には利息額の一部や信用保証料の一部を補助してもらえたりします。(補助の有無やその割合等は地方自治体によって異なるため、事前に確認が必要です)
また、創業融資の申請対象者も地方自治体がそれぞれ設定をしているため、確認が必要になります。
民間の金融機関を利用する場合、一般的な流れは、下記の通りです。①地方自治体で創業計画書の作成支援および融資のあっせんを受ける。②金融機関に融資申請を行う。③信用保証協会の審査を受ける。④融資の可否や融資金額について信用保証協会から金融機関に連絡がある。⑤金融機関から融資が実行される。⑥地方自治体から利息や信用保証料の補助を受ける。

〇創業融資の審査ポイントについて
創業融資における審査基準は①創業者の信頼性が高いか、②十分な自己資金を有しているか、③事業計画の実現可能性が高いか、の大きく3点と考えられます。
① 創業者の信頼性とは、創業前の経歴等から創業する事業の運営を行える能力を有しているか否かを判断されるものです。
② 自己資金については、計画的に資金を増やしてきたのかが審査されます。事業の運営は資金繰りが重要であるため、この自己資金の保有は非常に重要と考えられます。
③ 創業する事業の実現可能性については、創業計画書を基に面談等を通じて判断されます。
上記、3点の審査基準の中で、①、②はこれまでの経験や準備が判断されるのに対し、③は未来の計画作りとなります。したがって、創業融資を申請する段階で、①、②は過去の話であり、注力するのは③の創業計画書の作成となります。
したがって、過去の経験を活かした創業であったり、そのために十分な自己資金をためてきた方はその時点で非常に有利となります。
では、過去の経験を活かしたものでなく、自己資金も十分に集めることができなかった方は、というと創業計画書の作成の内容をより具体的で納得性の高いものにする必要があります。

〇創業計画書を作成する際に気を付けることは
定性面の内容について
創業計画書では①事業内容、②創業の動機、③創業者の強み、等定性的な内容を記述する必要がありますが、この内容は、一般的な記載例などを真似て記述するのは、避けた方が良いです。融資を審査する担当者は、創業者の本質を見極めることに長けています。そのため、創業者でしか書けない内容(具体的な過去の経験や、創業事業の具体的な長所等)の記述が有効であると考えられます。
例えば、創業の動機については、創業に至る経緯や今回創業に至ったターニングポイントを具体的に記述します。保証協会の担当者とは必ず面談がありますので、その際に聞かれそうなポイントは創業計画書に盛り込むと良いでしょう。

定量面の内容について
創業計画書では損益計画を作成する必要があります。融資においては金融機関(および保証協会)の審査がありますが、融資した額がきちんと返済できるか否かを判断されることになります。そのため、損益計画は実現可能性の高い内容となっているかが重要です。
特に重要となるのが、売上計画です。売上の根拠を具体的に検討し、売上額の算出を行います。例えば、飲食店の場合、月1,000千円の売上計画とした場合、その根拠が必要です。「月1,000千円を目標にする」という内容では、その実現可能性は高いとは判断できません。
例えば、週末と平日で客数が違うことが想定されます。そのため、週末と平日それぞれ、客数および客単価を想定して算出する必要があります。また、月により、週末の日数と平日の日数に違いがあるため、月別にその日数を計算して、売上の数値を固めることでより実現可能性が高まると考えられます。
その際になぜ、その客数、客単価になるのか、検討を十分に行うことが重要なのは言うまでもありません。客数は長期的には増加していく計画とするのが理想ですが、季節要因もあるため、その影響も考慮する必要があります。
また、売上計画を立案する際は、上限額を考えることが非常に重要です。飲食店の場合は、店舗規模や従業員数の制約があるため、店舗の売上にも上限があると考えられます。そして、その上限額を踏まえて目標を設定し、その目標をどの時期(半年後なのか、一年後なのか、等)に設定するのかが重要です。目標を達成した後、さらに売上を増加させるためには、店舗の増設や従業員の拡充、販売形態の見直し等を検討する必要があります。
現有の資源を活用して達成可能な売上高を意識しながら、時間軸を考えてゴール(目標)を達成する計画を作成することが重要です。

売上計画を検討するのと並行して、事業に必要となる経費を見積もることも重要です。
融資を申請する場合は、計画書の内容をもとに申請額の上限額が決まります。基本的には、創業前および創業後3か月間に必要となる設備資金、運転資金の合計額が、申請の上限額となります。また、融資制度にも上限額が設定されていますので、創業時に必要な費用が仮に2,500万円とした場合、申請する融資制度の申請上限額が1,500万円とすると、申請する融資制度の他に1,000万円の資金調達方法を考える必要があります。また、申請する融資制度の申請上限額が1,500万円であっても、創業時に必要となる資金が1,000万円であれば、1,000万円が融資申請の上限額となります。
そして、必要となる資金の内訳も必要となります。設備資金には見積書が必要であり、運転資金については、創業計画書に記載した金額(創業前および創業後3か月に必要とされる金額)がその根拠となります。もちろん、それらの金額の妥当性についても金融機関、保証協会等で審査されることになります。そのため、必要と考える資金について、なるべく詳細な内容を記載する必要があります。
また、売上計画を達成するためにどのような取組を行うのかも併せて検討する必要があります。例えば、広告宣伝費が必要な場合は、その経費も損益計画書に盛り込む必要があります。

以上の要素を論理的に組み立てることで、納得性の高い計画書にすることができます。

〇最後に
創業計画書は、事業を進める上での道標となるものです。事業を行う中で、計画通りに進まないこともあると思いますが、事業の実績と計画を比較することで改善できることもあります。創業計画書は融資申請に必要であるだけでなく、事業の運営にも活用できる点で創業者にとって非常に重要なものと考えられます。

略歴
永井謙一
東京都中小企業診断士協会 中央支部 経理部副部長
中小企業診断士