■アメリカ企業におけるテレワーク動向
新型コロナウイルスの影響で、急速にテレワークが普及しました。総務省の通信利用動向調査(令和4年)によると、令和4年のテレワーク導入状況としては、「導入している」と「導入していないが、今後導入予定がある」を合わせると55.2%となっており、現在も半数以上がテレワークを導入・活用しようとしていることがわかります。
一方、コロナ禍以前よりテレワークが進んでいたアメリカ企業では、出社回帰の傾向が顕著になっています。特に、全く出社せずに業務を行う完全テレワークが根付いていたIT業界においても、強制的に出社を求める企業が増加しています。例えば、Google では、週3日はオフィスに出勤することを求めており、会社が出社状況を追跡し、業績評価に反映する方針を打ち出しています。Amazonも週3日以上のオフィス勤務を要求しており、その方針を受け入れなければ会社に残ることは難しいと経営陣が警告しています。出社回帰といっても多くの企業では出社とテレワークを組み合わせたハイブリッドでの勤務としていますが、中にはテスラのように週5日(週40時間)の出社を命じる企業もあります。単なる呼びかけや福利厚生(カフェテリア等)の充実だけではオフィスに社員が戻ってこないことから、強制的に出社を促す方向に舵を切っていますが、従業員側からの反発は大きく、「テレワークで働きたい従業員vs出社してほしい経営陣」といった対立構造が浮き彫りになっています。

■出社回帰の要因
完全テレワークが浸透していたにもかかわらず、出社を強制するのはなぜでしょうか。 
第一に、コミュニケーション不足による生産性の低下が挙げられます。対面であれば、わからないことをすぐに聞いて解決できますが、リモートの場合は気軽に相談するのが難しいことから生産性が低下する恐れがあります。Facebook等を運営するメタでは、リモートで入社したエンジニアよりも、出社からリモートに移行したエンジニアもしくは出社を続けたエンジニアの方が優れたパフォーマンスを発揮していると分析し、対面で築いた関係性は仕事を効率的に行うのに役立つとしています。対面でのコミュニケーション不足は、こうした従業員間の関係構築の機会が減るだけなく、組織文化の希薄化や帰属意識の低下にも影響するため、出社回帰の大きな要因の一つといえます。
また、テレワークではイノベーションが生まれにくいことも挙げられます。イノベーションが促進されないのはテレワークによる影響だけなのかの判断は難しいところですが、対面によって得られる刺激や情報が新たなアイディアを生み出す源泉になることは間違いありません。対面でのコミュニケーションや協働はイノベーションの創出に効果的であり、イノベーションの創出を重視する企業ほど、直接的な交流を促進することが求められているといえます。
その他、勤怠管理の難しさや、テレワークができない職種との公平性の担保など様々な要因が挙げられますが、それでも完全出社ではなくハイブリッド出社とする企業が多い背景には、従業員への配慮があります。テレワークを希望する従業員が多いからこそ、離職防止のために一定の自由度を与える形で落ち着いたともいえます。今後、出社回帰による成果と課題が明らかになってくると、新たな動きが出てくる可能性もあるでしょう。

●テレワーク運用見直しの重要性
アメリカ企業の動向からわかるように、テレワーク導入後はその効果や課題を分析し、自社に適した運用方法を見出していくことが求められます。それらを検討するためにも、自社がどのような組織を目指すのか、何を重視するのかを明確にしておく必要があります。テレワークは導入して終わりではありません。定期的に振り返りと見直し・改善をしていくことが求められます。

●略歴
清水 美里
中小企業診断士
一般社団法人 東京都中小企業診断士協会中央支部 執行委員/ビジネス創造部 副部長