原 千津

 
 直近の会社の決算期に作成した、「税務申告書」並びに「決算書」、同時期の「履歴事項全部証明書(もしくは現在事項全部証明書)」、この3つを手元においてみてみましょう。
1.「税務申告書」・・・「別表1」資本金の額、「別表2」発行済株式総数の株数
2.「決算書」・・・貸借対照表の資本金の額
3.「履歴事項全部証明書」・・・資本金の額、発行済株式総数の株数
 これらの3つの書類にある、資本金の額、並びに発行済株式総数の株数は全て一致しているでしょうか?
 通常は一致して然るべき内容ですが、私の携わった中小企業の中にはこれらが一致しない企業が複数ありました。
 要因は、中小企業内部の総務経理機能が不十分であることを、十分に認識した上で、アウトソーシング先を選定していない点にあると考えます。
 現在は、こういった中小企業に対して、税理士事務所や専門企業がアウトソーシングによりこういった機能を担うことがありますが、アウトソーシングの前提として、外注する内容や時期が明確であるからこそ、外部への依頼が可能になります。逆に言えば、その依頼以外の事案が発生した時には、中小企業の内部で対応する必要があります。
 私の携わった中小企業は、企業の内部管理の知識を有した社員の存在が無かったため、社長が複数の社外の専門家を事案ごとに頼る、というケースでした。議事録作成や登記の手続きは司法書士に、税務申告は税理士に依頼、といった状態です。
 社長は自身の経験から社外の専門家に個別にアウトソーシングをしていたのですが、滅多に発生することのない事案である、増資、株式の異動、売却にかかる手続きの、依頼の一部を怠ってしまったのです。その結果、会社の書類に複数の資本金の額や、発行済株式総数が存在することとなりました。
 怠ったというのは単に”忘れている”という場合も考えられますが、”手続きが必要であることを知らない”という場合も含まれます。経営の助けとなるアウトソーシング先とその依頼内容を選別するのは、自社の置かれている現状の”弱み”を認識するのが重要であるため、その段階で専門家を依頼することが有効な場合もあります。
 この会社の場合、(1)事案ごとに依頼先・内容の判断を社内でできる状況か、(2)その事案ごとの判断自体も社外に依頼するか、という選択肢がある中で、(1)を選んだことがこのような状態を招いてしまいました。もちろん、信頼できる依頼先である、という点は、いうまでもありません。
 自社の置かれている状況、社内体制などを踏まえて、適宜、経営の助けとなる外部の専門家を活用しましょう。
 時には、アウトソーシングの選定段階で、専門家を頼るのも有効です。
 
 
 
■原 千津
(一社)東京都中小企業診断士協会 中央支部執行委員
コンサルティングオフィス Brands 代表
http://brands-jewelry.com/pg149.html