佐藤 裕二

 巷に「ゆるキャラ」があふれる今日この頃。今は商店街振興でも必ず話題になるのではないでしょうか。では皆様「ゆるキャラ」の定義はご存知でしょうか。先日某短大の「販売・起業コーディネート論」で「ゆるキャラで町おこし」という内容で講義いたしましたので、そこから近頃の「ゆるキャラ」事情とその成功例をご紹介いたしましょう。
 2013年の「ゆるキャラグランプリ」は現在投票が行われています。11月24日には結果が発表されます。10月前半までは「出世大名家康くん」がトップでしたが、はたして最終結果はどうなるでしょう。昨年の優勝は愛媛県今治市の「バリィさん」、2011年は今や絶大な人気を誇る「くまモン」がグランプリをとりました。「ゆるキャラ」の成功例としての「くまモン」の話はあとにして、まずは「ゆるキャラ」の定義をひも解いてみましょう。
ゆるキャラの定義は「ゆるいマスコットキャラクターのこと」
 「ゆるキャラ」という名称は漫画家・エッセイストであるみうらじゅんが考案したとされています。また2004年11月には「ゆるキャラ」という言葉が、扶桑社とみうらじゅんによって商標登録されています。これは無関係な第三者により商売に利用されたり、第三者に商標を取られ「ゆるキャラ」という言葉が自由に使えなくなることを防ぐためだったようです。みうらじゅんは「ゆるキャラ」としては以下の三要素が必要だと提唱しています。
①郷土愛に満ち溢れた強いメッセージ性があること。
②立ち居振る舞いが不安定かつユニークであること。
③愛すべき、ゆるさ、を持ち合わせていること。
 そして原則として着ぐるみ化されていることとしています。なんとなく「ゆるキャラ」と認識していますが、地元、郷土に密着していないといけないわけですから、着ぐるみのキャラクターをなんでも「ゆるキャラ」と呼んではいけないことになります。
 2013年の「ゆるキャラ」グランプリへのエントリー数は1,580キャラです。「ゆるキャラ」乱立の時代となりました。可愛くない、恥ずかしい、残念なキャラがあなたの地元にいるかもしれません。
「くまモン」はどうして成功したか?
 しかし乱立気味の「ゆるキャラ」のなか一番の成功例と誰もが認めるのは「くまモン」ですが、この成功の理由を熊本県庁チームくまモンの担当者は「くまモンの秘密、地方公務員集団が起こしたサプライズ」(幻冬舎新書)という本のなかで次の5つを挙げています。
①ターゲットを明確にする
②TPOに合ったメディア戦略
③SNSの最大活用
④くまモンの爽快な動き・表現の豊かさ
⑤くまモンを活用したPR・広報へのトップの理解と支援
 そしてこの前提条件となるのが「おくりびと」のプロデュースでも有名な放送作家、脚本家、小説家、プロモーション企画の立案でも有名な小山薫堂と熊本県がかかわることになったのが大きかったのです。「くまモン」という「ゆるキャラ」が生まれたのはかならずしも意図していなかったともいえます。「くまモン」が有名になっていくのは時系列にすると、
①縁あって小山薫堂。
 九州新幹線の開業プロモーションのスローガンは「くまもとサプライズ」
②ロゴマークのついでに「くまモン」がついてきた。
 →水野学のロゴデザインと「くまモン」
③デビューは平成22年3月24日、まだ誰も知らず…
④子供たちから愛されるために…地元では保育園・幼稚園まわり。
⑤「くまもとサプライズ全権大使」就任。
 「大阪サプライズプロモーション」で、一万枚名刺配り、そして失踪演出の話題作り。
⑥「大阪サプライズプロモーション」と地元くまもとでの地道な活動の相乗効果。
⑦ゆるキャラグランプリ2011優勝。
大阪サプライズには小山薫堂のプロモーション案満載
 「大阪サプライズ」プロモーションは小山薫堂の考え方が反映され「名前を覚えてもらえないので、名刺を作りました。」と一万枚の名刺配りを、地元でなく県外で活動させるものでした。九州新幹線に乗って熊本に来ていただきたい関西がそのターゲットになったのです。そしてくまモンを関西各地に出没させる、ブログに活動報告をアップ、ツイッターで出没状況をつぶやく、つぶやいてもらう。面白い名刺を配り、ブログやツイッターへ誘導する。新聞・ラジオ・交通広告のメディアミックスで認知度アップさせるなどお金をかけないでも有効な、そして面白い展開をしていきました。
 そしてさらなるプロモーション「くまモンを探せ大作戦」はくまモンの失踪を演出、現役の熊本県知事の緊急会見を開催します。この様子を全4話のショートストーリーとしてオフィシャルサイトにアップしました。いずれもWeb、SNS、動画サイトなどの現代的なメディアと、記者会見などによるテレビ、新聞、雑誌といった既存メディアを巻き込み「くまモン」が有機的に結びついています。そして何より「面白いこと」を演出することで、興味を掻き立て、お金をかけずに知名度を上げています。くまモンの知名度アップは最終的に熊本の知名度向上に繋がっています。
「くまモン」 熊本県営業部長に
 「くまモン」によるプロモーションの費用対効果は予算の8倍?とも言われ、小山薫堂の「もったいない主義」にある「伝えるためだけにお金を使うのはもったいない。みんながアッと驚くようなおもしろいことをやったらそれだけで人は自然に集まる。」を実践しています。
 また「メデイアへの露出」という面では、県知事と一緒に吉本新喜劇への出演したり、関空夏祭り、ゆるキャラ出張などが記事になり、広告費に換算すると予算の8倍の効果があったとも言われています。
 さらに「企業とのコラボレーション」を進め、大平燕(スープ春雨)・UHA味覚糖(ぷっちょ)・カゴメ(野菜生活)などに始まり、いまや何百というグッズが出回っています。そしてそのベースには「キャラクター利用料無料」があります。監修は熊本県の担当者がしていますが、みんなが「くまモン」で儲けてもらい、熊本が元気になれば…と利用料無料にしたことが商品化に大きな広がりを見せています。2012年半年の商品売上は293億円で、蒲島郁夫熊本県知事はくまモンには年間1,000億円の価値があると言っています。
 また「くまもとから元気をプロジェクト」として「くまモン」は既に韓国、シンガポール、台湾に出没しています。上海に進出して、上海発でアジアへ発信しようとしています。知事と一緒にシアトルに出張した時もアメリカ人に好評だったということですが…。
そして今注目は「ふなっしー」
 くまモンのあと今までの「ゆるキャラ」とはちょっと違ったかたちでメジャーになりつつあるのが、船橋市非公認キャラクター「ふなっしー」です。製作者は地元の雑貨店経営者で、「梨の妖精のイメージに船橋の海を表す青いシャツを着せた。」という姿で、「なっしー」言葉をしゃべり、上半身の小刻みな動きや全身の激しい動きがいままでのゆるキャラと違うということで動画サイトを中心にブレイクしました。
 そしてDVDが初登場オリコン5位、ご当地キャラ総選挙では、全国480キャラの頂点になりました。たった一人の経営者が38,000円で着ぐるみを作ったことから始まり、いまや各種メディアに露出している「ふなっしー」にも注目してください。
■佐藤 裕二(さとうゆうじ)           
一般社団法人東京都中小企業診断士協会認定 福祉ビジネス研究会 代表
中小企業診断士・社会保険労務士・公認内部監査人(CIA)
介護ヘルパー2級・福祉用具専門相談員
東京協会会員部副部長・東京協会中央支部会員部部長
㈱学研ホールディングス 監査役会事務局長
経歴:
上智大学法学部卒、1982年(株)学習研究社入社、玩具・文具部門、玩具文具子会社で営業・営業企画・マーケティング・版権・商品企画製作部門を経て、2005年より(株)学研ココファンで高齢者専用賃貸住宅の企画開発担当。2008年介護人材派遣事業の(株)学研ココファンスタッフの立ち上げ担当。2009年4月より(株)学研ホールディングス内部統制室、2013年8月より監査役会事務局長。