飯野 純夫

1. はじめに
 株式を公開しているような大企業では、ほとんどの企業が経営計画を策定しています。しかし、中小企業においては、経営計画を策定していない企業がほとんどではないでしょうか。確かに、「わが社は経営計画を策定している」と言う社長さんはかなりいます。でも、よく聞いてみると、「今年度の売上は○○億円」とか「営業利益○○百万円必達」というような経営目標であることがほとんどです。
 そこで、「では社長さん。その売上をどうやって達成するのですか」とたずねてみると、明確な答えが返ってこないのがほとんどです。経営目標を達成するための施策や行動計画があって経営計画と言えます。
2. 経営計画策定のメリット
 では、なぜ経営計画を策定する必要あるのでしょうか。私は、その理由を以下の5つのメリットがあるからと考えています。
(1)経営ビジョンや経営目標がわかり会社の将来がはっきりする
 従業員が自社の経営ビジョンや経営目標を理解することにより、ベクトルを合わせて力強く業務に打ち込むことができます。
(2)中長期的な目標が設定されるため、効率的な経営をおこなうことができる
 通常、経営計画は3~5の中長期目標を設定するため、経営者にとっての道標となり効率的な経営を行うことができます。
(3)自社の外部環境や内部環境が明確になる
 経営計画を策定する過程で、外部環境(自社にとっての機会や脅威)や内部環境(自社の強みと弱み)が明確になり、適切な施策をつくることができます。
(4)自社の将来がわかるため、従業員のモチベーションアップにつながる
 上記の(1)とも関連しますが、従業員が自分の将来像を描く事ができてモチベーションがあがります。また、必要とされる技能や能力もわかりやすくなるため、自己啓発も的を射たものになります。つまり、人事政策上の効果も期待できます。
(5)金融機関からの評価があがる
 経営計画が策定されているということが、金融機関の評価につながります。その結果、融資を受けやすくなるばかりか、場合によっては、金融機関のバックアップを受けることも可能になります。
3. 経営計画の策定方法
 経営計画策定の必要性やメリットを理解できても、どのようにして策定したら良いかわからない社長さんがほとんどかもしれません。しかし、専門家のアドバイスを受けながら、以下の手順で策定することにより、誰でも策定することができます。
(1)経営計画策定の意義を考える
 なぜ経営計画を策定することになったのか、その意義を考えて整理し、社外や社内への社長のメッセージとしてまとめます。
(2)経営理念や経営ビジョンなどを整理する
 経営理念とは、企業経営における基本的な価値観、精神、信念および行動基準をあらわしたもので、社長の経営に対する思いです。これに対し、経営ビジョンは「将来はこういう会社になりたい」という夢です。そして、経営ビジョンで会社の方向性が決まるため、最も重要なプロセスです。経営計画を策定する過程で、経営ビジョン作成プロジェクトが別途編成されることもあります。
(3)外部環境と内部環境の整理を行う
 外部環境については、経営環境と業界特性を中心に分析しますが、常に、顧客、競合、自社の観点からの分析が必要です。つまり、「顧客は何を考えているか」「市場はどのように変化しているか」「競合はどこか」「競合の経営戦略やビジネスモデルはどのようなものか」を考えます。また、外部環境は制御不可能なため企業にとって変化対応力が必要になります。内部環境については、経営実態を定量的および定性的の二面から自社を把握します。また、内部環境は制御可能なため企業にとって改善改革力が必要になります。
(4)経営目標を立案する
 いよいよ、経営ビジョンを実現するための経営目標を立案することになります。その経営目標には、定量的な目標と定性的な目標があります。定量的な目標は、売上高、営業利益、経常利益などの実数と売上高経常利益率、総資本経常利益率、総資本回転率などの指標に分かれます。また、定性的な目標としては、例えば、海外事務所の開所、社内体制の整備、お客様サービスの向上などがあります。
(5)経営方針を確認する
 経営目標を実現するために、「人」「物」「金」「情報」などの経営資源をどのように活用するか、また、不足している経営資源については、どのように調達するかが重要になります。例えば、海外事務所の開所のための語学力ある人材が不足している場合は、社内で育成するか、ネイティブを採用するかの判断を行います。
(6)主要施策および行動計画管理表を作成する
 外部環境や内部環境の整理と経営方針の確認を踏まえて、経営目標を達成するための年度毎の主要施策を考えます。ここで注意することは、PDCAサイクルを回しやすくするため、数値化できる施策が望ましく、行動計画として展開しやすい項目にし、表現も具体的にします。次に施策を行動計画に落とし込みます。例えば、どの部署で、何をいつまでに実施するかを決め、責任者も決めます。行動計画については毎月実績把握を行い、PDCAサイクルを回します。
(7)目標利益計画を作成する
 3年間の中期計画であれば、3年分の目標利益計画と1年目の月別計画が必要になります。項目は、売上高、売上(製造)原価、売上総利益、販売費及び一般管理費、営業利益などが一般的ですが、特に注意する項目がある場合はそれも入れます。例えば、製造原価の材料費の圧縮が特に必要であれば当然計画に入れます。ここでも、PDCAサイクルを回すことが必要です。
(8)実績と評価
 計画と実績の差異分析を月次で行うことにより、実績が計画から大幅に乖離した場合は、原因の追及と共に経営計画の修正も必要になります。これは、計画未達の場合も実績が計画を大幅に上回っている場合のどちらも必要です。
4. 部門計画と個人業務目標の作成
 経営計画の策定が終わったら、部門毎の計画を同様に作成します。数値目標は経営陣から指示しますが、その達成方法は各部門で検討します。最後に、部門計画に則った個人の業務目標を作成して出来上がりです。
 例えば、会社の次年度の売上目標が○○億円、営業第一部の売上目標が○○億円、Aさんの営業目標が○億円というようになります。また、経理部門の計画が新経理システムの構築でBさんの目標が効果的な資金繰りの実施、ということもありえます。
 また、経営計画の策定により、本来業務がおろそかにならないように、十分余裕を持って策定することが必要です。3月決算ならば、11月頃検討を開始して、3月中旬の完成を目途にしたほうが良いでしょう。
■飯野 純夫
中小企業診断士、証券アナリスト、産業カウンセラー