大野 勝恵

 
1.はじめに
 ”発達障害”という言葉を耳にする機会が、ずいぶん多くなったように思う。”障害”と呼ぶことの是非はともかくとして、周囲の人たちはもとより当の本人すらそう呼びたくなるほど不自由な状況に陥ってしまう、ということなのだろう。
それが今、企業の間で深刻な問題になり始めている。例えば、優秀な成績で大学を卒業したのに新人研修でキレて辞めてしまう、”自分の能力にふさわしい仕事”を求める、といった対応の難しいケースが続出しているのである。
2.”発達障害”とは
発達障害者支援法では、”発達障害”を「自閉症、アスペルガー症候群その他の広汎性発達障害、学習障害、注意欠陥多動性障害その他これに類する脳機能の障害であってその症状が通常低年齢において発現するものとして政令で定めるもの」と定義している。
 自閉症スペクトラム障害(ASD)とも呼ばれ、社会的関係形成の困難、こだわり、知的発達の遅れがない等の特徴があり、脳機能の働きに問題があることがわかってきている。周囲から理解されない辛さや浮いてしまう寂しさを、長く抱えて続けている人も多い。
3.就労支援はある、しかし…
すでに、”大人の発達障害”という言葉も使われるようになってきており、厚生労働省も「障害者試行(トライアル)雇用」や「若年コミュニケーション能力要支援者就職プログラム」など様々な対応を打ち出している。
しかしながら、いったん就職してしまった後はほぼ企業にお任せというのが現実である。顧客の前でマジギレする社員をどう叱ればいいのか、教えたやり方を無視して自己解釈で仕事を進めようとする社員をどう教育すればいいのか等、人事担当者の悩みは深い。
4.個別対応はどこまで可能か
 『発達障害に気づかない大人たち<職場編>』星野仁彦著(祥伝社新書2011年)では、職場で周囲ができる工夫を「仕事の進め方」「コミュニケーション」「職場環境」の3つの問題に分けて紹介している。
 例えば、想像力が弱く先を見通すのが苦手な人には仕事の手順を考えたり所要時間を推測したりしなくて済むスケジュール表を作って何度も確認させる、耳から情報を取り入れるのが苦手な人には指示を紙に書いて渡すと伝わりやすい等である。
5.適材適所
 発達障害は究極の個別対応を求めるものではあるが、そこで編み出される様々な工夫は、社員ひとりひとりの個性を見極めて仕事に活かす、という、企業がこれまでも大切にしてきた「適材適所」の延長線上に位置するものではないかと考える。
 ひとりの「やりやすい。」を考えたら皆の生産性があがった、というのは良くあること。逆に、皆の「空気を読め。」「こんなこと常識。」を一から疑ってみると、案外、思い込みや慣れが生みだす非効率や人間関係の軋みが浮かび上がってくるのではないか。
 
 
 
■大野 勝恵
中小企業診断士
社会福祉士
産業カウンセラー
一般社団法人東京都中小企業診断士協会中央支部副支部長