橋本 泉

1.はじめに
 消費税率増加を前に、「消費税増税後に予想される需要の落ち込みに、具体的にどのように対応したらよいでしょうか?」とのよく相談を受けます。
「消費税増税に備えて価格表示をどうするか」、「業界大手は価格を据え置くようだが、当社はどうすべきか」等、消費税増税そのものへの対策は、中小企業庁や国税局等から出されているパンフレットやガイドラインに示されています。しかし、増税後の家計負担増加による買い控えによる消費の落ち込みへの対応には、いろいろな方法がありそうです。その1つの方向を「シニア消費」を軸に考えました。
2.シニア消費への着目
 消費税が増税になっても、人は消費をやめるわけではないので、日々の需要にしっかり応える店としてのあり方を考え、品揃えやサービスを今以上に充実させることが最も確実な対策です。その中で私は「シニアの消費傾向」に注目しました。ヒントは、訪問した店舗の経営者が「年金の支給がある月は、売上が上がる」と語っていたことです。何件かの店に確かめてみると、2ヶ月に1度、2ヶ月分の年金が支給される日に、明らかに増える店もあるとのこと。新聞(平成14年1月9日付日本経済新聞)にも「シニア消費伸び鮮明」とあって、60歳以上の世帯消費が、消費の47%(概略で半分)を占めるように増えたことを報じていました。コンビニエンスストアを利用する世代も、1990年代は30代以下が、80%、40歳以上の世代は20%でしたが、2013年では、40歳以上が、50%に増えています(セブン・イレブンのデータを参照)。
 経営環境変化には不確定な要素が多い中、人口の年齢変化は、確定した未来です。ここにヒントがあるのではないか?
 全人口(1億2700万人)で言えば、2000年に17%だった65歳以上は2014年で25%に増え(4人に1人)、6年後の2020年には29%になり、2035年になると33%(3人に1人)を超えて、2060年には40%(10人のうち4人)に、構成比が増えます。(出典:「日本の将来推計人口」国立社会保障・人口問題研究所)
3.シニア消費の中身
 市場での構成比が増え続けるシニア年代は何を買っているのか?総務省の家計調査(2013年11月分)から、年齢階級別の品種別消費額を見てみます。ここでは紙幅の制限もありますので「消費税増税でも、消費をやめるわけではない」食品に絞り、どの年代がどの商品を買っているのか、傾向を掴みます。
 単身世帯を除いた2人以上の世帯について、世帯主年齢を39歳以下の世帯、40~59歳の世帯、60歳以上に区切りました。(2013年11月分)市場の総需要のうち、世帯主が団塊ジュニア以下の39歳以下の世帯、子供がいる40~59歳の世帯、退職者が増える60歳以上の世帯が、それぞれ何%を占めているか、分かります。
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4.「伸びるところを伸ばす」販売戦略
 では、データに基づいて品種別需要を世代別にみたとき、最も多く買っている世代に、もっと買ってもうらうにはどうすべきか、考えてみます。
 パン、肉類、菓子類、飲料、外食の項目は、子育ての現役(40~59歳世帯)が、大きな構成比率となっています。これらの品種では、この世代の買い方、買う目的、食べる目的を追求して店頭での提案を行います。
 60歳以上の世帯の消費額が、若い世代より多いのは、米、魚介類、野菜類、そして特に果物(構成比56%)です。これらの商品は、「60歳以上の高齢者向けに適合する商品と販売形態」であることが、店舗側に強く意識されておく必要があります。果物を買っているのは過半数以上が60歳以上、ということがわかれば、果物の種類、味覚、販売形態、価格、量目について、もっと60歳以上に売るためにはどうしたらよいかを考えます。1コから買える量り売り、今日が食べ頃のラフランス、多種のカット・フルーツの盛り合わせ、皮離れの良い柑橘類等々。60歳以上の世代は、今後も、毎年、ほぼ100万人規模で増える世代です。米、魚介、野菜、果物を、もっと多く、60歳以上の世代に買ってもらうには、どんな商品を、どう提供するのか、が考えどころです。
 もっとも、経営者や店頭のスタッフは、すでに肌感覚でこうしたことを感じ取っていることでしょう。今回は全国規模のデータですが、関与先で商圏に合わせた同様のデータを提示すれば、相手は「やっぱりそうだったか」と納得し、安心して商品戦略、販売戦略の方向を絞り込むことができます。一方で、時には思い込みや想定と異なる場合もあります。60歳以上の消費割合が、想定していたものより多いか、少ないか?そうした気づきも、対象顧客のニーズを反映させた売場作りには必要なことです。
■橋本 泉
中小企業診断士
販売士1級 
専門分野:小売・サービス店舗支援、接遇向上、人材育成等