南雲 智子

 スマートフォンやタブレットが普及する中、消費者の購買行動の多様化が進んでいます。昨今、「オムニチャネル」という言葉を耳にすることが多くなってきていますが、今回は「オムニチャネル」の概要やメリット・デメリットを考えながら、顧客獲得、売上向上のポイントを探っていきます。

●オムニチャネルとは?
 ここ数年、TVや新聞等で「オムニチャネル」という言葉を目にする機会が増えています。「オムニ=omni」は「いつでも・どこでも」という意味で、ネットワークの進展やスマホの普及によりお客様はいつでも、どこでも買い物ができる環境になりました。「O2O」(オー・ツー・オー=Online to Offline)と呼ばれるネットから実店舗へ送客を行う販促活動も活発化していますが、これもオムニチャネルの取り組みの一つです。
 オムニチャネルではO2Oに加え、実店舗とECをまたいでの顧客管理や在庫状況の把握、配送ルートの整備などを行い、顧客との接点を増やすことで、いつでもどこでも買物をできる環境を作りだすことが目的となります。

 オムニチャネルという考え方が生まれた要因のひとつに、スマートフォンの普及による消費者の行動の多様化があげられます。消費者はスマートフォン1台あれば購入に必要な情報を収集でき、買い物までできるようになりました。オフライン(店舗など)もオンライン(通販サイトなど)も、欲しいものを手に入れるために取りうる複数ある選択肢のうちのひとつとなったのです。
 商品の検索は店頭だけでなくネット上でも行い、価格や他の購入者の口コミも調べることができます。商品の受取も店頭や宅配、最寄りのコンビニなど選択することが可能となっています。

 このような状況の中、小売業は「どこで何を売るか」という考え方から「誰に向けて何を伝え、どうやって買ってもらうか」という考え方にシフトするようになりました。

●オムニチャネルのメリット・デメリット
 報道によると、セブン&アイ・ ホールディングスはオムニチャネルに対応するために約1,000億円のシステム投資を行うそうです。消費者の属性やネット上の行動、購買履歴などのデータを分析して消費者ごとに最適な商品をタイミングよく告知し、来店して頂くことで、店頭での商品提案力と接客力によりその消費者を自社で囲い込むことが狙いと想定されます。

 オムニチャネルに取り組む企業側のメリット、デメリットをここでまとめておきたいと思います。

◆メリット
 様々なチャネル間で顧客情報(商品の購入履歴や趣味趣向)を共有することができるため、顧客の購入パターンやニーズを見通す広い視野が得られる。またそれらの情報を統合させて、顧客にとって適切なワントゥワンマーケティングを実施することができる。

◆デメリット
 環境構築のための多大な投資が必要である。
 各部門間の連携の見直し、組織の整備が必要であり実施までに時間がかかる。

●オムニチャネルの事例
 ここまで読み進めると環境構築のために巨額投資が必要であり、中小企業にとって難しい話の様に感じるかもしれません。しかし、このように考えてみてはいかがでしょうか?

 オムニチャネルとは、消費者がどこにいても、どんな状況でも、その時に最適と感じる方法で、自分にとってより価値の高い商品を探し出し、すぐに購入することができる環境を実現すること。

 これは、ビジネスを行う上で、企業が消費者のために目指すべきことではないでしょうか?
 インターネット利用が当たり前になり、スマホやタブレットが普及し、人々はSNSで価値ある情報をシェアし合い、ネット決済や電子マネー利用への抵抗感も無くなりつつあります。

 企業が消費者から選ばれ続けるためには、消費者のための環境構築が必要です。そして、できることから少しずつ始めれば、誰でもそれに取り組めるサービスが利用可能な状況になりつつあります。

・事例1「店舗からネットへ」
 色違いやサイズ違いなど店頭に在庫がない場合、スマホでQRコードを読み込んでもらいネットストアに誘導。店舗にいながらネットで買い物してもらう。店舗の在庫数を増やすことなく売り上げを増やす仕掛けである。

・事例2「ネットから店舗へ」
 Facebookで商品について説明し、興味をもってもらい、ECサイトに誘導します。
 注文された商品を、店舗で受け取れる仕組み。店頭でのついで買いを誘発できます。

●最後に
 オムニチャネルを考える上で、最も重要なことは、消費者の消費行動を観察し、消費者を第一に考えることです。
 オムニチャネルは「単純に、どこで売るか?」という話ではありません。消費者にとって最適な環境を構築し続けることが大切になります。消費者の消費行動を踏まえて、自分たちが選ばれる理由を構築し直すこと。それがオムニチャネル対策です。自社以上に消費者と真剣に向き合い、消費者のために行動し続ける競合には、決して勝つことはできません。

 また、どんなにスマートフォンやSNSが普及しても分からないことがあります。それは消費者が他店で購入した理由や、そもそも購入しなかった理由です。過去のデータだけに頼るのではなく、店頭での消費者との双方向のコミュニュケーションでニーズを探ることも非常に重要です。そして、笑顔で親身に接客することも重要な購買理由となります。オムニチャネルはシステム投資やデータ分析だけではなく、直接的なお客様との接点である「接客」によって競争優位に立てることもあり得ます。

 多額投資が出来ない中小企業でも、Facebook等を活用しできることから始め、また消費者との接点を大切にしていくことで、顧客の囲い込み、売上を上げることが十分可能であると考えられます。

■南雲 智子(なぐも ともこ)
中小企業診断士
(一社)東京都中小企業診断士協会 事業開発部部員、
同中央支部 執行委員、ビジネス創造部副部長、青年部部員。
メーカーにて、マーケティング調査、広報、システム構築などを経験。