姫野 智子

●大相撲の人気が復活
 9/27に千秋楽を迎えた大相撲秋場所は、横綱貴乃花が全勝優勝した96年の秋場所以来19年ぶりに、全チケットが完売となりました。両国国技館の定員は約11,000人ですので、15日間で16万5,000人が来場したことになります。
 また企業が広告効果を期待して出す懸賞金(企業名や商品名の書かれた旗を持った人が、仕切り中に土俵の回りをまわっている、アレです)の本数も過去最多の1,979本でした。さらには外国人の観客も増えており、外国人用の券売機での発券枚数は、今年の初場所では2,527枚、夏場所は3,257枚、そして今回の秋場所は7日目の時点で3,564枚と、どんどん増えています(※発券枚数は9/26 日刊スポーツ記事より)。
 このように人気復活に沸いている相撲界ですが、これまでを振り返ると2007年には暴行事件が発生し、2011年には八百長騒動が発覚して客足が遠のくなど窮地に立たされていました。そんな中でどうやって人気復活を遂げたのでしょうか。

●協会は企画チケットなどの様々な顧客サービスを展開
 日本相撲協会があの手この手の顧客サービスを行い、初めて見る人への門戸を広げたことが成功要因と言えます。

(1)SNSを活用した積極的な情報発信
 いままでの「アピールが弱かった部分を反省し」、協会はいま積極的に情報発信をしています。こまめにSNSにUPし続けてきたことで、公式ツイッターのフォロアーは16万人、公式LINEの登録数は10万人を超えてきました。発信する情報の内容も剛柔様々で、ときには土俵外の各力士の様子をオフショットを交えて紹介するなど、関取の素顔を魅力的に伝えています。

(2)初めて見る人も満足の企画チケット
 通常のマス席・イス席の販売だけでなく、面白い企画チケットも豊富です。例えば朝稽古の見学(ちゃんこ付)チケットや、親方と記念撮影できるチケットなどは、従来の相撲ファンだけでなく、初めて相撲を見る人にとっても「一度は行ってみようかな」と感じるチケットではないでしょうか。
 また、ギフトチケット用として「手紙付き、オリジナルデザインチケット」といった企画チケットもありました。記念日に両親に贈ったり、観光に来日する海外の友人にプレゼントしたら喜ばれそうですよね。

◇日本相撲協会HP:東京場所「企画チケット」一覧
 http://www.sumo.or.jp/ticket/tokyo/kikaku

(3)相撲女子「スージョ」を増やすユニークなイベント
 このところ女性の相撲ファンが増えているそうです。女性ファンの心をつかむユニークなイベントとしては、人気力士が女性相撲ファンを”お姫様抱っこ”するイベントや、関取と一緒に2泊3日の大相撲クルーズを楽しめる企画、和装で来場者した顧客にプレゼントを贈るイベントなどが催されました。
 相撲協会の公式ゆるキャラ「ひよの山」のグッズも、売行き好調だそうです。このように女性ファンが喜ぶサービスを提供してきたことが顧客獲得に奏功しているのでしょう。

●土俵の面白さがあるからこその人気復活
 現在の相撲人気復活の大前提として、横綱や大関をはじめ、遠藤や逸ノ城ら個性豊かな若手力士が次々と登場して、「土俵」そのものが面白くなってきていることがあります。そんな各力士が土俵の外でも地道なファンサービスを続けてきていることが、顧客の定着に繋がっているのでしょう。
 このような日本相撲協会の新しい取り組みについては、賛否両論あるようです。伝統ある国技としての威厳と、ファンに喜んでもらう顧客サービスとのバランスが求められますが、新規顧客の開拓と顧客の定着のために協会は試行錯誤を続けています。今後も協会の活動に注目して、顧客サービスづくりのヒントにしてもらえれば幸いです。

■姫野 智子(ひめの ともこ)
中小企業診断士
(一社)東京都中小企業診断士協会 中央支部 執行委員、ビジネス創造部副部長
エンターテインメント業界にて、カスタマーサービス管理、営業、経営企画などを経験。