永井 謙一

1.商店街の現状
 商店街は、自然発生に交通の要所にできたものであり、人の往来の多い場所に自然に商店が集まったものと考えられる。これまでは、モノを作れば売れる時代があったものの、次第に商店街でモノが売れない時代へと移ってきた。理由は大きく2つあると思われる。1つは、消費者が既に生活に必要なモノを所有していることである。既に持っているものと同じものを買うには理由が必要になる。2つ目は、流通の変化である。1990年代には郊外に大きなショッピングセンターが出店を始め、商店街の大きな競合となった。別の言い方をすれば、商店街が顧客ニーズの変化に対応できなかったということもできるであろう。
 さらに、近年はインターネット環境の進展から、ほとんどのモノは、商店街でなくとも購入することができるようになっている。
 これら社会環境の変化から、商店街は厳しい状況にあるところが少なくない。

2.商店街のあるべき姿
 では、社会環境の変化により、商店街へのニーズはどのように変わったのであろうか。
 商店街の立地はやはり公共交通機関の駅に近いものが多い。その地域に住む多くの人々が往来する場所なのである。
 また、商店街で商店を経営する方々には、その地で生まれ育った方が多いのも事実である。現在の経営者のうち自分の代で事業を終えるものと考えている方が多いのも否めないが。
 そういった意味では、商店街の店主からその地にまつわる歴史や地域で暮らす人々のつながりなどを知ることができる。ある意味、そういったつながりが地域性というものを育んでいるとみることもできる。
 ここで、商店街の果たすべき役割を考えてみると、地域コミュニティの核となることが重要であろう。学校や地域の公共機関等と連携を図ることが重要である。今後は少子高齢化社会の到来を受けて、特に高齢者が住みやすい街づくりの視点も重要となる。
  
3.商店街活性化の方向性
 商店街のあるべき姿を「地域コミュニティの核」と表現したが、この実現を図るためには、まず商店街個店の発展が前提条件となる。各個店がお客様に支持され続けることが必要なのである。
 基本的には、集客力を持つ個店が集まれば良いのではあるが、もともとの商店街はその地で暮らしながらお店をもつ方も多く、生活と商売が一体となっており、お店の採算が合わないからと言って、簡単に他の場所に移ることも難しい。場合によっては、お店だけを閉めてしまうケースも見られる。
 そのため、商店街を個店の集まりと考える視点の他に、商店街全体を面として考える視点も必要であると考える。要は商店街全体で活性化の取組を図ることで、商店街全体の集客力や回遊性を向上させ、商店街全体の販売力を高める取り組みが必要なのである。

4.商店街の活性化策
 現在、商店街活性化の方策として、様々な取組が図られているが、そのうちの代表的なものを紹介する。

 「まちゼミ」。正式名称は、得する街のゼミナールである。これは、商店街の個店が各々自分の店等を使ってワークショップ等の講座を開催し、自分の店の良い点を知ってもらう取組である。自分の店の良い点を知ってもらい、固定客を増やすことを目的としている。
 平成14年より始まった取組であるが、すでに13年経過し、年々取り組む商店街も増加している。

 「まちバル」。商店街の飲食店で飲み歩きをするイベントである。期間中は、各店ドリンク1杯とつまみ(料理)をセットにしたちょい飲みメニューを低価格(500円程度)で提供し、チケット5枚分を3000円で販売するものである。参加者には、普段入りにくいお店に入りやすいという面があり、飲食店では新規顧客開拓につながるなど、双方の出会いのきっかけとして効果の高いイベントである。

 「100円商店街」。商店街各店が100円で商品を販売するイベントである。商店街全体が1つの100円ショップとなることで、大きな集客につなげることができる。このイベントの狙いは多くの人に店舗に入ってもらい、品揃えを見てもらったり、店主等とのコミュニケーションをとる機会を醸成することである。
 いざイベントとなると多くの人が100円の商品を購入するため、それらを販売するのに手いっぱいになってしまうケースが見られる。そのため、100円商品は店頭に並べ、レジは必ず店内で行う等、留意点がある。
 これら、3つの取組は商店街3種の神器と呼ばれ、多くの商店街で活用されている。

 「一店逸品運動」。商店街の各個店が自店のこだわり商品を逸品と称し、商店街全体一つのモールのような存在として販売促進活動を行うものである。

 「商店街ツアー」。ガイドが付き添い、商店街の個店を案内するイベントである。一店逸品運動と組み合わせることで、個店の逸品商品の訴求効果を高めることもできる。「まちゼミ」は各店で講座日程を決め、商店街で受講者の募集を行うため、個店により受講者のバラつきが生じることがある。「商店街ツアー」は参加者が全員同じコースを巡るため、参加店舗間での参加者数のバラつきが少ないという特徴がある。

5.具体的な取組事例
 私は墨田区鳩の街通り商店街の活性化支援を行っている。ここでは、その取組内容を少し紹介したい。鳩の街通り商店街は東部曳舟駅から徒歩7分の場所で、水戸街道と墨堤通りを結ぶ全長約400mの通りを中心とした商店街である。会員数は約50店であり、商店街の主な課題は空き店舗対策となっている。3年前より100店プロジェクトという取組をはじめ、東京都や墨田区の補助金を活用し、空き店舗を活用した新たな会員の増加を図っている。
 2年前には当プロジェクトで、住みながら働ける「一軒家のお店」を企画した。空き店舗の選定から、募集活動、面接会、契約、改装工事、オープン時のPRなどを計画的に行い、会員増加を実現することができた。
 昨年は、空き店舗を活用して100YENチャレンジショップを開催した。チャレンジショップ出店者を外部から募り、12名の方に空き店舗で1日限りのチャレンジショップを開いてもらった。この出店にあたっては、販売する商品は全て100円とし、出店料も100円を条件とした。このイベントでは、賑わいを醸成することに加えて、空き店舗の存在を周知する効果もある。空き店舗に新規事業者が入り、商店街に賑わいが生まれることが最終的な目標であるが、現時点での空き店舗を資産と考える視点も重要である。
 今年も、100店プロジェクトとして空き店舗への新規会員の入居促進事業を進めるとともに、当商店街の資産を活用したイベント開催を企画している。

6.まとめ
 商店街活性化は、一過性のイベントの開催だけでは、効果を得るのが難しいと考える。地域コミュニティの核としての存在や個店の活性化等については長いスパンで取り組む必要がある。具体的な活性化策は、全て個店のファンづくりにつながる取り組みである。また、各々の商店街は環境の違いがあるため、おのずと効果的な活性化策も違ってくる。各商店街の状況に合わせて、上記のような活性化策を組み合わせたり、継続したり、またこれらの活性化策をベースに新たな取組を行っていく必要があると考えている。

■永井 謙一(ながい けんいち)
中小企業診断士
一般社団法人東京都中小企業診断士協会 中央支部経理部副部長
一般社団法人せたがや中小企業経営支援センター 監事
非営利活動法人東京都文京区経営支援協会 理事
足立区 中小企業相談員
東京商工会議所文京支部 経営相談員