山崎 隆由

 これまで日本の農業においては、効率的農業の実現や国際競争力の向上の必要性が叫ばれて久しい状況でしたが、こうした状況にあってもなかなか効果的な制度改革や経済対策が講じられずにジリジリしている生産者や消費者も多いのではないかと思われます。更に、もう一方の農業現場においては「総農家戸数の急激な減少」に加えて、「農業就業者の急激な減少、農業生産者の高齢化、農業放棄地の拡大、農産物の価格低下、農家収入の減少」など様々な問題が顕在化していますが、相変わらずこうした諸問題に対しても迅速かつ効果的な対策を講じることが出来ず、依然として長期に亘る農業生産市場の低迷を打開できない状況が続いていると言えます。
 もう少し具体的に言えば、総農家戸数は1950年のピーク時に618万戸あったものが、2008年には252万戸に激減していると同時に、その後も毎年1%程減少しており既に250万戸を割り込んでいます。その中でも、日本農業を支える主役であるべき基幹農業者数は1960年のピーク時に1,175万人であったものが2008年には197万人と激減しています。更に言えば、この基幹農業者の中でも65歳以上の高齢者が占める割合は、2008年に60%だったものが2011年には68%に達しており、日本の農業基盤の弱体化が益々進んでいるという状況です。
 こうした状況を打開するために、零細規模農家が主役となっている日本農業の構造的問題点を改善すべく「認定農業者制度」が生まれました。この制度は今後数年間で生産規模拡大を進めることを前提とした「営農計画書」を農政局に提出して承認された生産者に対しては、生産規模拡大を行うために必要となる農地整備資金や設備資金、運転資金等を低利融資する支援策を設け、2008年で25万人、2015年で42万人の認定農業者を確保することを目標として日本農業の構造的改革を目指しています。(耕作面積も1961年600万haから2008年463万haに減少)
 これまで遅々として進まなかった「農地集約」でしたが、こうした取組みが顕在化し農業政策見直しの動きが見えて来ると「農地集約の取組み意欲」も高まっています。農地集約を促進させるための取組みとしても耕作地の規模拡大を図る生産者(借り手側)だけに補助金を付与するのでなく、農地集約に協力する生産者(貸し手側)にも補助金を付与できる制度を設けることで、生産意欲の高い専業農家だけでなく生産意欲の低い兼業農家にも農地集約に取組む機運が生まれて来ました。しかし、もう一方で2009年に自民党から民主党に政権交代が行われると、全農業者を対象とした「戸別所得補償制度」が実施されたことで、兼業農家で実質的には農業を営んでいない農家であっても他人に耕作地を貸さないで自分で持っていれば「戸別所得補償制度」の対象になると言うことで「農地集約」の流れが逆戻りしているという状況もあります。
 この様に農業政策が二転三転することで日本農業の構造的な問題が一向に改善されない現状ではありますが、最近は農商工連携支援事業や6次産業化支援事業等のように生産者自体の収益性向上を図ろうとする支援制度も設けられたことで生産者の取組み意欲も高まりつつあり、農業生産の現場においても中小企業診断士が関わる機会が急速に増えつつあると言えます。
 現在、日本全体で生み出される農産物出荷額は2011年で約8兆2000億円と言われています。これに漁業の水揚高や輸入食材の輸入額等を合計すると約10兆円前後となります。これに対して日本全体で消費されている生鮮品や加工品、外食産業の販売高は約75兆円と言われており、約10兆円の原材料が7.5倍の付加価値を生み出していると言えます。これを逆から見ると加工食品等の販売高に対する1次産業者の寄与率は13%程と言えます。しかし、1990年バブル崩壊の前後はこの寄与率が20%を超していた時代もありました。バブル崩壊後では新食品開発の効率化や加工作業の効率化、販売体制の効率化、流通の効率化の取組みによって大幅なコスト削減が進むと共に、一連のバリューチェーンが生み出す付加価値が加工業者や販売業者、流通業者などに集中化する傾向が高まり、1次産業者の寄与率が年々低下していると言われています。
 そこで、最近制度化された「農商工連携支援事業や6次産業化支援事業」は、生産者自らが農作物の生産活動を行うだけでなく、食品加工や直接販売などにも積極的に取組むことで自らの収益性向上や高付加価値化を進めることを支援しようと言うものです。農産物の場合はほとんどが育成状況によって「A級品、B級品、C級品」と言った具合にランク付けされて市場に出荷されますが、A級品はそこそこの価格で販売されるものの、B級品以下ではほとんど値段が付かないということも珍しいことではありません。そこで、これらのB級品やC級品をムダにしないで、何とか有効活用できないかと言うことで生産者自らが食品加工や直接販売等を行うことを支援するものです。判り易く言えば「リンゴ農家がリンゴジュースを開発・販売する」とか、「トマト農家がトマトジュースやケチャップを開発・販売する」といったイメージです。
 しかし、これまで農産物の栽培管理しかやって来なかった農業生産者がいきなり食品加工・販売と言ってもなかなか容易ではないことは明らかですので、計画の初期段階では食品加工や販売等について外部の専門業者と連携して事業リスクを最小限に留めながら、新たな分野にチャレンジする取組みを我々中小企業診断士が支援しようと言うものです。一部の農業生産者の中には、いきなり加工設備を導入するために補助金申請をしたい、その上で新規事業に取組みたいと言う方もいらっしゃいますが、そうした時にも事業計画の妥当性をキチンと見極めた上で、食品加工の実現性や販売先確保の実現性などを客観的に見極めた上で、場合によっては事業計画の見直し等をアドバイスさせて頂きながら農商工連携や6次産業化の取組みをサポートしています。
 新製品開発のポイントは通常の食品加工業者の新商品開発と全く同様でありまして、自社の農産物の特徴や機能・成分などをキチンと把握した上でどんな加工品作りを行うことが適切であるかを十分に検討した上で、農産物の特徴を生かした商品開発計画を作成します。しかし、生産者がこの当たりの取組みに関して全く未経験であるために、商品開発が先行して新商品は出来上がっても、何処で売るのか全く決まっていないために在庫の山になっている事例もあります。   そんな時には当然のことながらもう一度原点に返って「マーケティング4P(どんな商品を、どんな価格で、どんな何処で、どの様に売るか」を再検討することになりますが、個人としてはこうした取組みを通じて加工食品販売額である75兆円の10%程でも1次生産者が取り戻すことが出来ればと考えています。「1次産業の活性化」は必ず地域活性化に繋がると考えています。
 
 
 
■山崎 隆由
KCGコンサルティング株式会社
中小企業診断士
永年の広告会社勤務の中で自動車・化粧品・家電・食品等のマーケティング活動の支援を行ってきました。消費者調査に始まり商品戦略・価格戦略・販売チャネル戦略・プロモーション戦略の組立て、総合ブランド管理等を行うことで数多くの企業の活動をサポートしてきました。最近は新たに農業分野で売れる商品作りや効率的な作業管理・収益向上・販路開拓等のサポートを行っています。