後藤 さえ

【質問】
今更ながら中国市場進出を検討しています。市場の感触をつかむために、展示会に出展してみようかと思うのですが、どんなことに注意したらよいですか?

【回答】
展示会は海外マーケティングでは非常に有効な手段ですが、展示会の選び方、準備、運営、事後処理で、その成否は決まってきます。以下、順を追って説明します。

1. 【目的】自社なりのターゲット設定と、それに見合う展示会選び
 中国の状況は、日本の数倍と言ってよい程のスピードで変化しています。一時日本離れ等と言われたこともありましたが、最近はやはり高品質や安全面から【Made in Japan】にこだわる気運が高まっており、日本企業としては売り込むチャンスです。しかし、注意しなければならないのは、中国は日本の面積の約30倍の国土と、10倍の人がいる巨大な市場であり、マーケティングの精度を高めないと、見当違いの市場で時間・労力・コストの無駄遣いをしてしまう可能性が高いことです。
 まずは自社商品の市場性について、誰に見てほしいのか、どんな年齢層や趣味、生活様式等のグループに対応すると想定するのか、分からないなりにも自社で仮説をたて、それに見合った展示会情報を集めましょう。大都市ではあちこちで大小様々な展示会が開催されています。公的機関だけでなく、取引先や中国進出の先輩企業などの声も是非聴いてみてください。

2. 【助成金・補助金】本当に目的通りでしょうか?
 日本の地域物産展も大都市のデパート等でよく見られます。公的機関や自治体からの各種補助があったり、自治体ごとのブースの一部に商品を展示させてもらえたりすることが多いようです。海外の展示会に出展することは、確かに金額も嵩みますし、公的機関からの補助も非常にありがたいのですが、公的機関経由の展示会参加について、チェックポイントが二つあります。
 まず一つ目が前述の「目的・対象にみあった展示会かどうか」ということです。企業様が中国のバイヤーやディーラーとの出会いを求めて出展を希望されているのに対し、その展示会が一般来場者・消費者層が多いものだということもあります。また、「○○県」という地域のくくりで出展される場合は、B2Bなのか、B2Cなのか、富裕層なのか、若年層なのか、といったターゲティングが難しく、見てほしい人に見てもらえない可能性が高くなってしまいます。
 もう一つは、現地での展示やプレゼンテーションについて、どこまで自社でコントロールできるかです。それぞれの商品には強みや見てほしいか所、それが目立つような置き方がありますが、公的機関にまかせっきりにならないでしょうか?マーケティングやディスプレイの専門家が陳列するわけではありませんし、商品説明もしないことには来場者の目にも留まりません。
展示会参加のコストの一部が削減されたとしても、目的が達成できないようでは意味がありませんね。

3. 【通関チェック】輸入通関の下調べ
 これまでに何度も見てきているのが、展示会の度に、通関で大小なんらかのトラブルがあり、展示が遅れたり間に合わなかったりするケースがあることです。
 インボイスの書き方、HSコード(通関上の商品の種類を表すコード)、CRコード(輸入者の輸出入者登録コード)、その他の注意事項等、輸入者側と予め十分に確認を行い、できれば他の先輩企業などに「ウラ確認」をとって送るぐらいでないと、大きな機会損失になってしまいます。

4. 【資料準備】中国語資料の作成
 驚くべきことかと思いますが、中国の展示会なのに、日本語の資料しか持ってこない業者さんは少なくありません。「外国人さんだから、英語でも良いですよね?」と仰る方も居られますが、私達は英語の資料を読む気になるでしょうか?また、英語で読んだものは頭に残るでしょうか?お客さんに商品の良さを分かってもらいたい。記憶に残して欲しい、関心を持って欲しい。その気持ちがあるのであれば、開催国での母国語の資料は当然準備すべきものでしょう。

5. 【デモ・プレゼン】アクションで惹きつけよう
 外国語は不得意な日本人、ならば資料は中国語版を作るとして、ブースではできるだけ動きのあるプレゼンを行いましょう。展示会場でも奥ゆかしい日本人がニコニコ立っているだけでは、もったいない限りです。或る和菓子メーカーのおかみさんは、英語も中国語もできないのに、日本語で「どうぞ」「お食べください」と、笑顔で試食を促されていました。すると、自然にその人の周りには人が集まります。短期間の展示会では、できるだけ多くの人の目や手に触れ、本当に出会いたいビジネスパートナーに会える確率をアップする努力をしたいものです。

6. 【レビューとフォローアップ】この経験を次に生かすために
 案外なされていないのが、レビューやフォローアップです。出張したことの報告を書くことで、担当者の中では展示会が終わってしまうことがよくあります。反応はどうだったのか、質問を受けたのに、返事できていないお客はないか、受け取った名刺の方々に挨拶メールを送れているか等、海外展示会に出展する作業量が少なくはないので、帰国したら思わずほっこりしてしまうものですが、展示会はそれを踏み台にするものです。どうか次のアクションへの課題を、相手の反応を見ながら検討を進めてくださいね。

以上

■後藤 さえ(ごとう さえ) 
中小企業診断士。日本語教師、総合商社、ITベンチャーを経て2008年シンガポール渡航、現地にて独立。2010年から2013年は京都府上海ビジネスサポートセンターにてビジネス・アドバイザー。2013年3月帰国、同年9月に株式会社チアーマンサポート設立。日中橋渡しを絡めた新規事業創設を模索中。