宮川  公夫

流通業における消費増税の影響
 高齢化社会における社会保障費の財源確保を目的として、2014年4月に17年ぶりに消費税率が5%から8%に改訂された。1989年に3%でスタートした消費税であったが、1997年に5%に増税となり、今回は2回目の増税である。これにより、流通業では様々な影響を受けている。
 すでに増税前の駆け込み需要により、売上高は前年を上回っているが、高額商品や消費期限の長いものを備蓄消費する一方で、低価格品や生鮮食品などの保存の難しいものでは、あまり変化が見られない。商品の性格によって駆け込み需要の大きさには違いがある。
 平成26年4月25日の総務省の発表によると、東京都区部における消費者物価は、全体として前月比2.0%増であり、前年同月比では2.9%となっており、概ね消費税の増加分の物価上昇となっている。
 買いだめのできない生鮮食品を除く物価の総合指数は、平成22年を100とした場合101.7であり、消費税の増加分より少ない値となっている。消費者物価は、前月比2.0%増であり、前年同月比では2.7%であった。
 食品および5月から新税率の適用となるエネルギーを除く物価の平成22年を100とした場合99.9であり、3年前を下回る値となっている。消費者物価は、前月比1.9%増であり、前年同月比では2.0%となっている。現在のところ、長引くデフレ経済からの明らかな脱却傾向は、見られない。物価面では、増税による上昇分は小さく、インフレには繋がっていない。
増税のための準備
 流通業では、まずは、販売価格表示変更のための準備作業が必要となった。スーパーマーケットやドラッグストア、ホームセンタなどの多くのセルフサービス販売の店舗では、3月31日から4月1日の間に、棚札をこれまでの「内税表示」から「税抜・税込併用表記」に取り換えた。税抜き価格を上段に表示し、その下に税込価格を表示するため、慣れないとどちらの金額を払うのか迷う。しかも、税抜価格が税込み価格に比べて大きいものであり、消費者にとっては以前に比べてわかりづらい表示となっている。デジタルプライスカードなどでは、一瞬のうちに一斉に変更できるが、紙やプラスチックの棚札は、人手による交換が必要で、十分な準備期間をかけて行われたところもある。
 これまでは、「内税による価格表示」が主流であり、百貨店などでは1,050円(税込)という消費税が見える価格設定をしてきた。しかし、特に量販店では値ごろ感をアピールするための販売価格を設定してきた。販売価格を1,000円(税込)で設定するために、税抜販売価格を952円にしてきた。この取り組みを「売価を丸める」という。今後、新たな税率が定着するにしたがって、税抜926円を目標として、サイズや量を減らしてでも価格を下げる取り組みが増えることが予想される。
 流通業において増税前のまとめ買いなどの駆け込み需要に対応するため、在庫を積み増すなどの取り組みがあったため、一部の商品では流通在庫がひっ迫した。しかし、増税後の買い控えにより安定してきている。一方では、予想された通りの販売に至っていないため過剰在庫となっている商品もあり、今後は在庫処分のための値引き販売が過熱することも予想される。
駆け込み需要と移動マーケットの相乗効果
 アベノミクス効果による景気回復の影響を受け、さらに消費増税のタイミングと新卒・新入学、新規入社、転勤などの移動による需要増のタイミングが重なったため、例年以上の消費が行われた。マンションや住宅などの購入も活発に行われ、引っ越し需要にも拍車をかけた。家具や家電製品などの大型商品の購入も盛んになった。物流は、その影響で著しく機能が低下した。そのため、各地域で大量の荷物が滞留したり、配達遅延が続出したりした。特に増税間際の3月末には、インターネット通販などの個人向け宅配便なども混乱した。
消費増税によるインフレ誘導
 消費増税により、購買時に支払う金額は約3%増加することになるが、これを平均的な1世帯当たりの月間消費金額に当てはめると約6,000円分の増加になるものと予想されている。そのため、これに合わせ賃金を増やした企業もある。このような取り組みは、購買力を高め、市場拡大につながり、景気を良くするものであるため、流通業に限らず年金を含めた社会保障を含めて、全ての分野で収入が増えることが望ましい。そのためには、イノベーションによる新しい市場や価値の創造が求められ、増税に見合った増収増益が求められる。しかし、駆け込み需要の反動で消費が減少し、過剰在庫になることにより、再び低価格競争が過熱することも懸念される。
消費増税の実施前後の比較
 総務省発表の東京都区部における消費者物価指数では、平成26年3月と4月の間で差が大きなものと小さなものがある。差が大きなものとしては、ペットフード(ドッグフード)、コンパクトディスク、電気炊飯器、婦人スーツ、調理パスタなどである。消費増税の結果が物価に反映されている様子がうかがえる。
 反対に物価上昇の小さいものとして、ゆでうどん、こんぶ、はくさい漬け、うなぎかば焼き、ウイスキー、浄水器、生理用ナプキン、こんぶ佃煮、はがきなどがある。新しい消費税率が定着し、家庭内の備蓄在庫が減少することで、買い控えが解消されるものと考えられる。今後の売上の動向に注意が必要である。
■宮川 公夫
中小企業診断士、ITコーディネータ
(一社)東京都中小企業診断士協会 中央支部所属