グローバルウィンド

グローバルウィンド「グローバルウィンド in 熊本 急増するインバウンド対応の最前線!」(2026年3月)

2026年2月21日

中央支部・国際部 榎島 卓哉

写真提供:熊本城総合事務所

はじめに

2025年は日本のインバウンド産業にとって歴史的な節目の年となりました。訪日外国人数は過去最高を記録する一方で、オーバーツーリズム問題の深刻化や報道によれば日中関係緊張による中国本土からのインバウンドの激減など、光と影が混在する複雑な状況を呈しました。本稿では、2025年のインバウンドの動向や、熊本地域でのインバウンドへの具体的な取り組み事例を紹介します。

2025年インバウンドを振り返る

2025年は、日本のインバウンド産業にとってまさに「激動の年」となりました。日本政府観光局(JNTO)によると、2025年の累計訪日外国人数は4,268万人(対前年比15.8%増)〔出典:訪日外客数(2025年12月推計値)JNTO2026年1月21日〕で過去最高を記録しました。このようなインバウンド数の増加は一過性のブームではなく、2023年に閣議決定された「第4次観光立国推進基本計画」に基づく国家戦略の成果と言えます。政府は2030年に訪日客6,000万人、消費額15兆円を目標に掲げ、少子高齢化・人口減少を補う基幹産業としてインバウンド産業を位置づけています。

筆者撮影

訪日客の行動にも大きな変化が見られました。従来の「爆買い」中心の観光から、温泉、農村体験、伝統文化参加などの「体験型観光」へと関心が移行しています。また、東京・大阪といった大都市圏から地方への分散も進み、SNSを通じて日本人でも知らない地域が海外で注目を集めています。一方で、多言語対応や情報発信、ナイトコンテンツの充実といった受入側の課題も浮き彫りになっています。

その反面、京都や鎌倉等の有名観光地ではインバウンド観光客の集中によるオーバーツーリズムが深刻化し、交通混雑や地域住民の生活への影響、環境負荷の増大が社会問題となりました。さらに2025年後半には日中関係の緊張を背景に中国本土からの訪日客が急減し、中国依存度の高い地域や業態では売上減少が発生しました。ただし、韓国・台湾・欧米豪市場の伸長により全体の訪日客数は高水準を維持しており、市場多角化の重要性が一段と明確になっています。

九州のインバウンド状況と熊本の取り組み

九州では、地理的な近さから、アジア諸国、特に台湾・韓国からのインバウンド客が増加傾向にあり、国土交通省九州運輸局の速報値によると2025年の九州への外国人入国者数は、575万人(対前年比14.8%増)と過去最高を記録したとのことです。特に、熊本県はインバウンド客が急増し、2024年の延べ宿泊数において、2位の大分県を追い越す勢いです。

2016年に震災を経験した熊本では、その復興策の一環として国際化を位置づけています。具体的には、「熊本市国際戦略(第1期:2018年、第2期:2024年)」を策定して、「戦略的な海外展開の推進」及び「地域国際化の推進」 を基本的取組の2本柱として「世界に認められる『上質な生活都市』」をめざし、東アジアはもとより、欧米豪をターゲットとしたインバウンド誘客促進や、地域における外国人受入体制の整備等を進めてきました。

そうした中、大きな転機となったのは、2024年のTSMC(台湾積体電路製造股份有限公司)の工場進出です。この空前の国家的プロジェクトの立ち上げにより、現地では労働需給のひっ迫や土地・建材価格の高騰、TSMC関係者の来訪の急増等、熊本における経済的・社会的な影響は大きなものでした。熊本県在住外国人は、2024年末で29,385人であり、それは10年前(2014年末)10,079人の約3倍も増加しています。2023年に就航開始した熊本~台北間の直行便を契機に、特に台湾からのインバウンド需要が劇的に拡大しています。

インバウンド対応の中心「熊本城」

熊本の観光の中心は、やはり「熊本城」です。2024年に策定された「熊本市観光マーケティング計画」においても、「熊本城をはじめとする歴史文化や世界に誇る水資源、中心市街地の賑わいなどの、熊本市ならではの観光資源の魅力向上や高付加価値化を図り、観光都市としてプレゼンスを高める」ことが基本方針として謳われています。

被災した熊本城の天守閣は2021年に完全復旧され一般公開されたものの、その他周辺地域の復旧が完成するのは、約30年後とされています。そこで熊本城では、復旧作業そのものを「見せる化」する試みが実施されています。具体的には、行幸坂を上った東側の入り口から天守閣前広場へとつながる、高さ約6m・長さ約350mの「特別見学通路」を設置し、被災状況や復旧工事状況も安全に見学できるようになっています。特別見学通路では、「熊本城アプリ」のダウンロードを推奨しており、そのアプリを通じて、多言語の音声案内、混雑状況の情報提供、ARによる写真の重ね合わせ等を提供し、インバウンド客にとっても大変便利なツールとなっています。

写真提供:熊本城総合事務所出典:熊本城アプリ

また、熊本城の行幸坂の駐車場に隣接した、城下町商業施設「桜の馬場城彩苑」も、インバウンド客でにぎわっています。同施設では、食・土産・文化体験のワンストップ化により、滞在時間と消費の底上げを目指しており、施設内のレストラン等ではメニューの多言語化が行われています。中でも、熊本城ミュージアム「わくわく座」は、見て、聞いて、触って、感動体感ができる施設であり、インバウンド客が簡単に着物等に着替えて写真が撮れる等、人気の施設です。また、英語・韓国語・中国語に対応できるボランティアガイド「くまもとよかとこ案内人の会」が、城彩苑総合観光案内所に常駐しており、事前予約や当日空きがあれば飛び込みで外国語ガイドを依頼することができます。

筆者撮影

インバウンド客からは、食事後の夜間まで楽しみたいという要望が多く聞かれますが、地方都市の夜には早くに店が閉店してしまうという課題があります。熊本では・エコノミーを拡充するため、熊本城ライトアップに加え、夜間開園・季節イルミネーション・レーザー演出等を実施しており、熊本城と城下町を夜間に回遊できるよう演出しています。

写真提供:熊本城総合事務所

「ワンピース像巡り」で県内周遊を創出

また、熊本出身の人気漫画「ワンピース」の作者、尾田栄一郎氏の声掛けで開始された「ワンピース熊本復興プロジェクト」として、熊本県内各地に設置された約10体のワンピースのキャラクターの銅像を巡るルートが、インバウンド観光客に人気を博しています。ワンピースの銅像巡りには、MaaS(Mobility as a
Service)※アプリや関連サービスが利用可能です。特に、「くまもっと!観光MaaS」のアプリを活用することで、複数の銅像スポットへの最適な移動手段を検索しやすくなります。熊本県全域に分布するワンピース像を回ることで、熊本城等中心部の観光名所以外への回遊を誘発する観光モデルとしての成功事例です。

※MaaS(マース:Mobility as a Service)とは、「サービスとしての移動」という意味で、スマホアプリなどを通じて、鉄道・バス・タクシー・シェアサイクルなどの多様な交通手段を検索・予約・決済まで一括で提供する移動サービスを指す。

筆者撮影

熊本の抱える課題と中小企業診断士の役割

インバウンド客の熊本への訪問は急増しているものの、熊本での宿泊数や購買額が期待ほど伸びていないという課題も浮上しています。地理的には九州の中心にあり、九州の2大観光地である福岡、鹿児島の間の通過地点となる場合が多いこと、温泉旅館が少なく、宿泊は温泉地である大分、佐賀等を選ぶインバウンド客が多いこと、熊本の土産品として佐賀の焼き物のような高額なものが少ないこと等が原因に挙げられています。

上記のように、地方におけるインバウンド対応は、地方自治体や現地の宿泊産業のみならず、小売業、製造業や農業まで含め、地方の中小企業にとって共通の経営課題になりつつあります。

私自身、2025年11月に熊本市商工会議所で開催されたインバウンド関連セミナーに登壇する機会がありましたが、セミナーにご参加頂いた中小企業の経営者の方からは、「インバウンド対応が必要なのは分かるが、何から手を付けてよいか分からない」「インバウンド客は来ているが、売上が伸びない」等の声が聞かれました。特に意外だったのは、建設業の中小企業の方々の参加が多かったことです。最近は、台湾企業や個人が熊本に住宅やアパートを建設する案件が増えており、それに伴って、今まで経験のない外国企業との契約や取引における注意点について、ご質問がありました。

こういったインバウンド対応の課題に対して、全体像を整理し、現実的な解決策に落とし込める存在として、中小企業診断士の役割は極めて大きいと言えます。例えば、飲食業・小売業であれば、SNS等での情報発信等WEBマーケティング、多言語対応でのDXツール導入やAIの活用支援、訪日時の購買をきっかけとした越境ECビジネスの支援等です。

まとめ

2026年以降のインバウンド産業は、量的な成長と質的な課題が同時進行する転換期にさしかかると予想されます。特に、インバウンド客の地域的な分散の促進を通じて、大都市圏や有名観光地でのオーバーツーリズムの解消と地方中小企業のインバウンド関連事業の拡大を通じた地域経済の活性化を実現することが重要です。こうした中で、中小企業診断士の役割が期待されています。

榎島 卓哉(えのしま たくや)

2000年4月中小企業診断士登録、東京都中小企業診断士協会中央支部 国際部所属。

中小企業大学校WEB校講師。30年以上ICT業界に身を置き、DX導入支援やグローバル事業展開の実践経験が豊富。

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