活動報告

専門家コラム「地域に生きる企業の新しいあり方」(2025年11月)

1.地域の現場で感じる変化
地域の中小企業の現場では、日々「変化の波」を肌で感じます。人口減少や人手不足、後継者問題に悩む企業が増える一方で、「地域の役に立ちたい」「自分たちの町を元気にしたい」と願い、前向きに挑戦する経営者も少しずつ増えています。
こうした動きの中で注目されているのが「ローカルゼブラ」という考え方です。華やかな成功を追うのではなく、地域に根ざし、社会的な意義と経済的な持続を両立しようとする企業。その静かで確かな取り組みが、地域の未来に希望を灯しています。

2.ゼブラ企業という考え方
「ゼブラ企業」という言葉は、アメリカで誕生した概念です。短期間で巨大な成長を目指す「ユニコーン企業」と対比し、社会課題の解決と経済的成長の両立を目指す企業を、白と黒の縞模様を持つシマウマ(ゼブラ)に喩えたものです。
経済的な成長だけでなく、社会的な価値を同時に追求する企業群として注目され、日本でも関心が高まっています。2023年に閣議決定された「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画」では、「地域の中小企業から、社会課題解決の担い手となる企業(ゼブラ企業)を創出し、インパクト投融資を呼び込む」ことが掲げられました。ローカルゼブラは、地域の社会的課題を事業の力で解決する存在として期待されています。

3.ローカルゼブラが地域にもたらす価値
ローカルゼブラの企業は、単に地元で商売を続けるだけではありません。地域の資源や人、文化を再発見し、それらを活かして新たな価値を創り出す存在です。たとえば、地場産業にデザインやデジタルの力を取り入れる企業、地域の高齢者や若者をつなぐ仕組みを生み出す企業など。
彼らは「経済の担い手」であると同時に、「地域の再生者」でもあります。利益を追求しながらも、誰かの暮らしをより良くしたいという思いが行動の根底にある。その姿勢が、社員や顧客、地域の共感を呼び、結果として持続的な発展につながっています。

4.経営者にとっての意義
ローカルゼブラ的な経営は、短期的な利益を犠牲にするものではありません。むしろ、長く地域に信頼され、選ばれ続けるための“しなやかな経営力”を育てる考え方です。地域と共に歩む姿勢は、従業員の誇りを生み、顧客や取引先との絆を深めます。
今、多くの中小企業がすでにゼブラの素質を秘めています。地元の人々との信頼関係、地域行事への協力、社員を家族のように大切にする文化──それらこそ、地域に根ざした経営の原点です。改めて、自社の価値を「誰のために」「なぜ」届けているのかを見つめ直すことで、新たな可能性が見えてくるはずです。

5.おわりに:未来へのまなざし
ローカルゼブラは、特別な称号ではありません。それは、一人ひとりの経営者が抱く“志のあり方”です。
いま、日本各地で「自分たちの手で地域を良くしたい」と立ち上がる中小企業が増えています。どんなに小さな一歩でも、地域に希望を生み出す力を持っています。
まずは、自社の事業が「誰を幸せにしているのか」を静かに問い直してみてください。その問いの先に、あなたの会社ならではのローカルゼブラの姿が見えてくるかもしれません。地域に生きる企業が共に歩むとき、そこにこそ新しい未来が芽吹きます。

✏️参考

略歴
 遠藤孔仁(えんどうこうじ)
 中小企業診断士・ITコーディネーター
 (一社)東京都中小企業診断士協会 中央支部 執行委員 広報部 副部長
 (一社)せたがや中小企業経営支援センター 理事

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