1.はじめに

これまで「今、改めて『温泉力』を見直そう」(2013年3月)、「日帰り温泉今昔物語」(2014年10月)とコラムで温泉を取り上げてきましたが、今回は『入湯税から見る人気温泉ランキング』と題して入湯税の概要と入湯税の視点から人気温泉ランキングを見てみましょう。

 

2.入湯税とは

入湯税は、私たちが温泉旅館やホテルに宿泊した際、または温泉が引かれたスーパー銭湯や健康センターを利用した際に支払う税金です。

入湯税は、鉱泉浴場(※)の所在する市町村が、鉱泉浴場における入湯に対し入湯客に課する地方税です。徴収した税金の用途が特定された目的税です。用途は、環境衛生施設、鉱泉源の保護管理施設及び消防施設その他消防活動に必要な施設の整備並びに観光の振興(観光施設の整備を含む。)に要する費用に使われます。

徴収方法は、特別徴収方式です。これは、入湯客が納税義務者ですが、浴場の経営者が特別徴収義務者となって入湯客から一旦預かり1か月分をまとめて翌月に申告して納税します。

 

税額は、地方税法では150円を標準としており90%以上の自治体が採用しています。但し、税額や減免措置等はそれぞれの自治体の判断で決めることができます。たとえば、温泉旅館やホテルへ宿泊の場合は150円、スーパー銭湯や健康センター等日帰り入浴の場合は100円とする等です。

減免措置はほとんどの自治体で定めています。非課税となる対象は、病気療養のため長期滞在の湯治客や12歳未満の子供、修学旅行などの学校行事等が多いようです。また、食事処や娯楽施設を有しない入浴を主とした共同浴場や公衆浴場も非課税としている自治体が多くあります。

平成26年度決算実績では、課税自治体数は975自治体、税収は224億円でした。

 

入湯税の背景には、1960年代以降の温泉旅行客の増加に伴い、温泉旅館やホテルの大型化、高層化が進み、これに伴い温泉施設や消防設備の維持、整備のための財源確保が必要になった。このため、温泉旅館やホテルの宿泊客を対象として入湯税を課税することになった。標準税率は、1950年は10円だったものが、1971年に40円、そして、1978年には現在の150円になっています。

 

※ 鉱泉浴場とは、温泉法にいう温泉を利用する浴場(同法の温泉に類するもので鉱泉と認められるものを利用する

浴場等社会通念上鉱泉浴場として認識されるものも含まれます。)

 

3. 納税額上位は不動、トップはダントツの箱根町

それでは、平成16年から平成25年までの10年間入湯税の納税額から、自治体単位での人気温泉ランキングを見てみましょう。

 

【表1】平成25年入湯税納税順位 上位自治体
平成16年から平成25年までの遷移
自治体名 主な温泉地 H16 H19 H22 H25
1 箱根町 箱根温泉郷 1 1 1 1
2 札幌市 定山渓温泉 3 2 2 2
3 熱海市 熱海温泉 2 3 3 3
4 日光市 鬼怒川温泉、川治温泉、日光湯元温泉 5 4 4 4
5 伊東市 伊東温泉 4 5 5 5
6 別府市 別府温泉郷 6 6 7 6
7 神戸市 有馬温泉 15 16 14 7
8 高山市 奥飛騨温泉郷、飛騨高山温泉 8 10 6 8
9 加賀市 山代温泉、山中温泉、片山津温泉 13 7 8 9
10 草津町 草津温泉 10 11 10 10
※ H16 日光市は、旧藤原町の順位

 

表の通り、納税額第1位は箱根湯本温泉をはじめ20もの温泉点在する箱根町です。それも10年連続1位です。平成25年度の納税額も6.9憶円と2位の札幌市(定山渓温泉)の 4.2億円を大きく引き離すダントツの1位です。第3位~第5位は、熱海市(熱海温泉)、日光市(鬼怒川温泉、川治温泉等)、伊東市(伊東温泉)と関東近郊の自治体が名を連ねています。第6位は、日本一の温泉湧出量を誇る別府温泉郷がある別府市です。第7位~9位は、神戸市(有馬温泉)、高山市(奥飛騨温泉郷等)、加賀市(山代温泉等)の関西、北陸の自治体が名を連ねています。天下の名湯で知られ人気温泉ランキングでも常に1位を争う草津温泉のある草津町は第10位です。箱根町、熱海市、日光市、伊東市、草津町は、都心から比較的近く鉄道やバス路線などの交通網も整備されアクセスがよいため多くの入湯客が訪れています。

 

上位の自治体にある温泉地は開湯から長い歴史あり、温泉の湧出量が豊富だという共通点があります。それぞれの温泉地には、飲食店やお土産物店が集まった温泉街開け、豊富な湯量に支えられた大規模ホテル~小規模の旅館まで多数の宿泊施設を有しています。

これらの温泉地は、江戸時代の湯治場としての利用、高度経済成長期の団体客の受け入れ、そして、昨今は女性グループやファミリー等個人客の取り込みとその時代の環境変化への対応により、現在も賑わいを維持しています。

 

4.人気温泉地の意外な順位

人気温泉ランキングや温泉番付で常に上位にランキングされる人気温泉地を有しながら入湯税の納税額でみると意外な順位の自治体もあります。

 

【表2】平成25年入湯税納順位 自治体(人気温泉地)
平成16年から平成25年までの遷移
自治体名 主な温泉地 H16 H19 H22 H25
26 豊岡市 城崎温泉 49 40 44 26
43 由布市 由布院温泉 25 38 52 43
95 南小国町 黒川温泉 89 94 93 95
※ H16 豊岡市は、旧城崎町、由布市は、旧湯布院町の順位

 

平成25年度の納税額で見ると、人気温泉ランキングで1位を争いテレビ番組や旅行雑誌の特集でも取り上げられるの由布院温泉がある由布市は43位です。同様に九州の人気温泉地として近年人気が上昇している黒川温泉がある南小国町は95位となっています。また、人気温泉ランキング上位の常連で旅行会社等専門家の評価も高い城崎温泉がある豊岡市は26位となっています。

これらの温泉地は、共通して自然風土に恵まれて温泉情緒ある風情を大切にしており、女性グループやファミリーを中心とした個人客の高い支持を得ています。

 

5.入湯税から見える課題と温泉地再生のヒント

上述の自治体は、常に人気温泉ランキング、温泉番付にも登場し、入湯税の納税額順位も比較的安定しています。

反面、平成16年から平成25年の10年間で納税額の順位が大きく下がっている自治体もあります。これらの自治体にある温泉地の多くは、昭和40~50年代の団体旅行ブーム、温泉ブームの頃に歓楽型の温泉観光地として発展しました。その後、団体旅行から個人旅行への旅行スタイルの変化やバブルの崩壊等の環境変化に対応できず、観光客の減少に歯止めがかからない状況が続いています。

このような厳しい状況にある温泉地もこのまま衰退するわけにはいきません。歓楽型の温泉観光地として発展した温泉地の中にも環境変化に対応し一時の落ち込みはありながらも復活を果たした温泉地も数多くあります。そこで、これからも温泉が人々に愛され、温泉地が再生するためのヒントをいくつか列挙します。

 

  • 温泉そのものを大切にして本物志向のサービスの提供です。温泉のお風呂や料理を楽しみ、温泉に滞在する時間そのものを価値あるものとすることです。このためには、設備や料理、サービスの質を高めることはもちろん、その温泉地がもつ歴史や文化の活用も重要です。
  • 定年時期をむかえたシニア層の取り込みです。このシニア層の多くは、かつて団体旅行で温泉地を訪れた経験を持っています。当時は、会社などの組織単位で訪れ、宴会が主の旅行でした。これからは、会社を退職し時間もできて、改めてご夫婦または小グループで温泉を訪れてもらい、上質な温泉旅行を体験してもらうことです。
  • 温泉地が1泊のみの宿泊地としてではなく、観光の拠点としての活用です。これまでは、2泊以上の旅行でも1泊ごと異なる場所に宿泊する周遊型が主でしたが、これからは、同じ場所に連泊しそこから周辺の観光地に足を伸ばす滞在型の温泉地となることです。
  • MICE(マイス)への対応です。MICEとはMeeting(研修)、Incentive(招待旅行)、Convention(会議)、Exhibition(展示会)頭文字をとった言葉です。従来の慰安旅行ではなく、企業研修、学会等の会議や業界の展示会等を積極的に誘致します。温泉地の持つ大型宿泊施設や大広間等を有効に活用します。

 

加えて、温泉地で生まれ育った地元人材を生かし、必要に応じて温泉旅館再生に取り組む企業の力も活用して魅力を高め輝きを戻して欲しい。そして、私自身もぜひ温泉地の再生に貢献していきたいと思います。

 

<参考>

自治体ランキング http://www.jichitai-ranking.jp/

 

日本経済新聞社 にっぽんの温泉100選

BIGLOBE みんなで選ぶ温泉大賞 温泉番付

楽天トラベル 2016年度上半期人気温泉地ランキング

じゃらんNet 人気温泉地ランキング

Yahoo!トラベル 温泉ランキング

 

大野 進一 (おおの しんいち)

中小企業診断士

日本証券アナリスト協会検定会員

東京都中小企業診断士協会 中央支部会員部 部長