今回は、現在公募を行っている(2021年8月時点)事業再構築補助金についてのコラムです。
 事業再構築補助金の実施予算は、1兆1,485億円と、これまでの経済産業省の補助金に比べても大きなものとなっています。補助金の趣旨は、新型コロナウイルス感染症の影響が長期化する中、経済社会の変化に対応するために新分野展開、業態転換、事業・業種転換、事業再編又はこれらの取組を通じた規模の拡大等、思い切った事業再構築に意欲を有する中小企業等の挑戦を支援するというものです。
 補助対象となる経費は、建物費、機械装置・システム構築費に加え、外注費、広告宣伝・販売促進費、技術導入費などがあり補助金額は最高1億円です。
 この事業では、中小企業等が将来にわたって持続的に競争力強化を図る取組を支援することを目的としているため、基本的に、事業拡大につながる事業資産(有形・無形)への相応規模の投資を行う必要があります。

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図:事業再構築補助金活用イメージ(出典:経済産業省「事業再構築補助金の概要」)

1.事業再構築補助金の要件
 本事業には、「通常枠」、「卒業枠」、「グローバルV字回復枠」及び「緊急事態宣言特別枠」の4つの事業類型がありますが、基本的な申請累計である「通常枠」の申請要件は以下の4点です。

① 事業再構築指針に示す「事業再構築」の定義に該当する事業であること
② 2020 年 4 月以降の連続する6か月間のうち、任意の3か月の合計売上高が、コロナ以前(2019 年又は 2020 年1月~3月)の同3か月の合計売上 高と比較して10%以上減少しており、2020 年 10 月以降の連続する6か月 間のうち、任意の3か月の合計売上高が、コロナ以前(2019 年又は 2020 年1月~3月)の同3か月の合計売上高と比較して 5%以上減少していること等【売上高等減少要件】 (※)売上高に代えて付加価値額を用いることも可能です。
③ 事業計画を認定経営革新等支援機関と策定すること。補助金額が 3,000 万円 を超える案件は認定経営革新等支援機関及び金融機関と策定していること
④ 補助事業終了後 3~5 年で付加価値額の年率平均 3.0%以上増加、又は従業員一人当たり付加価値額の年率平均 3.0%以上増加する見込みの事業計画を策定すること

2.事業再構築指針
 事業再構築補助金の要件では、事業再構築指針に示す事業再構築の事業であることが定められていますが、この事業再構築指針は以下の通りです。
① 新分野展開
 中小企業等が主たる業種(売上高構成比率の最も高い事業が属する、総務省が定める日本標準産業分類に基づく大分類の産業をいう。以下同じ。)又は主たる事業(売上高構成比率の最も高い事業が属する、総務省が定める日本 標準産業分類に基づく中分類以下の産業をいう。以下同じ。)を変更することなく、新たな製品を製造し又は新たな商品若しくはサービスを提供することにより、新たな市場に進出することをいう。
② 事業転換
 中小企業等が新たな製品を製造し又は新たな商品若しくはサービスを提供す ることにより、主たる業種を変更することなく、主たる事業を変更することをいう。
③ 業種転換
 中小企業等が新たな製品を製造し又は新たな商品若しくはサービスを提供す ることにより、主たる業種を変更することをいう。
④ 業態転換
 製品又は商品若しくはサービスの製造方法又は提供方法を相当程度変更する ことをいう。
⑤ 事業再編
 会社法上の組織再編行為(合併、会社分割、株式交換、株式移転、事業譲 渡)等を行い、新たな事業形態のもとに、新分野展開、事業転換、業種転換 又は業態転換のいずれかを行うことをいう。

3.事業再構築指針の要件
 どのような事業が事業再構築指針の類型に該当するかは、各類型の要件を満たすかどうかで判断されます。事業再構築指針の類型に関しては、経済産業省「事業再構築指針の手引き」に記載されている以下の図をご確認ください。

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図:事業再構築の類型と要件について(出典:経済産業省「事業再構築指針の手引き」)

4.事業計画の作成
 事業再構築補助金申請に当たっては事業計画の作成が必要になります。公募要領で求められている記載内容は以下の通りです。

【補助事業の具体的取組内容】
① 現在の事業の状況、強み・弱み、機会・脅威、事業環境、事業再構築の必要性、事業再構 築の具体的内容(提供する製品・サービス、導入する設備、工事等)、今回の補助事業で実 施する新分野展開や業態転換、事業・業種転換等の取組、事業再編又はこれらの取組につい て具体的に記載してください。 事業実施期間内に投資する建物の建設・改修等の予定、機械装置等の型番、取得時期や技 術の導入や専門家の助言、研修等の時期についても、可能な限り詳細なスケジュールを記載 してください。
② 応募申請する枠(通常枠、卒業枠、グローバルV字回復枠、緊急事態宣言特別枠)と事業 再構築の種類(「事業再編型」、「業態転換型」、「新分野展開型」、「事業転換型」、 「業種転換型」)に応じて、「事業再構築指針」に沿った事業計画を作成してください。
③ 補助事業を行うことによって、どのように他者、既存事業と差別化し競争力強化が実現す るかについて、その方法や仕組み、実施体制など、具体的に記載してください。
④ 既存事業の縮小又は廃止、省人化により、従業員の解雇を伴う場合には、再就職支援の計画等の従業員への適切な配慮の取組について具体的に記載してください。

【将来の展望】(事業化に向けて想定している市場及び期待される効果)
① 本事業の成果が寄与すると想定している具体的なユーザー、マーケット及び市場規模等に ついて、その成果の価格的・性能的な優位性・収益性や課題やリスクとその解決方法などを 記載してください。
② 本事業の成果の事業化見込みについて、目標となる時期・売上規模・量産化時の製品等の 価格等について簡潔に記載してください。
③ 必要に応じて図表や写真等を用い、具体的に記載してください。

【本事業で取得する主な資産】
① 本事業により取得する主な資産(単価50万円以上の建物、機械装置・システム等)の名称、 分類、取得予定価格等を記載してください。

【収益計画】
① 本事業の実施体制、スケジュール、資金調達計画等について具体的に記載してください。 ② 収益計画(表)における「付加価値額」の算出については、算出根拠を記載してください。

 公募要領には、審査項目及び加点項目が明記されています。審査項目・加点項目を踏まえたうえで、上記を参考に計画書を作成してください。また、過去の専門家コラムでは「補助金申請書類作成のNGポイント」も紹介していますので、こちらもご参照ください。
 専門家コラム「補助金申請書類のNGポイントとは?」(2021年6月) | 一般社団法人 東京都中小企業診断士協会 中央支部 (rmc-chuo.jp)

5.事業再構築補助金申請の留意点
 最後に、事業再構築補助金申請の留意点についてお話しします。事業再構築補助金の公募要領に記載されている事業概要は以下の通りです。「新型コロナウイルス感染症の影響が長期化し、当面の需要や売上の回復が期待し難い中、ウィズコロナ・ポストコロナの時代の経済社会の変化に対応するために新分野展開、業態転換、事業・業種転換、事業再編又はこれらの取組を通じた規模の拡大等、思い切った事業再構築に意欲を有する中小企業等の挑戦を支援することで、日本経済の構造転換を促すことを目的とします。」。当然ながら、思い切った事業再構築には大きなリスクが生じますので、しっかりとした市場調査を行い、実現可能性の高い計画づくりを行うことが重要です。これは、補助金全般に言えることですが、タイミングが合い申請ができることが機会になると同時に、有効な計画でなければ逆効果になる可能性がありますので、慎重な判断が必要です。補助金制度との付き合い方や活用の進め方については、是非過去の専門家コラムもご覧ください。
専門家コラム「中小企業事業者さんの補助金活用の進め方と付き合い方」(2016年11月) | 一般社団法人 東京都中小企業診断士協会 中央支部 (rmc-chuo.jp)
 上記を踏まえ申請する場合は、WEB申請のためのID(GビスIDプライムアカウント)が必要であること、事業計画を認定支援機関と一緒に作ることなどが必要なので、お早めにご準備ください。

※記載内容は2021年8月時点の情報で、事業再構築補助金の公募要領等を参照しています。時期により随時要件等が変更になる場合がありますのでご注意ください。公募は公募期間のみ行われているもので、公募期間外には応募することができません。また、年度予算に基づいた事業ですので、翌年度以降に継続して実施されるかは不明です。
最新の情報は事業再構築補助金のHPでご確認ください。
事業再構築補助金 (jigyou-saikouchiku.go.jp)

略歴
 金子敦彦
 中小企業診断士 / (一社)東京都中小企業診断士協会中央支部 渉外部 部長
 2011年独立開業 年間500件以上の中小企業の経営相談・コンサルティングを実施