1.帝国データバンクの記事によると、2023年度(2023年4月1日~2024年3月31日)の倒産件数は前年度から2,082件増えて8,881件となり、9年ぶりの高水準(増加率は過去30年でもっとも高い30.6%)とのことです。

 帝国データバンク「全国企業倒産集計2023年度」
 https://www.tdb.co.jp/tosan/syukei/23nendo.html

 倒産に至る原因には、販売不振、人手不足、物価高、後継者難など様々なものがありますが、典型的な原因の一つに、売掛金を回収できずに連鎖倒産をするケースがあります。
 売掛金の未回収により直ちに資金繰りに行き詰まらなくとも、穴埋めのために借入金が増え、その後じわじわ資金繰りが苦しくなり倒産に至るケースもあります。
 倒産件数が増えているということは、取引先の売掛金が回収不能になるリスクが高くなっているということでもあり、取引開始前の与信調査や売掛金の債権回収時点における資産調査の重要性が高まっています。
 実際、上記記事によれば、倒産原因のうち「売掛金回収難」は前年度30件から44件へと46.7%増加したということですので、注意が必要です。

2.もっとも、与信調査や資産調査といっても、中小企業は、金融機関や税務署などと異なり、取引先から決算書を出してもらうことは難しく、その手段には限界がありますが、その中でも最低限確認しておきたいのが登記です。登記は情報の宝庫です。
 今回は、登記を調べる際のポイントについて解説します。

 よくみる登記情報には、商業・法人登記と不動産登記の2種類がありますが、いずれの登記も、最新情報の閲覧だけであれば、一般財団法人民事法務協会が運営している「登記情報提供サービス」を利用するのが便利です。

 一般財団法人民事法務協会「登記情報提供サービス」
 https://www1.touki.or.jp/

 このサービスは、インターネット上で登記情報を確認できるサービスです。わざわざ法務局にいく必要はありません。登記情報はPDFファイルで提供されるため、保存しておくこともできます。
 利用料金も、商業・法人登記情報や、不動産登記情報のうち全部事項については1通331円と格安です。
 一時利用もできますが、利用登録をしておくと、必要な情報を毎回入力しなくても、ログインしてすぐに登記情報を確認することができて便利です。
 なお、全ての登記情報が提供されるわけではありません。例えば、コンピュータ化前の閉鎖登記簿謄本等は管轄する登記所に申請する必要があります。詳しくは、上記サイトをご確認ください。

3.取引開始時や債権回収時に確認する登記情報の例をご紹介します。

(1)会社登記情報(取引先が会社であった場合)

 商業・法人登記情報の見本(登記情報提供サービス)
 https://www1.touki.or.jp/pdf/APL42.pdf

 登記情報は、現在の情報と、抹消された過去の履歴(登記上、下線がひいてあります)を確認します。登記情報だけでは全ては分かりませんが、ヒントが隠されていることがあります。経営者の勘は意外にあたることがあり、気になる情報があれば、直接取引先に確認したり、さらなる調査をして、真偽を確かめます。

 まず、取引開始時の与信調査の段階で確認する情報です。あくまで一例です。
 例えば、「商号」が変更していることが分かれば(有限会社が株式会社に移行していることもあります)、改めて、以前の商号により登記情報を確認したり、インターネットで検索すると、不審な情報にたどり着くことがあります。
 「本店」として登記されている所在地を調べると、実際には所在地に事務所が存在しないこともあります。
 「会社設立の年月日」により、創業したばかりか、ある程度の社歴があるかなどが分かります。
 会社の「目的」をみると、どのような事業を行っている会社なのかが確認できます。関連性のないような事業目的が数多く羅列してあるような場合には、何をしている会社なのか分からず、きちんと確認したほうがよいでしょう。
 「発行済み株式の総数」や「資本金の額」が増加している場合には、増資により、第三者の資金が投入されている可能性があります。第三者の経営関与により、経営方針が大きく変わることがあります。
 「役員に関する事項」(取締役・代表取締役・監査役)により役員構成を確認します。契約書に記載された代表取締役が実在するかの確認は必須です。「専務」と呼ばれていても、実際には取締役ではないこともあります。また、多数の役員が同時に交代しているような場合には、どのような理由があるのか気になるところです。
 
(2)不動産登記情報
 
 不動産登記情報(全部事項)の見本(登記情報提供サービス)
 https://www1.touki.or.jp/pdf/APL40.pdf

 次に、売掛金が支払われない場合の債権回収の段階です。
 債権回収は、一般的に、請求→示談交渉→法的手続(裁判等)→強制執行という流れで行われますが、どのような手段を選択するかは、取引先に回収できる資産(預貯金、売掛金、在庫、不動産など)があるかどうかにより変わります。
 費用と時間をかけて裁判により勝訴判決を得たとしても、取引先に回収できる資産が残っていなければ結局回収に結びつきません。判決は絵に描いた餅になります。逆に、資産があれば、仮差押という民事保全手続により将来の強制執行に備えて資産を確保しておくこともできます。
 従って、債権回収では、いかに資産を見つけられるかが重要となります。
 なお、債権回収の時点では、すでに資産の調査が難しい局面になっていることが多くありますので、本来は、取引開始前や取引継続中から取引先の資産を把握しておくことが重要となります。次にご紹介する不動産登記情報の確認は、与信調査の段階から行っておくとよいでしょう。

 会社登記により、本店所在地(支店登記により支店の所在地も分かる場合もあります)と、代表取締役の住所を把握し、それぞれの不動産登記情報を確認します。
 住所と地番が異なる地域がありますので、管轄の法務局に電話し、調べたい住所を伝え「地番」(土地)・「家屋番号」(建物)を教えてもらってから不動産登記情報を検索します。
登記情報提供サービスでは、「地番検索サービス」により、およその地番を確認することもできます。

 「不動産請求をする場合,地番や家屋番号が分からないときは,どのようにするとよいですか。」(登記情報提供サービス)
 https://qa.touki.or.jp/faq/show/195?site_domain=open

 不動産登記は、「表題部」、「権利部(甲区)」、「権利部(乙区)」に分かれています。
 「表題部」はその不動産に関する物理的な情報が記載されています。土地であれば、その面積が分かりますので、国税庁の路線価図も併せて確認し、その土地の路線価を調べ、およそどれくらいの価値があるかを検討することもできます。

 国税庁「財産評価基準書路線価図・評価倍率表」
 https://www.rosenka.nta.go.jp/

 また、建物であれば、新築年月日の記載により、築年数が分かります。あまりにも古い木造家屋であれば、価値がなく、売却時には、むしろ解体費用分、土地の価値が下がることがあります。

 「権利部(甲区)」は、所有権に関する事項が記載されていて、現在の所有者や過去の所有者の、名義人、取得日、所有に至る原因(売買、相続等)などが分かります。
 登記をみて現在の所有者が会社(取引先)であれば、強制執行の対象になりえます。代表者が所有者(自宅等)の場合には、それだけでは強制執行の対象にはなりませんが、示談交渉の結果、分割払いの条件として代表者に連帯保証人になってもらうことがあり、そうすれば、強制執行の対象になりえます。また所有者が会社でも代表者でもない第三者であれば、賃貸物件であることが分かります。
 また、「権利部(甲区)」には税務署等の差押えの情報も記載されますので、現在、又は過去に差押えがあれば、その所有者の資金繰りの厳しさが分かります。

 「権利部(乙区)」は、所有権以外の権利に関する事項が記載されます。典型的なものは、融資を受ける際に担保として提供する抵当権設定登記(又は根抵当権設定登記)です。現時点で「権利部(乙区)」に何も登記がなければ、担保設定されていない価値の高い不動産ということになります。
 (根)抵当権設定登記があれば、その「(根)抵当権者」を確認することで、通常の金融機関からの借入か、金利の高いノンバンクから借りているのか、高利貸し等から借りているのかが分かります。また、「債権額」(抵当権)や「極度額」(根抵当権)により、どの程度負債が残っているかを推測することができます(あくまで推測で、正確な借入残高までは分かりません)。
 また、抵当権者が金融機関であれば、借入金の返済用に、その金融機関に預金口座を開設しています。従って、その預金債権が強制執行の対象になりえます。ただし、その預金口座に預金残高があるか、あるとしていくらあるかまでは分かりません。

 なお、不動産登記を閲覧する際には「共同担保目録」も必ず確認するようにしましょう。知らなかった不動産が見つかることがあります。

4.このように登記情報は与信調査や資産調査に有用なものですが、この登記に関して近時注目すべき法令の改正がありましたのでご紹介します。

(1)代表取締役等住所非表示措置
 商業登記規則等の一部を改正する省令(令和6年法務省令第28号)により商業登記規則が改正され(商業登記規則31条の3)、一定の要件の下、株式会社の代表取締役、代表執行役又は代表清算人(以下「代表取締役等」といいます。)の住所の一部を登記事項証明書や登記事項要約書、登記情報提供サービスに表示しないことができるようになりました。この制度を代表取締役等住所非表示措置といいます。
 令和6年10月1日から施行されます。
 この制度が始まると、会社登記を確認しても、代表取締役等の住所が表示されていないことがあり(ただし、市区町村まで(東京都においては特別区まで、指定都市においては区まで)は記載されます)、その場合には、前述したように、会社登記上の代表者の住所をよりどころとして不動産登記情報を調べることができなくなります。
 もっとも、全ての会社登記から代表取締役等の住所が表示されなくなるわけではなく、非表示を希望する者が、設立の登記、代表取締役等の就任の登記、代表取締役等の住所移転による変更の登記など、代表取締役等の住所が登記されることとなる登記の申請と同時に申し出る場合に限り表示されなくなります。
 詳しくは、法務省の下記サイトをご覧ください。

 法務省「代表取締役等住所非表示措置について」
 https://www.moj.go.jp/MINJI/minji06_00210.html

(2)所有不動産記録証明制度
 現行の不動産登記法の下では、登記記録は、土地や建物ごとに作成されており、全国の不動産から特定の者が所有権の登記名義人となっているものを網羅的に抽出し、その結果を公開する仕組み(つまり、所有者の名前で不動産登記を探す仕組み)は存在していませんでした。そのため、相続時に相続人が相続対象である全ての不動産を把握しきれず、相続登記がなされないまま放置される不動産が発生していました。
 そこで、民法等の一部を改正する法律(令和3年法律第24号)により不動産登記法が改正され(不動産登記法119条の2)、登記官において、特定の者が所有権の登記名義人として記録されている不動産をリスト化し、証明書を交付する所有不動産記録証明制度が創設されました。
 令和8年2月2日から施行されます。
 ある特定の者が登記名義人となっている不動産を一覧的に把握するニーズは、より広く生存中の自然人のほか法人についても認められるとの指摘がされていることから、この制度は、相続人その他の一般承継人が、被相続人その他の被承継人に係る証明書について交付請求する場合のほか、何人も、「自ら」が所有権の登記名義人として記録されている不動産について証明書の交付請求が可能とされています。
 また、不動産がない場合には、その旨が証明されます。
 従って、令和8年2月2日以降は、金融機関から融資を受ける際や、大企業と取引を始める際に、この証明書の提出を求められる可能性もありますし、逆に、債権回収の場面で、示談交渉時に分割払いや支払猶予を認める条件として、取引先やその代表者にこの証明書を提出させ、将来の強制執行に備えることもできるようになります。
 詳しくは、法務省の下記サイトをご覧ください。

 法務省「所有者不明土地の解消に向けた民事基本法制の見直し(民法・不動産登記法等一部改正法・相続土地国庫帰属法)」
 https://www.moj.go.jp/MINJI/minji05_00343.html

(いずれも、2024年4月28日時点の情報によるものであり、その後の法改正等の最新情報にはご注意ください。)

【プロフィール】(2024年4月時点)
 関 義之(せき よしゆき)
 関&パートナーズ法律事務所 代表 弁護士・中小企業診断士
 https://seki-partners.com/
 東京弁護士会中小企業法律支援センター 本部長代行
 一般社団法人東京都中小企業診断士協会 中央支部 執行委員
 一般社団法人東京都中小企業診断士協会 事業承継研究会 幹事
 東京都よろず支援拠点 サブチーフコーディネーター
 東京商工会議所 経営安定特別相談室 専門スタッフ