1.導入:AIと会計実務の接点
会計業務は、仕訳入力や帳票のチェックなど、繰り返しの定型作業が多くを占めています。近年、こうした業務に対してAI(人工知能)の導入により、会計業務は効率化され、精度が向上し、より戦略的な意思決定を支援するツールとして進化しています。
特に、クラウド会計ソフトやOCR、RPAとAIを組み合わせたツールの登場により、これまで人手に頼っていた業務が自動化されつつあります。
2.現状と活用事例
以下は、AIの活用が実際に効果を発揮している代表的な会計業務です:
① 自動仕訳・帳簿作成:領収書や請求書を読み取り、AIが勘定科目を自動判定。仕訳ミスの防止や入力時間の大幅削減に寄与。
② 異常検知・監査支援:大量の取引データの中から不正や異常値をリアルタイムで検出し、内部統制を強化。
③ キャッシュフロー予測:過去の取引実績と市場動向をもとに、将来の資金繰りを高精度で予測。
④ 決算早期化:月次・年次決算処理の自動化によって、タイムリーな経営判断を可能に。
AIはすでに、さまざまな会計業務の現場で活用されています。たとえば、請求書や領収書のスキャンデータを自動で読み取り、仕訳候補を提示してくれるシステムは、多くの中小企業でも導入が進んでいます。これにより、経費精算や会計帳簿の入力作業が大幅に効率化されます。
また、クラウド会計ソフトとの連携によって、銀行やクレジットカードの明細データから自動仕訳を生成するAIも普及しており、こうした機能の積極的な提供で、会計業務の「自動化レベル」を高めています。
さらに、AIによる異常検知機能では、過去の仕訳パターンと照らし合わせて不自然な取引を検出することが可能となり、不正防止や監査対応にも役立ちます。これらの技術は、特に人手不足が深刻な中小企業や会計事務所にとって、大きな助けとなるでしょう。
3.メリットと課題
AIを活用する最大のメリットは、業務の効率化と正確性の向上です。これまで人手で行っていた定型作業をAIに任せることで、人的ミスを減らし、時間を大幅に短縮することができます。属人化していた業務も、AIの導入により標準化され、組織全体でノウハウを共有しやすくなります。
一方で、課題もあります。たとえば、OCRの読み取り精度には限界があり、手書き文字や不鮮明な画像では誤認識が起こることもあります。また、AIが自動で提示する仕訳案が、必ずしも正しいとは限りません。会計基準や業種特有の処理を踏まえた判断が必要です。
さらに、導入コストや既存システムとの連携、社内教育の必要性など、企業規模によっては乗り越えるべきハードルも少なくありません。AIの利便性を享受するには、セキュリティ対策や内部統制とのバランスも求められます。
4.経営者・経理担当者に求められるスキル・姿勢
AIの導入が進む一方で、経営者や経理担当者の役割が「記録者」から「判断者」へと進化しています。数字の裏にあるビジネスの動きを読み解き、経営戦略に結び付けていく力がますます重要になります。AIは「処理する力」を提供しますが、「意味を考える力」は依然として人間に委ねられているのです。
AIの導入は、単にシステムを入れるだけでは効果を発揮しません。重要なのは、「業務プロセスの可視化」と「データ整備」です。非効率な業務フローをそのままAIに置き換えても成果は限定的です。まずは現状の業務を棚卸しし、標準化・簡素化することが成功の鍵となります。
5.今後の展望とまとめ
AIは会計実務を「事後処理」から「未来予測」へと変革させています。リアルタイムで収集・分析された会計データは、経営の意思決定にとって不可欠なインサイトを提供します。会計部門は、経営の“後方支援”から“戦略的パートナー”へと変わっていくべき時代にあります。
AIの活用は、会計実務の効率化にとどまらず、企業全体の競争力向上に直結します。テクノロジーを単なるツールではなく、“経営の中核”として位置付け、戦略的に取り入れていくことが、これからの企業成長の鍵を握ると考えられます。
〈略歴〉
鈴木一広
経済産業大臣登録 中小企業診断士
税理士
一般社団法人 東京都中小企業診断士協会 中央支部 研究会部
認定経営革新等支援機関