かつて商店街は、「買い物をする場所」として人々の日常の中心にありました。 しかし現在、買い物という行為そのものは、オンラインや大型商業施設にその役割を譲っています。東京都内の商店街も例外ではなく、来街者数の減少や後継者不足といった課題に直面しているのが現状です。
一方で近年、商店街の役割は静かに、しかし確実に変わり始めています。 それは「目的を持って行く場所」から、「気づけばそこにある場所」への転換です。
商店街の転換点は「便利さ」から「心地よさ」へ
転換のきっかけは、コロナ禍そのものというよりも、生活者の価値観の変化にあります。効率や価格だけでなく、「安心できる」「顔が見える」「無理がない」といった感覚が、日常の選択基準としてより重視されるようになりました。
商店街はもともと、こうした価値を内包していた場所です。だからこそ今、ハード整備や大規模投資以上に、「日常の心地よさ」を再編集することが、商店街活性化の重要なテーマになっています。
「何もしなくていい」を許容する場所へのアップデート
商店街が提供できる価値とは、派手なイベントだけではありません。むしろ、何気ない振る舞いが自然に受け入れられる「余白」にこそ、本来の強みがあります。
たとえば、以下のような「目的がなくても成立する風景」を、商店街の中にどれだけ作れるでしょうか。
- 「歩く」そのものを心地よく:ベビーカーを押しやすく、高齢者がふと足を止められる。移動が苦にならない「通りの設え」。
- 「放課後」が混ざり合う:宿題をしたり、駄菓子を食べたり。子どもたちが「何となくそこにいていい」放課後の居場所。
- 「生活リズム」に食い込む:出勤前のモーニングや、リモートワークの合間に一息つけるベンチ。ワーカーのオンとオフを繋ぐ活用。
- 「ゆるやかな共生」:散歩の途中にペットと立ち寄れる店や、買い物帰りに腰を下ろして話し込めるベンチの増設。
これらはすべて、「何かをしに行く理由」をあえて作らなくても成立する体験です。この積み重ねが、商店街を住民の生活リズムの中に深く溶け込ませていきます。
若手の力が、商店街の空気を変える
近年、都内でも若手店主や新規出店者が商店街に参画するケースが増えています。彼らの特徴は、過度な規模拡大を目指すのではなく、「無理のない商い」と「地域との関係性」を大切にしている点です。
SNSの発信力を持ちながらも、商店街全体の空気を尊重し、既存店と緩やかに連帯する。こうした若手の存在は、商店街に新陳代謝と「未来への安心感」をもたらします。 重要なのは、彼らを「呼び込む」ことだけを目的化せず、「活躍し続けられる環境(コミュニティ)」を整えることです。
ハードよりも効く「ソフト面」の地域経営
商店街活性化というと、アーケード整備や大規模イベントが注目されがちです。しかし実際には、日常的な合意形成や運営といった「ソフト面の工夫」こそが持続性を左右します。
- 店主たちが本音で語れる「情報共有の場」
- 世代や立場を超えた「対話の設計」
- 売上数値だけでなく、滞在時間や満足度などの「使われ方」を評価する視点
こうした地道な取り組みが、商店街を単なる商店の集まりから、一つの「地域経営体」へと進化させていきます。
中小企業診断士という「伴走者」とともに
これからの商店街には、熱い想いだけでなく、客観的な視点と整理された戦略が必要です。そこで、中小企業診断士という専門家をパートナーにする選択肢があります。
個店の経営支援はもちろん、商店街全体を一つの組織として捉え、以下のような支援が可能です。
- 共通認識の醸成:ワークショップやセミナーを通じ、未来のビジョンを共有する。
- 対話のファシリテーション:若手とベテランの橋渡し役となり、合意形成を促す。
- 顧問型支援:一過性の提案に終わらず、中長期的な視点で現場に寄り添い続ける。
外部の専門家を「答えを出す人」ではなく、「一緒に考え、歩む存在」として迎えること。それが、商店街の新しい未来をひらく第一歩になるのではないでしょうか。
略歴
金子敦彦
経済産業大臣登録 中小企業診断士
一般社団法人 東京都中小企業診断士協会 中央支部副支部長
年間500回以上の経営支援を行うとともに、金融機関等と連携した地域支援活動を行う。
著書、セミナー公演実績多数。















