活動報告

業種別業界別トピックス「経営計画を策定していますか?経営の基本に立ち返る必要性について」(2025年8月)

経営計画を策定していますか?経営の基本に立ち返る必要性について

先日、「2025年版中小企業白書・小規模企業白書」(以下、中小企業白書)が公開されました。その中で、経営計画を策定することの重要性が取り上げられています。事業には不可欠とされる経営計画ですが、改めて2025年版の中小企業白書で取り上げられる理由とは何でしょうか。今回は、経営計画策定の現状や策定しないリスク、策定する効果を通して、中小企業にとって経営計画を策定する必要性について見てみましょう。

中小企業をとりまく環境と経営計画の必要性

中小業白書の冒頭で、中小企業が直面している経営課題が取り上げられています。経営者応援コラムでも取り上げているように、かつてないほどの人材不足をはじめとして、人件費や物価高騰、円安による生産コストや事業運営コストの増加、価格転嫁、生産設備や情報通信の基盤を整えるためのデジタル化、DX化への対応など、経営課題は山積している現状だといえるでしょう。

顧客や取引先、市場、業界、社会といった環境がめまぐるしく変化するこのような状況で、勘や経験に頼る経営はおすすめできません。なぜならば、場当たり的な対応に終始してしまい、企業としての信頼に関わってくるからです。

そもそも経営計画とは、どのように企業を経営していくかという経営戦略に基づき、それをどのように実行するかという計画を指します。無計画では状況に流されてしまったり、目的や目標を見失ってしまったりしやすいといえるでしょう。そのような対応では、経営の一貫性や統一性に欠け、企業としての信頼を構築しにくくなってしまいます。

その点において、経営戦略や経営計画は必要であり、重要でもあるといえます。だからこそ、中小企業白書でも繰り返し経営戦略や経営計画の必要性が叫ばれるのです。そこで今回は、経営計画を策定している中小企業がどれくらい存在するのかという現状認識から始めましょう。

経営計画を立てずに事業を営む中小企業は珍しくない

2020年版と2025年版の中小企業白書には、経営計画を策定しているかを問う質問があります。取り組んでいるかどうかがこの5年間で変化しているのかも含めて、見比べてみましょう。

2020年版では、経営計画を策定しているという回答が69.6%、策定していないという回答が30.4%ありました。小規模事業者になると、策定しないという割合が上がります。策定しているという回答47.5%に対し、策定していないという回答が52.5%で半数を超える結果となります。経営計画を策定しない中小企業は、そう珍しくはないといえるでしょう。

では、なぜ経営計画を策定しないのでしょうか。中規模事業者が経営計画を策定しない理由は、次のとおりです。

・策定する必要を感じていないから(36.8%)

・策定する人員やノウハウがないから(31.8%)

・策定する時間がないから(12.5%)

・適切な社外の相談相手がいないから(5.0%)

・その他(13.9%)

2025年版の中小企業白書にも、まったく同じ項目があります。2025年版では、中規模事業者と小規模事業者に分かれることなく、同じ中小企業という枠組みです。肝心の回答は、「経営計画を策定している」が51.1%で、調査時点で策定していない企業の割合は48.9%ということになります。

その48.9%のうち、「策定していないが、今後策定する予定である」は26.6%、「策定しておらず、策定する予定もない」が22.3%です。2020年と同様に、経営計画を策定しない理由を見てみましょう。

・時間的余裕がないため(37.5%)

・事業環境変化が激しく、先が見通せないため(26.4%)

・必要性を感じないため(21.8%)

・どのように作成して良いか分からないため(17.8%)

・策定のきっかけがないため(17.7%)

・その他(3.8%)

2025年版の場合、経営計画を策定する人員がないという選択肢がありません。それを差し引いたとしても、コロナ禍を経た2020年から2025年の間に、策定する必要を感じないという企業が減った点に注目したいところです。

なお、誤解を防ぐためにお伝えしておきますが、経営計画を策定しなくても何とかなっている中小企業がこれだけあると申し上げたいのではありません。経営計画を策定することによって、より成果を上げられる可能性が高いのにもかかわらず、その機会を逃しているのはもったいないのではないかとお伝えしたいのです。

経営計画を策定しないリスクとは

経営計画を策定する効果やメリットを見る前に、経営計画を策定しないリスクやデメリットに触れておきましょう。

・経営の方向性が不明確になる

・成長機会を逃しやすくなる

・人材確保や定着、育成が難しくなる

・社内外の信頼を得にくくなる

・経営者の負担が増す

経営計画を策定しないということは、経営戦略はあるとしても、そこに向かって具体的にどのように行動していくのかという計画がないことを意味します。つまり、目標に対する行動が具体的に示されていないことから、従業員任せになってしまいやすいということです。目標に対する進捗や課題などの把握が複雑になり、場当たり的な対応の積み重ねで判断の理由や根拠が不明確になりやすいといえるでしょう。

事業の現状や課題が把握できなければ、改善も難しくなってしまいます。どこに本質的な問題があるのかやどこから着手したらいいのかが見えにくくなってしまうからです。改善や成長が見込めない事業運営を続けていると、目先の業務にとらわれやすくなり、事業の拡大や人材確保といった成長機会を逃しやすくなるでしょう。

そういった経験頼りや勘だのみといった計画性に乏しい経営では、社内外の信頼を得にくくなります。経営に一貫性や統一性がないことによって、経営者からのメッセージが伝わりにくくなり、社内では従業員からの信頼が低下したり、人材確保や定着、育成に影響を及ぼしたりする可能性があります。

社外では、顧客や取引先をはじめとして、企業や自社商品、サービスの評価や評判に関わりかねません。経営計画は、自社が補助金や助成金、融資などを受ける際にも不可欠です。資金繰りにも影響しかねませんので、つけ焼き刃ではなく平常時からの経営計画策定が重要です。

このようなことは、巡り巡って最終的に経営者自身の負担を増やすことにつながります。今のところ上手くいっている、何とかなっているという経験則に基づく感覚的な経営は、ほかのメンバーと共有するのが難しく、自分以外の経営参加や改善提案などを受けつけないと解釈されても、決しておかしくはありません。

では次に、経営計画を策定する効果やメリットを、中小企業白書から具体的に見ていきましょう。

経営計画を策定する効果

中小企業白書では、「経営計画の運用と策定と運用は目標実現に加え、組織の活性化等にも効果があるとされている」とまとめています。具体的に挙げられた効果は、以下のとおりです。

経営計画を策定して得られた効果

・経営状況の把握(56.5%)

・自社の強みや弱みの理解(39.1%)

・業績の向上(33.2%)

・補助金の獲得(14.4%)

・融資の獲得(13.7%)

・取引先への共有(4.3%)

・その他(2.7%)

・特にない(2.5%)

経営計画に対してどのように実績がどのように進捗しているかを把握することは、自社の現状を知ることにつながります。計画よりも進んでいるのは何故か、それとは逆に遅れている理由は何かを突き止めていくことで、経営状況を把握できるでしょう。

商品やサービスの評価は高いのに販路が開拓できていない、問い合わせは一定数あるものの商談や成約までの確率が低い、品質と価格のバランスの良さが顧客に評価されている、競合他社にはないサポートの手厚さが好評だといったように、経営状況を把握していく中で、自社の強みや弱みが見えてきます。

また、経営計画を立て計画的に事業を運営することで、補助金や助成金、投資といった資金繰りにも好影響があるという結果が出ています。取引先に共有することで経営の方向性を示し、企業としての信頼を高めるということも可能です。

売上高や付加価値額にも好影響

さらに言うならば、経営計画を策定している企業の売上高と付加価値の向上にもつながる可能性があると、中小企業白書は示唆しています。

・売上高の変化率:5.7%→7.7%

・付加価値額の変化率:8.1%→9.9%

矢印の左側が経営計画を策定していない企業の実績で、右側が策定している企業の実績です。売上高や付加価値額がそれぞれ約2%異なります。自社の売上高や付加価値額がそれぞれ約2%上がると期待できるのも、メリットのひとつだといえるでしょう。

また、売上高や付加価値額は、経営計画の計画期間が長いほど、その効果が高いという結果も示されています。短期だけではなく、3~5年以上の中長期と期間が長くなるにつれて、変化率も上昇しています。

■売上高の場合

・5年超                      13.2%

・3年超~5年以内          9.9%

・1年超~3年以内          5.4%

・1年以内                      3.6%

■付加価値額の場合

・5年超                       15.1%

・3年超~5年以内          11.8%

・1年超~3年以内            8.2%

・1年以内                      5.7%

目下の経営計画はもちろんのこと、中長期の視点を持つことも大切です。経営計画を策定する場合には、3~5年といった中長期の計画も同時に立てるようにしましょう。

目的どおりの結果が出やすいという一面も

中小企業白書では、ほかにも興味深い指摘があります。それが、経営計画策定の目的と効果の一致率が高いという点です。期待に応える結果(効果)を得やすいともいえます。経営計画を策定する目的を見てみましょう。

・業績の向上(35.1%)

・経営状況の把握(33.2%)

・自社の強みや弱みの理解(15.2%)

・補助金の獲得(8.0%)

・融資の獲得(4.8%)

・取引先への共有(0.8%)

・その他(2.2%)

・特にない(0.7%)

労力や時間をかけて経営計画を策定し運用するのですから、狙い通りかそれ以上の成果が出なければ、取り組む価値がないと判断する経営者もいるかもしれません。目的よりも効果のほうが全体的に高い値を示していることが、取り組んだ効果だと解釈することもできます。

経営計画の運用に重要な役割を果たす経営人材

経営計画の策定において、忘れてはならないのが、策定後の運用です。運用する中で見えてくる現状を把握するところから改善が始まります。

経営計画の運用で重要な役割を果たすとされているのが、経営人材です。中小企業白書でいうところの経営人材は、「経営者と近い視点・視座で、経営戦略の立案や事業展開等に関して意思決定を担うことができる人材」と説明されています。

企業規模によるところもありますが、経営戦略の立案をはじめとして経営計画の策定、運用までを経営者が自分一人で担うには、負担が高すぎる場合もあるでしょう。そのようなときに欠かせないのが、経営者に伴走してくれる経営人材です。

経営人材がいる場合は、いない場合よりも運用に対する取り組み率が上昇します。社内に経営人材に適した人材がいるのであれば、経営計画を計画倒れに終わらせず、運用を継続するために、業務分担を考えましょう。いない場合には、社外から適切な人材を探します。

まとめ

今回は、2025年版中小企業白書・小規模企業白書から、中小企業にとっての経営計画の必要性についてお伝えしました。経営計画の策定には、経営状況の把握をはじめとして、自社の強みや弱みの理解、自社の業績向上といった効果があるとお分かりいただけたことでしょう。

もし、まだ経営戦略の立案や経営計画の策定に取り組めていないという場合には、できるだけ早く取り組み始めることをおすすめします。経営計画の策定は、企業として成長するための改善を積み重ねるのに不可欠なスタート地点を設定することだといえるからです。

PDCAの回転は、経営を含むビジネスの基本といえます。経営計画の策定から始めましょう。

略歴

吉野 太佳子 / Takako Yoshino

中小企業診断士、上級ウェブ解析士、Googleアナリティクス認定資格、MBA。明治大学経営学部 経営学特別講義講師。
中小企業庁 東京都よろず支援拠点サブチーフコーディネーター
中小企業向けWebブランディング会社 (株)アイコンテンツ 代表取締役  https://icontents.co.jp/
法人向けデジタル人材育成会社 (株)アイクラウド 取締役CDO https://www.icloud.co.jp/
PAGE TOP