活動報告

専門家コラム「組織活性化3点セットのご紹介 ~「エニアグラム」のすすめ~」(2023年11月)

1.組織活性化で必要なツールとは
経営者の皆様、皆様が経営者としての人生を送る使命は何でしょうか。私ども中小企業診断士も経営者でありますので、考えてみました。
「いい商品・サービスをつくり、広く使ってもらい、みんなを幸せにする」
これに尽きます。ただし経営者が商品づくりや営業・販売を自分で行うわけではないです。いい商品やサービスを作り、広く世の中の人に使ってもらうのは直接には従業員が行います。従業員が商品づくり、営業販売をしやすくするための後方支援を社長は行います。その後方支援とは
ヒトに関する事項(組織運営、人材)
カネに関する事項(資金調達、利益及びキャッシュフロー管理)
の2つに集約されます。この中で、今日は組織に関する項目に焦点を当てます。
 さて、成長できる、長続きする組織にどのような条件が必要でしょうか。
① 適切な「組織制度」を構築し、使い方が浸透している事
② 適切な「組織コミュニケーション」が社内に浸透している事
私はこの二つが「絶対に」必要と考えます。「絶対に」です。組織制度を整備しただけでは、従業員のコミュ力が高いだけではうまく活性化につながりません。
組織制度は成果として求められることが多いです。評価制度、報酬制度、スキルマップ、採用・育成プロセス構築、目標管理が互いに連動しながら運用されており、それをモニタリングしながら、微修正を行います。
ところがです。評価制度や目標管理を運用しても組織があまり活性化せず業績が上がらない事業者もあります。思うに、それは組織活性化で制度を作る事以上に大切な、組織コミュニケーションの方法が全社に浸透していないことも原因であると考えられます。
では、組織コミュニケーションはどのように浸透させていったらよいでしょうか。私は組織コミュニケーションの「3点セット」で組織活性化が求められる伴走支援に対応しています。それは
・その1:経営者の自己理解(と従業員理解)
・その2:経営者のビジョンづくりと浸透の準備
・その3:経営会議での心理的安全性づくり
の3点を原則、社長主導で同時進行していきます。
 そして、この3点すべてのベースとなっているのが性格応用心理学「エニアグラム」です。
3.自分の本質を知る万能ツール エニアグラム
エニアグラムは性格応用心理学の一つで簡単に言うと「人の性格や心のクセ、感じ方を9つのタイプに分けて考える考え方」です。大まかに次の9種類のタイプに分けられます。
1. しっかり者タイプ(正しいことが好き)
2. やさしいお世話タイプ(人のためにがんばる)
3. がんばり屋タイプ(目標に向かって一直線)
4. きもちが大事タイプ(自分らしさを大切にする)
5. 物知りタイプ(静かに考える天才肌)
6. 安心したいタイプ(安全・ルールが大事)
7. ワクワクタイプ(楽しいことが大好き)
8. パワフルタイプ(強く行動できるリーダー)
9. ほのぼのタイプ(みんなが仲良く、がいい)
自分のタイプが特定できると、
(1)自分の得意・苦手がはっきりつかめるので、コミュニティ内の自分の存在に自信が持てます。
(2)相手の欲求がわかるので、コミュニケーションの工夫が可能です。
(3)自身を深く見ることができ、どのような状態を目指すべきなのかが明確です。
他の性格応用心理ツールには見られないビジネス上で考慮すべき大きな特徴があることから、エニアグラムは1990年代以降、アメリカの企業研修、リーダー育成現場で「タイプ別のコミュニケーション理解」として急速に普及しました。今では中小企業では「社長と幹部の理解」「現場のコミュニケーション改善」に効果があるため導入が進んでいます。
4.伴走支援での3点セット活用事例
伴走支援での3点セットを活用した事例を見てみましょう。
関東近郊の社員12名の建設業。受注は8割下請、2割直接受注です。案件別に原価率のばらつきが大きいことは、社長は分かっていました。しかし案件担当者や技能職、スタッフ部門とは共有せず、改善の糸口がつかめていません。社長は評価制度を作りたいとのことでしたが、お話をすると組織コミュニケーションに活性化改善要素があると考え、社長には、これまで話した3点セットを実践頂きました。
1)A社長の自己理解=タイプ特定と深堀
 早速エニアグラムを用いて、社長のタイプを特定していきます。すると「ほのぼのタイプ」と判明します。「ほのぼのタイプ」は平和を愛するのですが、どっしり感を醸し出し、場に安心平和をもたらします。更に従業員の話は丁寧に傾聴できるタイプです。自分からは話過ぎず。明るい雰囲気の会社です。
ですが、裏を返すと指示があいまいで、信条が見えないことがあります。時にそれは従業員を不安にさせます。自分がどうしたら会社にフィットするのかが不明確だからです。結果として経営者として信頼を勝ち取れない可能性があるのです。
タイプがわかると、こうした行動特性や考え方のクセが「確かに!」と腹落ちしていきます。どのようにふるまうべきか、従業員に話すべきか等社長に合わせコンサルティングをしていきました。

2)A社長のビジョンづくりと浸透準備
従業員がどのように行動したらいいのか、どんな発言をしたらいいかを判断するよりどころとしてビジョンを打ち出します。これを、会議や経営発表会、朝礼だけでなく、合うたびに機会があれば社長から伝えて頂きました。「どのように何回伝えるか」の重要性を確認、結果従業員との共有が進んでいます。
ビジョンの打ち出し方や会議での共有の仕方もエニアグラムでのタイプが関係します。「ほのぼのタイプ」は文言や発表があいまいになりやすいですので、その点を客観的な目線で支援しています。
3) 経営会議での心理的安全性づくり=従業員の意見を引き出す仕組み
「機会を作り」「どのように引き出すか方針を決め」ました。月1回の利益向上会議・年1回経営目標共有会を開催、更に適時に従業員がコンサルタントと個別面談し、どの程度引き出す体制ができているか、会議の仕方や効果における客観的な評価をします。
その結果「どのように引き出すか」については、利益向上会議で実践、その後私と協議しながら、意識を高めてもらいました。そこで改めて心理的安全性のルール決めをします。例えば下に示す通りです。
 営業成績よりも「失敗事例」や「感謝・承認の言葉」を重点的に共有。
 「質問歓迎」、「使えない意見も使えるアイデアの母」など意見出しは量重視。
 意見が出た後のフィードバック(FB)を社長や従業員さんに出してもらう。意見が出なくなる理由は意見へのFBがない事を伝え、安心感を上げる。
従業員が安心して意見が言えることで、活性化の先の利益意識につながります。
ここでは、個別面談時に従業員それぞれのエニアグラムタイプを把握します。この事例企業では、きもちが大事タイプと安心したいタイプがいらっしゃいました。気持ちが大事タイプは、他の方には出てこない革新的なアイデアで、会社の活性化の原動力となる意見を言ってくれますが、他の人と同じことを嫌う性質から同じことを言い換える等、意見の特性を理解しておく必要があります。
また安心したいタイプの方は、証拠が揃う、論拠が確かでないものについては意見しない傾向があります。それが、革新的過ぎるアイデアをきちんとブレーキがわりとなるいい面もあります。このような傾向を従業員ごとに社長と認識を一致させることで支援の効果を高めることができます。

終わりに
伴走支援のためになぜ組織活性化が必要なのか。そして組織活性化にはなぜ、組織制度の構築や運用だけではなく、コミュニケーション改善が必要なのか。
その答えをお伝えします。
リクルートワークス研究所「Global Career Survey 2024」では、働く方に「仕事で重視する1番に大切なものは?」と聞いた結果、日本以外の先進国は高い賃金・充実した福利厚生に重きを置くのに対して、日本では「良好な職場の人間関係」が最も高い比率であり、活性化においても人間関係の重要度が非常に高いのです。こうした特性を理解したうえで、真に支援先企業のためになる伴走支援に向け精進したい思いです。
以上

略歴
加賀城 剛史(かがじょう たけし)2013年4月 中小企業診断士登録。
建設コンサルタント業で、海外の交通計画策定・公企業支援に従事の後独立。2019年1月、合同会社フェニックス経営研究所設立。
建設業を中心に、エニアグラムを用いた原価管理、組織支援を行う。中央支部では「エニアグラム実践研究会」(https://www.rmc-chuo.jp/master-outline)を立ち上げ、エニアグラムを活用した企業支援の在り方を実践という形で研究開発する。思いを同じにする中小企業診断士・他士業、専門家が会員となり、日々人材開発分野での適用を研鑽している。

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