Global Wind (グローバル・ウインド)
ヨルダン

中央支会・国際部 山田 昭彦

 JICAのシニアボランテイアとしてヨルダン国に派遣され、首都アンマンの工業会議所とその会員企業の生産性改善を人的資源の視点で提案しております。契約期間は2011年10月から半年間です。
 ヨルダンはイスラエル、シリア、イラク、サウジアラビアと国境を接し、エジプトとは紅海を隔てた指呼の間の中東の王国です。
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アカバにて。
正面はエジプト、右にはイスラエルが見える。浜の左手はサウジアラビアに続く。
 国王はアブドッラー2世で、イスラエルとアラブを結ぶ穏健路線は欧米各国から高く支持されています。
 観光では、世界遺産のぺトラ遺跡や海抜-400mの死海が有名です。
 1946年に独立し、人口は600万人ですが、その6割はパレスチナからの難民で、またエジプト、イエメン、シリアからの移住者も増えています。
 イスラム教徒が93%で他はキリスト教徒です。国土は8.9平方キロで北海道より小さく、その大半は砂漠です。石油大国のイラクやサウジの隣なのにここでは原油は出ません。砂漠なので水も不足しています。石油や機械を輸入し、輸出は燐、カリウムの鉱物資源です。
 このヨルダンで企業の生産性改善の指導を行っていると述べても、砂漠で何ができるのかといぶかしがる方が多いことでしょう。そこで活動内容を通じて、若干でも実情をお知らせできればと思います。
 訪問先企業は勤務しているアンマン工業会議所が紹介してくれますので、担当者と訪問先を訪ねて希望を打ち合わせ、合意すれば翌日からすぐに診断が始まります。
 7:00迎え。会社のマイクロバスで市内の幹線道を抜け、高速道路から郊外に入ります。高速の横には埋設工事中の土管が地平線まで並び、将来は化石層からの地下水を首都まで運ぶ予定です。
 アンマン市内にはほとんど工場は見られません。工場立地規制や、地価の問題もあり、工場地帯はたいがいアンマン市内から30分以上離れています。白物家電製造の工場、金属加工の工場から繊維までさまざまです。
 因みに工業会議所に登録のメーカー数は8,000社です。
 8:00始業。従業員は会社のバスで通勤します。電車や地下鉄はなく、会社のバスは幹線道路のロータリーで従業員を拾ってきます。朝礼はなく定時に仕事場に入り業務開始です。
 服装は自由ですが、埃を嫌うところではちゃんと帽子、マスクを着用しています。
 組立ラインに配置された女性は、イスラム教に従いスカーフで髪を覆います。服の柄や色に合わせてスカーフを選ぶので、若い女性にはファッションの一部ですが、既婚女性の服は概して地味です。
 エジプト、イエメン、フィリピンからの従業員をよく見かけます。ヨルダンの失業率は高く、政府系の企業ではヨルダン人採用を重視し、外国人は清掃、お茶くみ、土方にまわります。因みにお茶くみは主に男性の仕事です。
 10:00技術者と打ち合わせ。エンジニアの多くは大卒で、名門ヨルダン国立大学工学部出身者によく会います。
 ヨルダンは若い国で、教育に力を注いでおり、人口当たりの大学生の比率は日本よりずっと高いのです。
 金融危機以来就職難なので今は買い手市場です。ヨルダンでの就職を諦めて、サウジアラビアなど海外に流れてしまう人材が多く、勿体無いことです。
 品質、生産管理では多数の女性エンジニアが活躍しており、JICA等で生産改善のセミナーを開きますと、多くの女性が参加して熱心に勉強しております。
 設備やシステムは欧米、アジア、日本からのが多いので、メンテ、導入の技術者は皆英語が上手です。
 中国の設備をよく見かけます。安さが決め手ですが、メンテのサービスは向上しており、中東を席巻する勢いです。
 12:30祈りと食事の時間。敷地内のモスクや工場内の祈りの部屋に集まってメッカに向かって祈ります。
 手足をきれいに洗うのが決まりなので、温水でのシャワー、水道は完備して、必ず石鹸が用意され、とても清潔です。
 祈りの時間は10分以内ですので、生産性に影響はありません。多忙な幹部は自室で時間を見つけて祈ります。
 カフェテリアではご飯、スープ、サラダに鳥や豆の料理が出ます。弁当屋の出入りもあります。
 ヨルダン人は家庭で朝食をとることが少なく、勤務途中で菓子や軽食をつまみ、帰宅後に重い昼食をとります。
 夕食は夜食に近い時間になり、これは軽いそうです。
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スカーフの事務職女性と食堂にて。
 15:00工場長など幹部と打ち合わせ。幹部は欧米で就労したり勉学した方が多く、
理論的でJITや自働化についても言葉は知っています。アラブの春の影響でシリアやエジプトへの輸出が減り、操業はかなり苦しい状況で、少数での生産性向上や在庫圧縮が課題です。
 17:00終業。ベルや終礼はなく、時間が来るとバスで帰宅します。景気の良い時は残業があり、時間外は25%、イスラムの休息日の金曜日では50%の手当がつきます。
 企業診断では3日程度連続して訪問し、レポートをまとめてプレゼンを行い、要望により定期的に訪問しています。
 課題は企業によりさまざまですが、概してルール順守に甘いのは共通しているので、そこが改善のポイントです。
 日本的な縦割りの問題は少ないのですが、組織の横の壁が厚く、労働者と管理者は交わりません。
 しかし、社内旅行を毎年行う会社もあり、幹部、技術者、従業員の壁が低い企業はうまくいっています。
 赤ちょうちんで豚バラに焼酎は、イスラム教ではどちらもご法度で、帰りに一杯はありません。
 仕事帰りのマイクロバスから夕闇迫る薄紅の残照の中に、あちこちのモスクの塔が緑色にライトアップされて浮かび上がるのを眺めていると、中近東で仕事をした実感が湧いてきます。
 
 
 
■山田昭彦
中央支会国際部
JICAシニアボランティア