Global Wind (グローバル・ウインド)

東京都中小企業診断士協会中央支部・国際部

静永 誠

はじめに

第1回「概要編」(2018年07月)ではCMMI®(能力成熟度モデル統合) の概要、歴史、第2回「CMMI開発の経緯編」(2018年08月)は、成熟度レベルの概念が確立される様子を中心にCMMIの前身までの開発の歴史を紹介した。最終回の第3回である本記事では、CMMIの新バージョンであるCMMI V2.0の変更点を紹介する。
 

CMMIのリリースと改訂

CMMIは、他の分野の要素とともに、SW-CMMの主要な要素が取り入れられた。例えば、キープロセスエリアとほぼ同じものとしてプロセスエリアが、キープラクティスに類似のものとして固有プラクティスが定義されている。
2000年、CMMI V1.02がリリースされた。余談だが、関係者から非公式に聞いたところでは、作業上の都合でバージョン番号がV1.02ではあるが、実質は最初の正式版と考えて問題ないとのことである。
参考までに、CMMIリリースまでの過程で統合された、各種モデルの変遷について図1に示す。
図1CMMI統合過程でのモデルの変遷

図1CMMI統合過程でのモデルの変遷

その後、産業界からのフィードバックの反映などをしたCMMI V1.1が、2002年にリリースされている。
CMMI V1.1のリリース以降、CMMIのフレームワークは、他の対象領域に適用可能であることが明らかになってきたため、他領域への拡大が図られるようになった。CMMI V1.2では「取得のためのCMMI(CMMI-AQC)」と「サービスのためのCMMI(CMMI-SVC)」が計画され、既存のCMMIは名称を「開発のためのCMMI(CMMI-DEV)」に変更された。
その結果、2006年にはCMMI-DEV、2007年にはCMMI-AQC、2009年にはCMMI-SVCがそれぞれV1.2としてリリースされた。この時点からCMMIは正式に、ソフトウェアおよびシステムの開発だけでなく、サービス業全般や、各種委託開発における調達活動にも適用できるモデルという位置づけになっている。従って、CMMIの説明によれば、例えばサービス業のひとつであるコンサルティング会社のプロセス成熟度のレベル判定も、CMMI-SVCを使えば可能ということになる。
CMMIの開発はその後も進められ、2010年にはCMMI-DEV、CMMI-AQC、CMMI-SVCのそれぞれでV1.3がリリースされている。ここではプロセス領域の統合など、モデル構成要素に関しては大きな変更もいくつかされているが、成熟度レベルのコンセプト上の大きな変更はないといえる。
 

CMMI V2.0のリリース

CMMI V1.3がリリースされた後、CMMIは管理がSEIからCMMI Instituteに移管され、さらにスポンサーが変更されるなど、管理体制が大きく変化した。2018年3月にリリースされたCMMI V2.0は、新しい管理体制およびスポンサーのもとで初めて公開されたバージョンであると同時に、モデルの内容も大きく変更された。
本記事は専門家以外の読者を想定しているため、ここではモデル内容の変更は簡単な紹介にとどめ、利用者の立場からは関心が高いであろう、入手方法の変更などを紹介する。
 

管理体制の変化とモデル内容への影響

Software CMMからCMMI V1.3までは、Carnegie Mellon大学のSEIがモデルの開発および管理を行っていた。CMMI V1.3リリース後の2012年、Carnegie Mellon大学はCMMI Instituteという新しい研究所を設立し、CMMIに関係する成果物と活動をSEIから移行した。
さらに2016年には、CMMI InstituteはCarnegie Mellon大学からISACAに取得され、民間の組織となった。
このような管理体制の変化を反映し、CMMI V2.0は国防省から予算的に独立した、民間・産業界の資本によってリリースされる初めてのバージョンとなった。その影響もあり、V2.0では民間のソフトウェア開発で普及が進んでいるアジャイル開発への適用ガイドを開発するなど、産業界の動向を取り入れる動きが今まで以上にみられる。
 

CMMI V2.0のリリースと公開方法の変更

Software CMMおよびCMMI V1.3までは、モデルの原文はSEIおよびCMMI Instituteのサイトで公開され、希望者は無償で入手可能であった。今回のCMMI V2.0リリースでは公開方法が変更され、初めてモデルの入手が有償となった。
本記事作成時点では、ライセンスを購入することでCMMI Instituteのサイトにあるモデルビューアが利用可能になる仕組みがとられている。ライセンス価格は、有効期間が1週間で150USドル、1年間で400USドルとなっている。
 

CMMI V2.0での変更点

実際にCMMI導入を進める実務担当者などにとっては、非常に大きな変更がされているが、本記事では前回記事のCMMI概要および前述のCMMIの歴史に関連する内容で変更されている点を簡単に示す。
 

プロセスエリアの名称および構造変更

CMMI V1.3まではプロセスエリアと呼ばれていたものが、CMMI V2.0ではプラクティスエリアに置き換わった。あわせて、Software CMMのときから続いていた、ゴールとプラクティスの関係が廃止された。
CMMI V1.3までは、モデル上で各成熟度レベル達成とみなすために必要な要求事項はゴールのみであり、その他の要素は要求事項とは異なる位置づけになっていた。一方で、実際にアプレイザルを行いレベル判定をするときには、ゴールの記述は抽象的過ぎることもあり、CMMIでは固有プラクティスと呼ばれる要素への対応状況を中心にプロセスを調査しレベル判定することが多かった。
CMMI V2.0では、このような状況への対応や、産業界からの理解が容易なモデルを望むフィードバックなどをうけ、ゴールを廃止し、V1.3での固有プラクティスにあたるものを成熟度レベル達成に必要な要求事項へと変更した。
 

成熟度レベルとプロセスエリアの包含関係の変更

CMMI V1.3では、全てのプロセスエリアは1つの成熟度レベルに紐付く形で構成されており、これはSoftware CMMでの成熟度レベルとキープロセスエリアのときから継続していた構成であった。
プロセスエリアが複数の成熟度レベルを跨がないようにしていた背景には、各キープロセスエリアは成熟度レベルを進めるために特に重要な少数の項目だけを提示し、組織が一度にあまりにも多くの改善策を取り上げ過ぎる失敗を防げるようにするという、Software CMM V1.0リリースよりも前の段階での決定があった。このような経緯や意図は有益なものではあったが、一方で、関連性の弱くない内容を、成熟度レベルが違うと理由で別のプロセスエリアに分けることもされ、経緯などを知らないと理解が難しい記述も生み出していた。
CMMI V2.0では、V1.3でのプロセスエリアにあたる、プラクティスエリアは複数の成熟度レベルを跨いだ内容を含むように構成が見直された。さらに成熟度レベルを向上させるための項目を絞り込むというニーズについては、プラクティスエリア内にプラクティスグループという新しい概念を用意して対応した。
 

最後に

本記事は3回に渡り、2011年以来の大きな改訂がCMMIで行われた機会に、CMMIのプロセス成熟度の概念と、そのコンセプトの作成経緯について紹介した。さらに、CMMI V2.0での改訂内容についても簡単に紹介した。
CMMIは、その前身まで遡ると1980年代に開発され、以降進化を続けているモデルになる。主にシステム開発およびソフトウェア開発で適用されることが多いモデルであるが、定義上はサービス業全般を含む、様々な領域へ適用可能なものとされている。
ビジネスにおける継続的なプロセス改善は、業種を問わず重要なテーマと考えられる。今回のCMMI新バージョンのリリースを契機に、プロセス改善を進めるツールとして、CMMIに関心を持つ人が増えればと期待している。

 

参考資料

  • Mark C. Paulk, “A History of the Capability Maturity Model for Software,” ASQ Software Quality Professional, Vol. 12, No. 1, December, 2009
  • CMMI Product Team, “CMMI for Development, Version 1.3 CMMI-DEV, V1.3 CMU/SEI-2010-TR-033 ESC-TR-2010-033,” Software Engineering Institute, Carnegie Mellon University, 2010
  • CMMI 成果物チーム、「開発のためのCMMI® 1.3版 CMMI-DEV, V1.3 CMU/SEI-2010-TR-033 ESC-TR-2010-033 より良い製品とサービスを開発するためのプロセス改善」、カーネギー・メロン大学ソフトウェア工学研究所、2010年
  • CMMI Product Team, “CMMI for Service, Version 1.3 CMMI-SVC, V1.3 CMU/SEI-2010-TR-034 ESC-TR-2010-034,” Software Engineering Institute, Carnegie Mellon University, 2010
  • Mark C. Paulk, Bill Curtis, Mary Beth Chrissis, Charles V. Weber, “Capability Maturity ModelSM for Software Version 1.2 Technical Report CMU/SEI-93-TR-024,” Software Engineering Institute, Carnegie Mellon University, 1993.
  • Mark C. Paulk他著、「能力成熟度モデルのキープラクティス 1.1版 技術報告書 1993年2月、CMU/SEI-93-TR-25、ESC-TR-93-178」、ソフトウェアエンジニアリング研究所、カーネギーメロン大学、1993年
  • Watts S. Humphrey著、藤野喜一監訳、日本電気ソフトウェアプロセス研究会訳、「ソフトウェアプロセス成熟度の改善」、日科技連、1991年
  • フィリップ・B.クロスビー著、小林宏治監訳、「クオリティ・マネジメント:よい品質をタダで手に入れる法」、日本能率協会、1980年
  • 渡辺昇、平松庸一、「経営品質メカニズムに関する理論モデルの研究-組織成熟度と組織変革の共進化プロセス-」、日本経営品質学会、2007年
  • 「CMMIの変遷」、、2018年6月29日アクセス
  • Ronald A. Radice, John T. Harding, Paul E. Munnis, Richard W. Phillips, “A Programming Process Study,” IBM Systems Journal 24(2): 91-101, 1985
  • “DoD Integrated Product and Process Development Handbook,” Office of the Under Secretary of Defense (OUSD), Washington, DC – 20301-3000, August 1998

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Capability Maturity Model、CMM、 CMMI は、Carnegie Mellon大学によって米国特許商標庁に登録されている。
SEIは、Carnegie Mellon大学の商標。

 
プロフィール:
静永 誠
大手メーカー系・独立系ソフトウェアハウスで開発工程全般の実務を経験した後、ソフトウェア開発プロセスのアセスメント資格と中小企業診断士を取得。航空宇宙業界や自動車業界で、プロセスアセスメントやソフトウェアプロセス改善のコンサルティングを担当した後、他業種のSIベンダーのプロセス改善支援にも活動を広げている。