Global Wind (グローバル・ウインド)

中央支部・国際部 胡子 豪

 最近、日本でも何かと話題の『キャッシュレス決済』。私が月に1~2回出張で訪れる韓国では、キャッシュレス決済が広く普及しています。今回はそんな韓国のキャッシュレス事情を通じて、話題のキャッシュレスについてご紹介したいと思います。
 

1. はじめに

 そもそもキャッシュレスとは何でしょうか。実は日本政府もキャッシュレスを推進していこうと経済産業省などが様々な取り組みを行っています。平成30年4月に経済産業省が策定した「キャッシュレス・ビジョン」によると、キャッシュレスとは『物理的な現金(紙幣・貨幣)を使用しなくても活動できる状態』のことを指します。
 2019年7月にはファミリーマートが独自のキャッシュレス決済「ファミペイ」を導入し、同社のスマホアプリから決済が可能になるといったニュースが話題になりました。また昨年末には、20%の高還元率が目玉の『100億円あげちゃうキャンペーン』を実施したPayPayのニュースも記憶に新しいです。最近ではそういったスマホアプリを使用した決済の話題が多く、キャッシュレス決済=スマホアプリ決済のイメージが強いですが、上述の定義に従うと、実はキャッシュレスの考え方や支払手段は昔から存在しています。Suica等の交通系電子マネーもキャッシュレスにあたりますし、クレジットカードなどもキャッシュレスにあたります。
 

2. 日本でのキャッシュレス事情

 なぜ現在、キャッシュレスがこれほどまでに話題になっているのでしょうか。ひとつにはスマホの普及、スマホで決済できるアプリの普及が大きいのではないかと思います。企業としては個人のデータを蓄積・分析することが可能になり、それらのデータを活用することで今後のさらなるビジネス拡大が可能になります。
 またもう少しマクロな国家という視点では、2020年の東京オリンピックを視野に入れた、増加傾向にある訪日客の決済需要に対応していくという目標があるようです。さらに前述したビジョンには、実店舗等の無人化省力、不透明な現金資産の見える化、流動性向上、不透明な現金流通の抑止による税収向上、消費の利便性向上や消費の活性化等のメリットが挙げられています。

 では、日本ではキャッシュレス決済はどれくらい普及しているのでしょうか。ちょっと古い2015年のデータにはなりますが、日本のキャッシュレス決済比率は18.4%となっています。現在、日本政府はこのキャッシュレス決済比率を40%とすることを目指していますので、目標からするとかなり低い実態となっています。また下図のようにキャッシュレス決済が普及している国では、決済比率が40%~60%となっており、世界各国と比較しても、日本のキャッシュレス決済比率は低くなっています。この図の中でもひと際目を引くのが、決済比率89.1%の韓国です。

各国のキャッシュレス決済比率の状況(2015年)

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(出典)経済産業省「キャッシュレス・ビジョン(平成30年4月)」

 

3. 韓国でのキャッシュレス事情

 韓国のキャッシュレス化は、1997年の東南アジア通貨危機の打開策として政府が主導したクレジットカード利用促進策に端を発している言われています。クレジットカード利用額に対する所得控除や一定店舗でのクレジットカード取扱義務付けなどの取組みが実施され、クレジットカードの発行枚数、利用金額が1999年頃から急拡大しました。そのような取組みが功を奏したためか、韓国では首都ソウル以外でもクレジットカードを使用できる場所がとても多いです。私も出張で月に1~2回韓国へ行きますが、地方にある都市であっても、飲食店やタクシーの支払いは全てクレジットカードで可能です。またクレジットカード支払い時のサイン用に専用のサインパネルが置かれている店も多く、かなりキャッシュレス決済が普及している印象があります。わざわざ両替をしたり、現金を持ち歩いたりする必要もなく、出張者としてはとても便利です。
 

4. キャッシュレス普及に向けた課題

 一方でこれだけキャッシュレス決済が普及していると便利な半面、やはりデメリットもあるようです。昨年11月にはソウル中心部で通信業者の通信ケーブルが火事で焼けてしまうという事件がありました。そのため携帯電話やインターネットが使用できなくなり、またカード決済もできなくなったようです。カード決済ができなくなったお店は臨時休業に追い込まれるなどキャッシュレス決済比率が高い国ならではの混乱が発生してしまいました。昨年発生した北海道胆振東部地震でも、停電によってクレジットカードが使用できない、ATMからは現金が下ろせないという事態が起こっており、昨今、災害の多い日本においては、キャッシュレスに対する災害時の対応を考えていく必要があるかもしれません。
 また、IT技術を利用したキャッシュレス決済には不正利用などのセキュリティ上の問題もあります。郵便局やコンビニ等のインフラが整っており、基本的にはいつでもATMが使用できる状態の日本では、現金の方が安心できるといった側面も確かにあり、キャッシュレス決済の普及にはまだ時間がかかりそうです。
 しかしながら、他国に比べてキャッシュレス決済比率は低いながらも、日本における比率自体は右肩上がりの傾向にあります。今後もIT技術の革新や東京オリンピック・大阪万博開催を契機にキャッシュレス決済は徐々に普及していくのではないかと思います。
 

5. 中小企業や地域の振興に向けて

 さらに中小企業診断士としては、キャッシュレス化に関しては注目したい別の観点があります。手数料の負担が小さい新たなキャッシュレスサービスの登場により、これまで決済手数料が負担となるためキャッシュレス決済を導入できなかった中小企業でも、キャッシュレス決済導入の敷居がぐっと下がる可能性があるのです。
 例えば、福岡県福岡市では福岡市名物の屋台でQRコードを利用したキャッシュレス決済の実証事業が実施されていたり、静岡県袋井市では袋井商工会議所が中小事業者向けのキャッシュレス決済の導入支援事業を実施したりしています。福岡市の場合は中国からの訪日客向け、袋井市の場合は2019年のラグビーW杯観戦訪日客(袋井市内のスタジアムが開催地のひとつ)向けといったインバウンド需要の取り込みの側面が強いかもしれません。
 しかしこのような取り組みがうまく行けば、キャッシュレス決済は訪日客の決済需要の取り込みだけに留まらない、地域振興や中小企業振興といったこれからの日本にとって重要な課題を解決してくれる大きな手助けとなってくれるかもしれません。
 
参考文献)
http://www.meti.go.jp/press/2018/04/20180411001/20180411001-1.pdf
https://meti-journal.jp/p/2622/
https://meti-journal.jp/p/2376/

 
■胡子 豪(えびす ごう)
広島県出身、1985年生まれ。機械メーカーにて海外向けの営業を担当。
中小企業診断士は2015年に登録。中小企業診断士としては、実務従事の指導員やものづくり補助金の支援業務で活動中。
東京都中小企業診断士協会中央支部 国際部 所属