小川 亮一

 東京オリンピックに向けた国策の効果で、訪日外国人数とその国内での消費金額が急速に増えています。今回は、訪日外国人の状況とそれを生かすための準備、そして海外の外国人にもモノを売るチャンスでもあるということをご紹介します。
1.訪日外国人向けビジネスのチャンスが広がっている
【立ち食い蕎麦屋まで外国人が利用する時代】
 つい先日の夕方のこと、新宿西口の立ち食い蕎麦屋の食券機がいつもより人が並んでいるなと思ったら、東南アジアからの観光客に囲まれていました。その翌日の夕方、セルフサービスの讃岐うどん屋の前を通ったら、やはり東南アジアからの観光客がぞろぞろと出てくるところに遭遇しました。その店では、欧米人の観光客も看板の前に立ってメニューを眺めている光景を見かけます。外国人観光客は寿司・天ぷらだけでなく、日本人が普段利用する安い価格の食事店にも来店するようになってきています。
【今年の訪日外国人の数は昨年の30%増、一人当たり消費金額も15万円前後に。】
 訪日外国人向けの市場はすごい勢いで伸びています。訪日外国人の人数は10月の時点で昨年を超え、訪日外国人が日本国内で消費する金額は9月の時点で昨年を超えてしまいました。1人当たりの消費金額でも、昨年は13万円台でしたが今年は現時点で約15万円に達しています。人数も1人当たりの消費金額も増加しています。
図表1 訪日外国人の旅行消費額
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(観光庁訪日外国人消費動向調査7月-9月および日本政府観光局11月19日発表より)
 政府は訪日外国人2000万人を目指していますが、このペースで行けば2020年には3000万人、消費金額4兆円超ということもありえるかもしれません。国内は少子化で人口が少しずつ減ってきて、ビジネスがジリ貧になっていきそうな雰囲気がありますが、訪日外国人に対しては大きなチャンスが広がっています。
2.訪日外国人への準備
【集客は口コミから】
 訪日外国人の情報源は、ガイドブック、インターネット、口コミなど様々ですが、中小企業にとっての狙いは口コミです。下表からも個人のブログ、親族・知人などの口コミが情報源として役立っていることがわかります。特に個人のブログなどのインターネットの口コミは、同時に多くの外国人が見ることができるため、影響力が大きいと考えられます。インターネットの口コミサイトとして有名なのは「トリップアドバイザー」というサイトです。こちらは外国人がホテル・旅館・飲食店・観光スポットなど評価を載せています。食べログの海外旅行版のようなものです。実際に「トリップアドバイザー」などの評価が上げって行けば、少しずつ外国人客が増えていきます。
 口コミ対策は、外国人の期待に応えるサービスを継続していくことです。口コミは少しずつ増えていくものですから、早くから取組みを重ねていくことが重要になります。
図表2 旅行情報源で役立ったもの(出発前)
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(観光庁訪日外国人消費動向調査7月-9月より)
図表3 旅行情報源で役立ったもの(日本国内)
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(観光庁訪日外国人消費動向調査7月-9月より)
【言語の対応】
 英語や中国語で完璧に接客できればすばらしいのですが、はじめからそのようにできる方は少ないと思います。最初は、英語の看板・POP・メニューの用意から始めたらいかがでしょうか。飲食店の場合、メニューに写真やイラストを掲載したりサンプルを用意したりすることも、外国人とのコミュニケーションを助けることになります。
 また外国人従業員に協力してもらうことも有効と考えられます。都内の飲食店やコンビニエンスストアでは外国人従業員も多くなってきており、実際に外国人従業員と観光客が母国語で会話している姿を見かけたこともあると思います。外国人従業員に外国語のメニューや説明を書いてもらったり、簡単な挨拶などの言葉を教えてもらったりすることで、お店の外国人への対応力が向上します。
【決済】
 外国人にとって、クレジットカードが使えた方が便利なのは間違いありません。ただし必須ではないようです。観光庁のデータによると95%以上の訪日外国人は現金を使っており、クレジットカードを使っている人は約半分です。クレジットカードが使えないから、訪日外国人と商売できないとあきらめる必要はありません。
 ホテルや旅館にとって、お店側にもクレジットカード決済のメリットがあります。それはノーショーチャージというもので、予約時にクレジットカードの番号を入れてもらって、予約をキャンセルされた際にそのクレジットカードからキャンセル料を引き落とすという仕組みです。外国人から予約があったが実際には現れなかったとき、ホテル・旅館側から海外に対して簡単にキャンセル料を請求できませんが、この仕組みを使えばキャンセルを恐れることはありません。海外ではよく利用されている仕組みです。
【免税店制度の改正】
 2014年10月1日から免税店制度が改正され、対象品目が増加しました。従来の家電・カバン・靴・洋服・着物・時計・宝飾品・民芸品などの一般品が対象で1人1日1店舗につき1万円以上の売り上げが必要でしたが、10月1日から食料品・飲料品・医薬品・化粧品等の消耗品も免税店制度の対象に追加され、消耗品に対しては5千円以上になりました。これにより、地酒やお菓子などの通常のみやげもの屋が免税店になることが可能になりました。合わせて、免税店の認知向上のために、免税店のシンボルマークが作成されました。免税店は観光庁に申請することでシンボルマークを使うことができます。
3.海外の外国人にもモノが売れる時代が来る!
【訪日外国人の増加で、海外の外国人にもモノを売るチャンスが増える】
 多くの外国人が日本を訪問するということは、日本製品を知ってくれる外国人が増えるということです。そうなると海外に日本製品を販売するチャンスも増えます。もし海外に販路と外国語のホームページを用意できたとして、みやげ物のパッケージにURLを掲載したとします。そのみやげ物を持ち帰った外国人や受け取った知人の外国人もそのホームページから購入してくれるかもしれません。訪日外国人に売れる製品は、海外に販売するチャンスもあるということです。
 都内で外国人の口コミ評価が上位のホテル支配人も言っています。「ホテルは日本のショールームだと思っています。いずれ製造業にも還元されると思って、おもてなしをしています。」
【海外にモノを売る仕組みづくりが進んでいる】
 海外にモノを売るチャンスが増えているといっても、実際に外にモノを売るのは大変です。日本語が通じないだけでなく、各国の法律・関税・商習慣・決済・配送方法・契約など様々なことを理解して販売活動を行うには、相当な投資と覚悟が必要です。
 ところが今、海外にモノを販売するビジネスが広がりつつあります。たとえば楽天はRakuten Global Marketという海外販売サービスを展開しており、販売する国、販売できる品目を増やしています。海外にモノを販売したければ、楽天市場に店を構え、それを足がかりにして海外に販売することができます。楽天以外にも、海外に対してネット通販の集客・販売・決済・配送までをワンストップで代行するサービスを開始している会社も出てきています。これからは訪日外国人だけでなく、海外にモノを積極的に販売していくことが可能になってくることが期待されます。
4.外国人向けビジネスの拡大にむけて、本気のおもてなしを
 このまま順調に訪日外国人とその消費が増えていくためには、外国人に「また来たい」と思って帰ってもらう必要があります。観光庁の調査によると、幸い現在の訪日外国人の9割以上が「また来たい」と思ってくれています。この調子を維持するためには、日本人がみんなで本気で外国人の立場にたって、おもてなしを本気で実践することが必要です。例えば、山手線のホームにはほとんど階段しかなく、重いスーツケースをひきずりながら階段を上がっている光景をよく見かけます。インフラの整備もまだまだ必要です。官も民もみんなが外国人に不快・不便な経験をさせないよう考えて、おもてなしを本気で実践することが今後の対外国人ビジネスの発展の鍵を握っているのではないでしょうか。
■小川亮一(おがわりょういち)
中小企業診断士:
東京都中小企業診断士協会 中央支部 研修部 副部長
主な専門分野:小売業、飲食業