松島 大介

 最近、「日本でいちばん大切にしたい会社」、「日本経営品質賞 受賞」というような組織がちらほらと聞こえてきます。

 経営の品質ってなんだろうという思いが浮かんでくるとは思いますが、経営品質協議会では、経営品質の向上とは、組織が継続的に、経営革新に取り組み、卓越した経営を目指す姿のことをいっています。

 組織が継続的にということは、PDCAを回すということかな? 経営革新に取り組むって、経営革新ってよく聞くけど具体的にはどうすればいいのだろうか? 最後の卓越した経営とはどういうものなのだろうか?と疑問に思う人もいるのではないでしょうか?

 PDCAを回すというのは、たしかにその通りであっています。

 しかし、経営革新といっても、保守的な組織だから、そんなことできないんじゃないのか?という疑問もでてくると思います。しかし、考えてください。老舗企業と呼ばれている組織は全く革新的なことをやっていないのかというとそうではないと思います。老舗企業は、組織の理念というベースは維持しつつ、社会の状況や顧客ニーズの変化を読み取り、顧客が求められているニーズに応えることでその組織独自の能力や商品を向上させ、組織を継続的に発展させてきました。

 また、卓越した経営とは、近江商人的ないえば、三方よしの考え方に近いです。つまり、「売り手良し」=社員満足度をあげる&適正な利益をあげる。「買い手良し」=顧客満足度を上げる。「世間良し」=社会的に貢献する、これらを継続的に発展させていく経営のこととなります。

 つまり、経営品質とは、顧客視点から経営を見直し、自己革新を通じて顧客の求める価値を創造し続ける組織を作り上げることにより、従業員、顧客、社会の満足度を上げていくことといってもよいと思います。

 当然のことながら、経営品質の向上に取り組んだからといって人材育成と同様に、すぐに目に見える効果を出すのはなかなか難しく、中長期的な視点で見ていくことがほとんどだと思います。この点については、日本総研が公開している経営コラム「経営品質活動はなぜ定着しないのか(http://www.jri.co.jp/page.jsp?id=6854)」を 一読していただきたいと思います。結論としては、経営トップが先頭を切って、経営品質については十二分に理解した上で、経営品質を向上させていくための施策を実行していく覚悟が必要なのです。

 経営品質については書き始めると、本が1冊はかけるぐらいですので、今回は、紹介程度に抑えつつ、参考になるサイト、本などを紹介していきます。

 では、経営トップが覚悟を決めた上で、その経営品質を向上させるためにはどうしたらよいのでしょうか?

 まずは、基本的な理念として、

  • 顧客本位  •独自能力  •社員重視  •社会との調和

という4つの要素があります。

(参考)http://www.jqac.com/contents/index.asp?patten_cd=12&page_no=21

 ここでいや違うという方は、経営品質というモノの見方をするかどうかを再検討したほうがよいかもしれません。上記が理念で進めていくことに問題がないのであれば、この4要素を満たしていくために必要な考え方が、以下の9つです。

(1)コンセプト
(2)変革
(3)価値前提
(4)プロセス
(5)創発
(6)対話
(7)戦略思考
(8)ブランド
(9)イノベーション

 この9つの考え方を具現化するために作られたフレームワークが、日本経営品質賞 アセスメント基準書に書かれています。

 今までの経営活動の自己評価を経営者、従業員などに対して実施していきます。これをアセスメントと呼びます。このアセスメントでは、経営トップが考える理想的な組織と現状とどのぐらいギャップがあり、現在のレベルを測り、伸ばすことができる強み、改善すべき課題を見つけ出すことが目的となっています。

 この日本経営品質賞 アセスメント基準書のフレームワークは、業界、組織の規模にかかわらず、活用できるようになっています。つまり、汎用性が高いフレームワークですが、逆にいうと、汎用性が高すぎてとっつきにくいということも、私自身も感じました。実際、この基準書だけでは、そういうフレームワークがあるという意味では参考になりますが、どうやっていいのかわからないかもしれません。どうしてもわからない場合には、コンサルタントを活用する、もしくは、日本経営品質協議会のセルフアセッサー研修を受講するということを一考してください。このセルフアセッサーの研修では、日本経営品質賞を受賞した組織の従業員も参加することが多いので、どういうことを行っているのかを参考することができると思います。なお、最新の基準書は2017年度版ですが、2014年度に改訂されました。そのため、上述の日本総研の記述とは異なることがありますが、基本的な考え方は同じです。フレームワーク図等については以下のリンクを参考にしてください。

http://www.jqac.com/contents/index.asp?patten_cd=12&page_no=22

 このフレームワークを活用することによって、組織の基本的情報をまとめ上げることができると思います。日本経営品質賞 アセスメント基準書では、このフレームワークを活用しながら作成した組織の基本情報を組織プロフィールと呼んでいます。この組織プロフィールを作成するにあたっては、当然、役員、従業員などの対話を元に作成していき。現状をどのようにして理想的な組織になるかという戦略課題をもとに、その組織の成功ストーリーと新たな成長のための方向性という戦略を考えます。

 戦略には、いろいろなことが考えられると思いますが、最も効果があると期待できるものを選択して、誰が、何を、何のためにどのように実行していくのかを考えていきます。そのため、その成果を確認するために指標や目標(KPI、定性目標、定量目標など)を設定して、どのくらい達成したのかを確認することが大切になります。

 この確認がアセスメントという評価になります。

 この評価を作るにあたっても、前述の日本経営品質賞 アセスメント基準書のフレームワーク毎に、評価の視点という質問項目をつくるなど評価計画を作成していきます。しかし、実際にやってみるとわかるのですが、フレームワークに基づいて、プロフィールを作成し、そのプロフィールに基づいて、評価の視点を作成すると、自社でやっていることのみを記述しがちになります。それを防ぐために、アセスメント基準書に記載されていた視点を自社にカスタマイズして、業界全体ではどうなのかといった広い視野を持って作成してくことが重要です。自分で行うアセスメントをセルフアセスメントといいますが、多くの人がここで自社が行っていることのみの評価の視点を作りがちですので、ここはある意味セルフアセスメントの山場の1つとなります。

 これらの評価を元に、今後の方針を決めて、課題解決の見直しや実行を再度繰り返すという形で進めていきます。

 正直なところやってみないと、実感が沸かないと思いますが、まずは経営品質の考え方が理想論で青二才なこというじゃない。世の中そんなに甘くないよという方もいらっしゃると思いますが、組織を良くしていきたいという考えを持っている人は、まずは経営品質とはどういうものなのかに触れてみたり、日本経営品質賞を受賞した組織の報告書が販売されていますので、まずは一読してみてはいかがでしょうか?

 なお、私の経営品質の師であり、かつて自身が経営する飲食店で経営品質賞を受賞したコンサルタントの著書『「最良だから最強」な組織づくりの定石  望月 広愛著 』もこの経営品質の考え方がベースとなっています。ご興味のある方はぜひ参考にしていただければと思います。

 私自身、現在セルフアセスメントを実施する人という「セルフアセッサー」の勉強をしておりますが、非常に奥深く、その評価の視点が組織ごとに適したものができるかどうかが鍵だと考えています。組織をより良くしていくためにはどうしたらよいのか、独自性を作り上げるにはどうしたらよいのか、それの手助けのツールの1つになるのが経営品質になるはずです。

●略歴
松島 大介
東京都中小企業診断士協会中央支部国際部部長
株式会社国際協力データサービス 総務課勤務
企業内診断士として、勤務先の経営改善に努めています。