井村 正規

2018年の夏はいろいろな意味で記憶に残る夏だった。連日35度を超える酷暑の日が続き、中国地方や関西での台風被害、北海道では震度7の地震も発生した。
関空と千歳の両空港が同時に閉鎖される事態も発生し、外国人観光客をターゲットとする中小企業経営者にも深刻な打撃を与えている。
関空は主要なエリアでの水没による停電と連絡橋の事故により孤立化した。
北海道でも地震発生後の度重なる余震とともに広い範囲での停電が被災者の不安を高めたものと思われる。
そのような非常事態において、いくつかの企業での「緊急時への備え」が話題となった。いわゆるBCP(Business Continuity Plan:事業継続計画)である。

北海道の石狩地区に主要なデータセンターを保有する「さくらインターネット」では48時間の停電に備えた燃料の備蓄は実施していたものの、停電発生時には復旧のタイミングはわからない。石狩市役所・経済産業省等々との連携も受けつつ、システムをダウンさせないことを第一に対応をつづけ、想定を超えた60時間を非常用電源で乗り切ることができた。
同じく、北海道を中心に1000店舗を運営するコンビニチェーン「セイコーマート」は平常時より停電に備えてのマニュアルや自家用車から給電するキット、停電時でも稼働する会計用端末等を準備していたことで、街灯や信号機が停電するなか、従業員が出社できない店舗を除き約95%の店舗で営業を継続し、被災した道民にガスで暖めた食事やパンや電池の販売でネット上では神対応として高い評価を得ている。
また、孤立化した関空では、停電により冷蔵設備が使用できなくなった飲食店では商品を廃棄するよりもと、店長判断で行き場のない乗客たちに大阪で有名な肉まんを無料で提供したこともネットを中心にニュースとなった。

BCPはまず、どのような事象が発生すると自社の営業に大きな影響がでるかという前提の想定が重要である。
その前提となる災害が発生した際に営業を継続するためには何が必要であるかを確認、整備する。
更にそれ以上に大切なことは、平時に災害を想定しての訓練も必要だ。
災害は忘れた頃にやってくるということは良く耳にするが、災害は想定を超えてやってくるものでもある。
想定を超える被害が発生した場合に何をやらねばならないか。自社の従業員はどのような行動をとるべきか、お客様であるか否かを問わず、困っている人を助けるために無料で肉まんを提供する判断をした関空の店長のような考えに立てるか、日ごろから怠りのない準備を進めておきたいものである。
営業を途絶えさせないというだけでなく、お客様からの信頼を大きく勝ち取ることができるものであり、困っている人に手を差し伸べるというSCR(企業の社会的責任)をも果たすことにつながっていくものである。
BCPの計画策定をどのように行えば良いか、よくわからないという経営者の方はぜひ、中小企業診断士にお声掛け頂ければと思う。

【著者紹介】
井村正規(いむらまさのり)
1962年生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。双日株式会社勤務。入社後一貫して財務畑を歩むが、大連・ニューヨーク・シンガポール・香港・北京・上海の海外勤務時代は財務のみならず、会計/リスク管理/経営企画等々の管理部門を統括する。2010年診断士登録。診断士試験合格後に開設したブログ「中小企業診断士一発合格道場」では初代JCとして多くの受験生の支持を得る。診断協会中央支部執行委員、国際部副部長、マスターコース「経営革新のコンサルティング・アプローチ」運営団体BCNG幹事、診断士三田会世話人、双日グループ診断士会会長。2018年には新規に支部認定研究会「プレゼンスキルアップ研究会」を発足、会長に就任。
連絡先:imura.rmc@gmail.com