加賀城 剛史

 建設業界は、東京五輪需要で開発が旺盛で、優秀な技術者・技能者の確保が経営者にとっては最大の関心事です。しかしながら「2020年以降の準備はできていますか?」という質問に明確に答えを見いだせる建設企業がどれだけ存在するでしょうか。

 建設業は典型的な地場型、労働集約型産業です。従って、1990年代までは、景気が後退局面になり失業率が高くなると雇用対策として、官工事(投資)が増えました。しかしながら、2020年の東京五輪が終わると、そのバランスも崩れてきます。
 前回の調整期である、ポストバブル期の公共投資調整期には、建設業から農業・介護業などを含む広範囲な異業種参入の成功と失敗が見られました。
 今後、2020年以降迎える調整期では、アジア諸国の急速な経済発展により、建築物、社会インフラへの投資ニーズが今後とも急激に膨らんでいることが異なります。
 そのため、アジアを中心として海外進出を狙う中小建設業も増加、海外建設展開が成長戦略の柱の一つと考える企業も少しずつ増えています。本コラムでは海外進出を検討し始める建設業が最初に検討しなければいけないポイントについて記述します。
 

1)建設業の将来投資、海外への期待

 我が国の建設投資額は、平成4年のバブル期にピークの84兆円、リーマンショック期にボトムの42兆円で、現状(平成30年見通し)は53.9兆円です。この数値は、全産業の中でも自動車産業に次いで2位であり、依然として建設業が我が国を支える主要産業であるといえます。しかし、少子高齢化が進み人口減少社会の中で、建設市場は維持あるいは微減が推測されています(図1)。
201812-図1
出典 ~H29「平成29年度建設投資見通し」総合政策局情報政策課 建設経済統計調査室
   H30 建設経済モデルによる建設投資の見通し(2017年4月)

図1 建設投資額の推移

 

 こうした中、海外に目を向けると、全世界の建設投資額は28年前の81兆円から2015年には404兆円と5倍に増加しました。特にアジア地区の増加が著しいです(図2)。
201812-図2
出典 archibookホームページ、(National Accounts Main Aggregates Database (United Nations)に基づいて作成)

図2 世界の建設市場の伸び(単位 兆米ドル)

 海外建設市場に進出するにあたっては、日本国内には見られない様々なリスクを考慮する必要があります。
 

2)海外進出におけるリスク

 建設業は契約期間が非常に長期で、品質、コスト、工期、契約管理が難しいです。そのため利益確保には大きく分けて2つのリスクが常に付きまといます。
 こうしたリスクは、回避可能なもの、不可能でも影響が限定的なもの、回避不可能なもので現地での経営を圧迫する可能性が高いもの、に分けられます。事前に入念な調査を行ったうえで、事業計画を立て、現地経営が持続可能であるかの検証が必要です。

1. カントリーリスク
(1)政治リスク:政権の安定性による建設業法や貿易法の改正、地方自治体職員の権限、法制度理解、法治認識の欠如
(2)経済リスク:為替変動、現地景気の高低
(3)社会リスク:宗教、労働争議、給与面などの統制の取り方

2.事業展開リスク
(1)施工上のリスク:調達計画、品質管理(構造耐久性のシビアさ、仕上の甘さ)、 ローカル業者の施工能力
(2)契約リスク:海外契約方式による違い
 

3)海外進出を成功させるために

 では、海外建設事業を調査して出てくるリスクを取り払い、海外事業の利益を確保するために、中小企業ではどのような対応が必要でしょうか。

1.差別化要素の明確化と現地ニーズとの整合性
 進出予定国にとって付加価値が高い技術やビジネスモデルを活かす視点が必要です。
 有望な技術分野、諸外国に比べ日本の技術が費用対効果で有利になる分野として、特殊ノウハウが必要な地下構造物(トンネル、地下鉄、地盤改良)、海岸海洋、ダム、発電、上下水、防災、日本庭園、急速施工、維持管理の合理化 があります。

2.海外事業に耐えうる資産を持っていること
 ここでいう資産とは、「資金」と「人財」です。海外進出は、ビジネスが成り立つまでに時間と多額の投資が必要です。調査から数年を要すため当初資金については、内部留保による資金の裏付けが必要でしょう。
 組織人材面では、「日本の経営意思決定スピードは遅い」ということがあげられます。素早く問題を理解し、解決策を言語化し、チーム及び外部関係者と統一したスタンスを持つ。こうした頭を切って走ることができる人財の育成が必要です。

3.現地での営業展開上の工夫
 3番目は、現地で営業ができるような支援策です。事業形態(スーパーバイズ(技術指導)、ライセンス、輸出入、施工)、進出形態(プロジェクト、現地法人支店)、対象(ODA、本邦企業への施工、現地市場)をそれぞれ調査し、最適な展開により進出する必要があります。

【略歴】
加賀城 剛史(かがじょう たけし)
建設コンサルタント会社で海外道路交通施設の計画・設計並びに関連する公企業・中小企業の経営支援に従事したのち、2013年中小企業診断士登録、独立。
現在は建設業、製造業を主体に、創業支援、新事業実行計画、補助金申請支援、海外展開支援を行う。